心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん

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鉱山の譲渡について、行政代理人が知る15年前の経緯はこうだった。


先代侯爵は、その当時から20年ほど昔に妻を抱いた慰謝料を払えと先代伯爵に言われた。
身に覚えはないが、酔って寝てしまうと気づけば隣に女性がいたことは何度かあった。
慰謝料と言われても記憶はないし、性交の確認に医師を呼ぶと言えば女性は逃げる。
酔っていても妻以外を抱くとは思えなかったし、大体は誰かが企みに気づいて助けてくれた。

先代伯爵の怒りは本物で、おそらく夫人が嘘をついているのはわかっていた。
ひょっとすると先代侯爵夫人から愚痴を聞いたことがあるのではないかと思った。
先代伯爵夫人はその時、先が長くなかったという。
聞いた話を妄想で自分に起こったことだと思い込んでいるのかもしれない。そう思った。
先代伯爵が、侯爵の妻にもバラすと言ったことで大事にしたくはないと考えた。

だが、悪くもないのに金を払う気にはなれず、考えたのが鉱山。
書類を間違えたとワザと伯爵家から遠い鉱山を譲渡した。
慌てて変更を頼んだ侯爵を見て宝の山だと思った先代伯爵は案の定、変更を受け入れなかった。

そして、手をつけるのが難しいと悟った先代伯爵が悔しがるのを見て嫌がらせは成功した。

数年後、その鉱山を取り返す手段の一つとして、孫たちの婚約の条件に組み入れた。

婚約がなくとも、伯爵家はいつか買ってくれと言ってくるはず。
侯爵家としては買っても買わなくても別に構わないのだ。買わないのも嫌がらせになる。
伯爵家が売れるのは侯爵家のみという決まりも設けているし、所有期間も設けてある。

この嫌がらせのような鉱山の問題がどの時代で解決するかが楽しみだった。と言う。


行政代理人の話に、侯爵も伯爵も呆気にとられてしまった。
 

「なんだ。父のお遊びに振り回されただけか。」


侯爵は父が鉱山を賭けの対象としたことも不思議だったし、鉱山を間違えたという説明にも疑問を感じていた。
伯爵家は書類をきちんと読んでいるのかは疑問だが、そもそも譲渡期間がある。
それは30年なのだ。すでに半分の15年が過ぎた。

セラヴィが来年に伯爵家に嫁いでいても、伯爵家が採掘できるのは14年間。
そのうち、専門家や人員を集めて住まいを確保して……となると、どう頑張っても10年ほどしかない。
採掘に取り掛かるのであれば、嫌がらせに面倒なところを伯爵家に任せようとしていただけなのだ。
30年が過ぎ、鉱山を取り戻した後は、侯爵家がセラヴィにも所有権を与えて定期的に金を送るつもりだった。
もちろん、その金をセラヴィが伯爵家のために使うことも考えていた。
要は、セラヴィが伯爵家で困らないようにしようと鉱山を利用しようとしただけだ。


これは、セラヴィが婚約する時に前侯爵と一緒に考えた条件だった。
前侯爵は30年手つかずで戻ってくると思っていたが、トレッドとの婚約話によって変更したのだろう。

おっとりとしているセラヴィには、伯爵令息辺りが合ってると父も自分も思った。
隣の領地であれば、伯爵領のことも把握しやすいため財政状態もわかる。
不穏な状況になれば連れ戻すこともできるし、侯爵家から領地を管理する人材を派遣してもいいと思っていたので婚約を認めたのだ。

まさか、来年結婚というこの時期に、トレッドから婚約解消を言い出すとは誰も思わなかった。


前侯爵は前伯爵と本当に仲が良かった。
やってもいない不貞の慰謝料代わりに嫌がらせのような鉱山を譲渡したことは、お遊びであり、復讐でもあったのだろう。
20年前の不貞?
本当にあったのであれば、前伯爵夫人が黙っていたはずはないし、その後20年も侯爵夫妻と隣人付き合いを続けられたはずがないのだ。
それを考えず、前侯爵に言いがかりをつけた。

自分を信じてくれなかった友人に対しての愛憎が入り交じった復讐ということだ。

死ぬ前にひと言、この経緯を伝えていて欲しかったと侯爵は思った。



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