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しおりを挟む街での噂を使用人が持ち帰ってミンディーナが聞いたのは、セラヴィがトレッドに婚約解消を伝えられた数時間後だった。
ミンディーナは、『やはり』と思った。
友人セラヴィの婚約者であったトレッドの、ここ最近の行動は目に余るものがあった。
セラヴィにも放っておいていいのかと何度か確認をしたけれど、彼女はトレッドを信じていた。
だけど、ミンディーナはトレッドという男が信じられなかった。
婚約者の目の前でだけでなく、誰が見ても他の令嬢に恋しているとあからさまにわかるような男なのだから。
ミンディーナだけでなく、令嬢たちは冷ややかな目でトレッドとナリアを見ていた。
セラヴィが言うには、学園以外ではトレッドは昔と何も変わらないらしい。
それに、卒業すれば隣国に帰るナリアには会わなくなる。
来年には自分たちは結婚するので、ナリアのことも忘れるだろうから。
そう、少し寂しそうにセラヴィは言った。
まるで、それまでの我慢だと自分に言い聞かせているのではないかと思った。
10年も婚約者でいた。それに、婚約前からも幼馴染で一緒にいた期間はとても長い。
顔以外、どこに魅力があるのかわからなかったけど、セラヴィがトレッドのことがとても好きなのがわかっていたし、ナリアが留学してくるまではとても仲睦まじい2人だった。
だが、観察しているとセラヴィがトレッドのお世話をしているようにしか見えない。
ミンディーナから見れば、セラヴィが婚約者だからトレッドという男も評価されていたのだと思う。
そんなセラヴィを、トレッドという男は捨てたのだ。
ミンディーナはトレッドが許せなかった。
大切な友人を傷つけたのだ。
セラヴィのことが心配になり、会いたいと手紙を書いて届けてもらった。
翌日の午後なら、と返事をもらいミンディーナはセラヴィに会いに行った。
「セラヴィ、あぁ、泣いていたのね。目が腫れてるわ。」
「ミンディーナ、来てくれてありがとう。さっきね、婚約破棄の手続きが終わったわ。」
もう終わったの?解消じゃなくて、破棄なのね。当然だわ。
「昨日の午前中、学園にいるまではいつもと変わらなかったわよね?
トレッドとナリアが街で浮気していたという噂は聞いたわ。それが原因で婚約破棄を?」
「違うわ。正確には、その前にトレッドが婚約解消したいと言いに来たの。
街でのことは、私が婚約解消を認めてからのことなの。
だから、浮気とは言えないと思うの。」
噂でも、『婚約解消することになったから付き合ってほしい』とトレッドが言ったと聞いたわ。
だけど、ナリアとは会う約束をしていたってことでしょ?しかもあんなに目立つ場所で。
それは婚約解消を認める前のことのはずよ。
「手続きしたのはさっきなんでしょ?浮気と同じだわ。
それに、あなたに婚約解消を告げたことを親に言わずにトレッドは街で遊んでいたってことね。
トレッドの親は街での噂を先に聞いて、帰ってきた彼を叩いたそうよ。当然よね。」
トレッドの家の使用人から、新たな情報が入ってきたのだ。
伯爵は怒り心頭なのに、トレッドは危機感もなく暢気なことを言ったという。
侯爵の怒りが治まればセラヴィと友人として元通りになると思っているというのだ。
使用人たちは、その発言を聞いて新たな職探しのために他の貴族家の使用人たちに接触し始めているのだ。
トレッドのような危機感のない跡継ぎでは伯爵家の未来は明るくない。
紹介状を書いてもらえるうちに、次の職場を探し始めているらしい。
昨日の今日で、伯爵家は使用人にも見放されているようだ。
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