心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん

文字の大きさ
11 / 36

11.

しおりを挟む
 
 
トレッドが親に了承を得る前に独断で婚約解消を言い出して、昨日の今日で婚約破棄の手続きまで済ませてしまったということはセラヴィの父である侯爵様は相当怒っていることはわかる。

伯爵家は侯爵家との縁が切れたことによって、貴族社会でも信用できない烙印を押されることだろう。
伯爵令息が何の非もない格上の侯爵令嬢に婚約解消を言い渡し、怒った侯爵が逆に婚約破棄を言い渡したということになる。

トレッドには危機感がないようだけれども、伯爵にはあるはず。
セラヴィがトレッドに情があるうちに、復縁を迫る可能性があるのではないか。
この心優しいセラヴィが、許してしまうのではないかとミンディーナは心配だった。  

 
「ねぇ、セラヴィ。トレッドが謝ってきたとしても復縁することなんてないわよね?」

「ふふ。ミンディーナもお父様と同じようなことを言うのね。
 さすがにもうトレッドのことは信じられないわ。
 一度許してしまうと、何度も同じことを繰り返されるかもしれないもの。
 それは耐えられないわ。
 私、彼を信じて待っていたの。
 たとえ、よそ見をしても彼女の手を取らずに戻って来たら許したわ。
 だけどトレッドは彼女の手を取ってしまったの。
 私はトレッドが離した手を再び握ることはできないわ。
 侯爵家が馬鹿にされてしまうもの。
 もう誰とも結婚するつもりはないわ。」


セラヴィはやはりまだトレッドのことが好きなのだとわかった。
セラヴィが下位貴族であったなら、謝って来たら復縁したかもしれない。
だけど、侯爵令嬢であるため家が舐められないように復縁など受け入れられない。
いくら心優しくても、そこはさすが侯爵令嬢だったことにホッとした。


「セラヴィ、うちの領地へ遊びに来ない?2番目の兄がいるの。
 あなたの気持ちを誰よりも共感してくれると思うわ。」


2番目の兄も婚約破棄された。
当時の落ち込みはひどく、領地へと引きこもった。
今は立ち直ってはいるが、もう誰かと結婚する気はないという。
跡継ぎは一番上の兄だから問題はない。

ただ、もう結婚するつもりはないと同じことを言っているセラヴィの話を聞いてあげたり、前を向く助言をできるのではないかと思う。
そして、お互いに結婚はしなくても友人として仲良くなってくれればいいのに、と考えたのだ。
 

次男の兄と侯爵令嬢であるセラヴィはつり合いが取れない。
2人が結婚してくれたら、なんて思うことも現実的ではない。
 
兄が社交界に出てくることは、おそらくもうない。
元々、人前が苦手だったし婚約破棄はセラヴィたちほどの騒動にはならなかったけれど、王都で知り合いに会いたくないだろうから。

そう思うと、長期休暇後の学園後期がまだ残っているセラヴィは可哀想だ。
トレッド有責とは言え、セラヴィがナリアに負けたように噂する者たちは必ずいるから。

なので、学園が始まるまでにセラヴィは立ち直る必要がある。

家族や私では、トレッドを忘れろとか、セラヴィは悪くないとか、そんなことを言うだけでセラヴィもそれに同意して終わるだけだと思う。

年月が過ぎれば兄みたいに立ち直ることはできるだろうけど、セラヴィはひと月半後に学園が始まるのだ。
今の状態のままトレッドとナリアが一緒のところを見れば、セラヴィの心は壊れてしまうかもしれない。
だからそれまでに、セラヴィが立ち直れるように荒療治するべきなのだ。

それが、同じ思いを経験している兄にできることだとミンディーナは考えた。


「ミンディーナのところの領地に?
 2番目のお兄様、ライガー様がいらっしゃるのね。
 せっかく立ち直ることができたのに、私のことを不快に思われないかしら。」

「同じ経験をして立ち直った兄だからこそ、話しやすいと思うし助言もしてくれるわ。
 兄は聞き上手なの。無理に話せとは言わないわ。
 ただ私と領地に遊びに行くだけって思ってくれればいいのよ。」

「ふふ。そうね。王都にも領地にもトレッドとの思い出がありすぎて今はつらいわ。
 お言葉に甘えて、違う領地遊びに行くのもいいわね。」


2日後に領地へと向かう約束をして、ミンディーナは家に戻り、領地の兄へと手紙を書いて送った。
 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

王子と公爵令嬢の駆け落ち

七辻ゆゆ
恋愛
「ツァンテリ、君とは結婚できない。婚約は破棄せざるをえないだろうな」  ツァンテリは唇を噛んだ。この日が来るだろうことは、彼女にもわかっていた。 「殿下のお話の通りだわ! ツァンテリ様って優秀でいらっしゃるけど、王妃って器じゃないもの」  新しく王子の婚約者に選ばれたのはサティ男爵令嬢。ツァンテリにも新しい婚約者ができた。  王家派と公爵派は、もう決して交わらない。二人の元婚約者はどこへ行くのか。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

公爵令嬢ローズは悪役か?

瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」 公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。 隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。  「うちの影、優秀でしてよ?」 転ばぬ先の杖……ならぬ影。 婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。 独自設定を含みます。

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

処理中です...