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しおりを挟む侯爵家に戻り、両親と兄夫婦にミーシャと婚約することを伝えると誰もが驚いた。
「私たちの中では、何度もお前たちが一緒になってくれればいいのに、と話には上がった。
だけど、お前は絶対に結婚する気がないと思ってたんだ。……何かあったのか?」
「何か、という特別なことはない。
俺を侯爵家の者だとか、顔がいいとか騎士という枠組みで見ないミーシャと話すのは好きだ。
そのミーシャを誰かに取られるかもって思うと、面白くなくてね。
妹みたいに思う感情とは違うものがあることに気づいたってとこかな。」
「なるほどな。でもよくミーシャが婚約を受け入れたな。
あの子はお前に恋愛感情があるわけじゃないだろう?」
「そこは、少し言い包めて、ね。」
協力も必要なので、言い包めた内容を伝えることにした。
ミーシャに断れない縁談がくる可能性があること。
仕事を辞めて貴族夫人としての生活を求められる可能性があること。
カーティスもミーシャと婚約することで煩わしい女性が減る利点があること。
カーティスとなら社交しなくていいし、仕事を続けてもいい。
今のままの気楽な生活を続けられるということ。
「あながち違うとも言い切れないな。」
父の言葉に、みんなが苦笑して頷いていた。
「最近、騎士団内でもミーシャ狙いが増えてきたんだ。
素顔が美人なのは知ってるし、メガネ姿も見慣れて、話もしやすい。
浪費もしなさそうで、仕事もしていて令嬢っぽくないし家持ち。
特に下位貴族の次男、三男には魅力的みたいだ。」
「言われてみればそうだね。騎士の給料だけで平民ならともかく令嬢を養うのは難しい。
もちろん、令嬢時代の暮らしを続けるならばってことだけど。
継ぐ爵位がないから平民の女性と結婚するとしても親が難色を示すことも多いからね。」
「お前はどうする?子爵位でもいるか?」
「いえ、それは今のところはいいです。
騎士はまだまだ続けるし、ミーシャも目の薬の研究に忙しいし。」
「結婚したらあの家で十分ってことか。爵位があったら付き合いも増えるしね。」
家族の誰からも反対はされず、書類を用意すればいつでも婚約できる。
ミーシャが冷静に考えて躊躇する前に、翌週の休みに手続きをすることになった。
翌週、ミーシャは迎えに来たカーティスと共に侯爵家を訪れた。
ミーシャの頭の中はグルグルと同じことばかり考えていた。
『カーティス様と婚約?こんやく?あれ?本当にいいのかな。婚約?結婚???』
そんなミーシャに薄々気づきながらも、カーティスはさっさと手続きをしてしまおうと両親が待っている居間へと足を進めた。
「ミーシャさん、カーティスと結婚してくれるなんて嬉しいわ!」
侯爵夫人の第一声により、頭の中でグルグルしていたことが吹っ飛んだ。
……まずは婚約からですよ?
「ミーシャさんにいずれ縁談が持ち込まれたり好きな人が出来たら、会う機会が減るでしょ?
そうなったら寂しいと思っていたの。
カーティスが相手なら、私たちの娘になるのだもの。嬉しいわ。」
「あ、ありがとうございます。そう言っていただけて私も嬉しいです。」
「カーティスはどこかの貴族家に婿に入るのも、気位の高い令嬢を貰うのも無理だろうからな。
面倒な結婚をするよりも独り身が気楽だろうと意思を尊重するつもりだったが……
君と普通に話す姿を見て嬉しかったんだよ。
やはり心許せる相手がいるに越したことはないからね。」
侯爵夫妻に歓迎されて、素直に嬉しかった。
そうだ。結婚すると家族ができる。
見知らぬ誰かの親兄弟より、この侯爵家の温かいみんなとずっと家族でいられる。
そう思うと、感じていた不安らしきものもスーッと消えていった。
こうしてミーシャは、正式にカーティスの婚約者となった。
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