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しおりを挟む男爵令嬢側のミーシャを突き飛ばした理由が書かれた調書を読んだ。
騎士のカーティスが分厚いメガネをかけた女性と歩いていたということが、騎士の訓練を見に来た令嬢たちの中で話にあがった。
朝に話をしていた。
夕方一緒に歩いていた。
街で買い物をしていた。
今まで令嬢を相手にしていなかったカーティスが向き合って笑顔で親しくしている女性。
誰もが納得できる令嬢ならともかく、驚くようなメガネをかけたパッとしない女。
カーティスの隣に並ぶことが許せなかった。
その女性を見かけたので、忠告してやろうと突き飛ばしただけ。
痛い目に合うと自重するだろうから。
それなのに………メガネが落ちた後の素顔を見て意味がわからなかった。
どうしてこんなに美人なのに、メガネで顔を隠しているのか。
それを呆然と見ていた時に騎士に拘束された。
………という調書だった。
ミーシャはメガネで顔を隠しているのではなく、単に目が悪いからメガネをかけているのだが。
美人が顔を隠しているという発想もあるのかと関心した。
ミーシャが侯爵籍であることを言うと、男爵令嬢は真っ青になったらしい。
貴族だろうが平民だろうが、暴力はいけない。
初めから素顔を晒してくれていたら、カーティスとお似合いなのでこんなことはしなかったと叫んだとか。
どうしてメガネのミーシャはダメで素顔のミーシャならいいのか。
カーティスの隣には美人じゃないとダメだというその理由がわからない。
自分が好ましいと思う相手を否定されるのは、誰でも嫌だと思うのだが。
今後の戒めも含め、おそらく半年ほど社交禁止に騎士団見学禁止になるだろうということだ。
婚約者のいない令嬢には辛い処罰だろう。夜会だけでなくお茶会にも出席できないのだから。
婚約者がいたらいたで、婚約解消などの問題にもなり得たかもしれない。
それと、その期間は奉仕活動に精を出すように言われていた。
もちろん、メガネのフレーム代も払ってもらうことにする。特注だからな。
おそらく、ミーシャの素性を調べあげている令嬢が何人かいるはず。
看取り婚の実態を知らない令嬢は、好色老人に嫁がされて未亡人になったと思うだろう。
看取り婚の実態を知っていて、実家に戻らずに侯爵籍のままであるということを冷静に理解できる令嬢はミーシャに危害を加えることはない。
むしろ、カーティスや侯爵家に近づこうとミーシャに寄ってくる可能性もある。
それをミーシャにきちんと説明しておかなければならないと思った。
ミーシャを家まで送りながら、令嬢が好意的に近づいてくる可能性もあることを説明する。
お茶会に誘われても断っていい。
単なる令嬢より前侯爵未亡人の方が地位は上になる。
困った時は、侯爵に確認すると逃げればいい。
見た目を批判されることがあれば、目の前でメガネを取ったらいい。
嫌かもしれないが、それも武器の一つだ。
いずれ、薬が開発されたら、素顔で歩く日が来るのだから。
カーティスの説明に、一応頷いて理解したことを示したが、久しぶりの視界の悪さに外を歩くのが怖くなっていた。
それでも、このメガネを買ってくれていたおかげで明日も仕事ができるのだと思った。
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