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しおりを挟む私の頭はカーティス様が言った言葉を理解しようと必死に働いていた。
『ミーシャ。俺と婚約しないか?』
婚約。結婚の約束。
結婚。夫婦になること。
この場合の夫婦って私とカーティス様ってこと?
どうう答えるのが正解なのかわからず、呆然とカーティス様を見ることしかできない。
「ミーシャは自分が結婚することを考えたことはあるか?」
「ありません。」
アロイス様との結婚は普通の結婚とは意味が違ったし、そもそも元両親にもそんな気はなかったので働きに出るものだと思っていたから。
「だよな。だがもし、断りにくい縁談が来たとしたら?
仕事を辞めて貴族夫人としての日常を強いられるかもしれないとなったら?」
「断りにくい縁談、ですか?」
「うん。いくらうちが侯爵家といってもあり得ないことではない。
公爵家や他の侯爵家の次男や三男、あるいはその親戚の嫁にと請われる場合とか。
伯爵以下はミーシャが望まない限り断れる。」
「仕事をしているような私に来る縁談なんてないんじゃ……」
貴族令嬢の礼儀作法なんて最低限しかできないのに?
アロイス様と暮らした時に改めて学びなおしたくらいで、あまり身についてないし。
普段の生活から貴族仕様なんて、絶対無理。
「それはわからない。
確かに貴族令嬢が働くのは未婚が多いけれど爵位を継がない結婚は共働きもあり得るから。
騎士とか侍女とかには割とある。」
「相手の方が望まなければ働けない?」
「ああ。ミーシャに結婚の意思がなくてもどこかで見初められるかもしれない。
だけど、俺と婚約すればそういった問題はなくなる。」
「でも、カーティス様は結婚したくないって………」
言ってなかった?女性と目を合わせると誤解されるから嫌だって。
「そう思っていたんだが、独身でいたらいつまで経っても狙われる。
その状況にもウンザリなんだ。婚約したり結婚したりすると、狙いから外れられる。」
「でも、カーティス様は誰でも選べるのに。
あるかどうかもわからない縁談のために私と婚約しなくても。」
「ミーシャがいいんだ。堅苦しい令嬢も騒がしい令嬢もお断りだ。
母と義姉以外に俺が話をして苦痛にならないのはミーシャだけだから。
ミーシャと話すことも出かけることも楽しいと思ってる。
いいと思わないか?今のままの気楽な生活。目の薬の研究もできるし。
社交なんてしたくないだろう?」
うん。社交なんて絶対にお断りだわ。研究も続けたい。今の生活がすごく楽しい。
侯爵様たちはすごく優しいから、このまま働いても許してくれるだろうし。
カーティス様は次男だから、騎士を続けるだろうし。
貴族らしい生活を強いられないってことよね。
あら?断る要素ってなにもないの?
「婚約だけじゃなくて、その先に結婚もある本当の?偽装じゃなくて?」
「ミーシャが良ければ、もちろん結婚も望んでいる。偽装ってなんだよ。
それに、俺は絶対に浮気なんてないから安心していい。
でもまぁ、結婚はゆっくり考えればいいよ。
婚約しているのに横やりを入れてくる奴は侯爵家にケンカ売るようなものだから。」
「私だけじゃなくてカーティス様にも有益な婚約っていうことはわかりますが……
周りは私で納得してくれるのかな。」
「周りよりもミーシャの気持ちの方が俺には大事かな。
周りなんて身勝手な言い分を押し付けるだけなんだから。
俺に嫌悪感なんてないだろう?今更あるって言われたら驚くけど。
大体、貴族の結婚なんて、婚約してから仲を深めていく方が多いんだ。
つまり今の俺たちが婚約して、いがみ合うなんて有り得ないだろう?」
「……確かに。なら、いい、のかな?」
うん?このまま本当に婚約して不都合なことはない?なんだろう、何か忘れてる気もするけど。
「よし!両親や兄上たちにも話をしておくよ。正式な婚約は侯爵家で交わそう。
準備が整ったら連絡する。じゃあ、またな。」
あら。本当に婚約することになりそう。私が?カーティス様と?……現実味がない。
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