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しおりを挟むトレッドが親に了承を得る前に独断で婚約解消を言い出して、昨日の今日で婚約破棄の手続きまで済ませてしまったということはセラヴィの父である侯爵様は相当怒っていることはわかる。
伯爵家は侯爵家との縁が切れたことによって、貴族社会でも信用できない烙印を押されることだろう。
伯爵令息が何の非もない格上の侯爵令嬢に婚約解消を言い渡し、怒った侯爵が逆に婚約破棄を言い渡したということになる。
トレッドには危機感がないようだけれども、伯爵にはあるはず。
セラヴィがトレッドに情があるうちに、復縁を迫る可能性があるのではないか。
この心優しいセラヴィが、許してしまうのではないかとミンディーナは心配だった。
「ねぇ、セラヴィ。トレッドが謝ってきたとしても復縁することなんてないわよね?」
「ふふ。ミンディーナもお父様と同じようなことを言うのね。
さすがにもうトレッドのことは信じられないわ。
一度許してしまうと、何度も同じことを繰り返されるかもしれないもの。
それは耐えられないわ。
私、彼を信じて待っていたの。
たとえ、よそ見をしても彼女の手を取らずに戻って来たら許したわ。
だけどトレッドは彼女の手を取ってしまったの。
私はトレッドが離した手を再び握ることはできないわ。
侯爵家が馬鹿にされてしまうもの。
もう誰とも結婚するつもりはないわ。」
セラヴィはやはりまだトレッドのことが好きなのだとわかった。
セラヴィが下位貴族であったなら、謝って来たら復縁したかもしれない。
だけど、侯爵令嬢であるため家が舐められないように復縁など受け入れられない。
いくら心優しくても、そこはさすが侯爵令嬢だったことにホッとした。
「セラヴィ、うちの領地へ遊びに来ない?2番目の兄がいるの。
あなたの気持ちを誰よりも共感してくれると思うわ。」
2番目の兄も婚約破棄された。
当時の落ち込みはひどく、領地へと引きこもった。
今は立ち直ってはいるが、もう誰かと結婚する気はないという。
跡継ぎは一番上の兄だから問題はない。
ただ、もう結婚するつもりはないと同じことを言っているセラヴィの話を聞いてあげたり、前を向く助言をできるのではないかと思う。
そして、お互いに結婚はしなくても友人として仲良くなってくれればいいのに、と考えたのだ。
次男の兄と侯爵令嬢であるセラヴィはつり合いが取れない。
2人が結婚してくれたら、なんて思うことも現実的ではない。
兄が社交界に出てくることは、おそらくもうない。
元々、人前が苦手だったし婚約破棄はセラヴィたちほどの騒動にはならなかったけれど、王都で知り合いに会いたくないだろうから。
そう思うと、長期休暇後の学園後期がまだ残っているセラヴィは可哀想だ。
トレッド有責とは言え、セラヴィがナリアに負けたように噂する者たちは必ずいるから。
なので、学園が始まるまでにセラヴィは立ち直る必要がある。
家族や私では、トレッドを忘れろとか、セラヴィは悪くないとか、そんなことを言うだけでセラヴィもそれに同意して終わるだけだと思う。
年月が過ぎれば兄みたいに立ち直ることはできるだろうけど、セラヴィはひと月半後に学園が始まるのだ。
今の状態のままトレッドとナリアが一緒のところを見れば、セラヴィの心は壊れてしまうかもしれない。
だからそれまでに、セラヴィが立ち直れるように荒療治するべきなのだ。
それが、同じ思いを経験している兄にできることだとミンディーナは考えた。
「ミンディーナのところの領地に?
2番目のお兄様、ライガー様がいらっしゃるのね。
せっかく立ち直ることができたのに、私のことを不快に思われないかしら。」
「同じ経験をして立ち直った兄だからこそ、話しやすいと思うし助言もしてくれるわ。
兄は聞き上手なの。無理に話せとは言わないわ。
ただ私と領地に遊びに行くだけって思ってくれればいいのよ。」
「ふふ。そうね。王都にも領地にもトレッドとの思い出がありすぎて今はつらいわ。
お言葉に甘えて、違う領地遊びに行くのもいいわね。」
2日後に領地へと向かう約束をして、ミンディーナは家に戻り、領地の兄へと手紙を書いて送った。
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