心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん

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マッシュ領で過ごす休暇はあっという間に終わりを迎え、学園の後期が始まるために王都に帰る日になった。


「ライガー様、とても楽しかったです。ありがとうございました。」

「僕も楽しかったよ。また遊びにおいで。……学園に行っても大丈夫そうかな?」

「はい。心の傷は癒えました。むしろスッキリしています。」


そう。とても簡単に癒えたわ。来る時はそんなこと想像できなかったのに。
現実を認識していくと目が覚める思いだったわ。


「ははっ。まぁ非難されるべきは向こうだしね。みんな君の味方だろう。
 彼から解放されたんだ。残りの学園生活を楽しんで。」

「はい。お世話になりました。」

「……えっと、……うん。じゃあ、元気で。」

「……?ライガー様もお元気で。」


ライガーに別れを告げて、ミンディーナと一緒に王都へと向かった。

セラヴィはとてもこの休暇が楽しかった。

記憶にある休暇にはいつもトレッドがいた。
王都でも領地でも。
男と女の違いもあるが、勝手に行動するトレッドと一緒に楽しもうとするミンディーナ。
一緒に過ごして楽しいと思えたのはミンディーナだった。

今までの自分の時間を悔やむという経験をこの休暇で味わうことになったとミンディーナに話すと、うんうんと頷いていた。


「わかるわ。私も楽しかったもの。家族と友人とでは同じことをしても感じ方が違うわね。
 学生の間にもっと楽しめばよかったって私も思ってるわ。
 もう次の休暇は卒業後になってしまうけれど、セラヴィの領地に遊びに行ってもいい?」

「ええ!是非来て。ミンディーナが結婚して子供が出来たら移動が難しくなるものね。」 
 

ミンディーナは卒業1年後に結婚する予定。
貴族令嬢が嫁ぐと、次に自分の時間を取ることができるのは自分の子供が成長した後になる。
つまり、今から20年は先になるかもしれない。
貞淑さを疑われないように行動するとなると泊りがけで他領地などなかなか一人では行けないのだ。


結婚する必要もなくなったセラヴィは、侍女と護衛を連れていろんな領地に旅に出るのもいいかもしれないと思い始めていた。

学園で友人たちに、それぞれの領地のいいところや美味しいものなどを聞いてみるのもいいかもしれない。

セラヴィは卒業後の過ごし方をいろいろと思い描きながら王都に戻ってきた。
 




「おかえり、セラヴィ。」

「お父様、お母様、ただいま戻りました。」

「手紙にも書いてあったが、随分と楽しんできたようだね。」

「ええ。すごくいいところだったわ。
 卒業したら、ミンディーナにもうちの領地に遊びに来てもらうの。いいかしら?」

「いいんじゃないか。とても世話になったようだしな。」

「セラヴィが明るい顔で戻ってきてくれて嬉しいわ。」

「心配かけてごめんなさい。ミンディーナとライガー様がね、上手く話を聞いてくれたの。
 それで、わかったの。思い込んでただけだったって。
 婚約者だから好きになるのが当たり前。失恋したから悲しむのが当たり前って。
 でも婚約者ではなくなったトレッドが好きかって言われたらそれほどでもなくて。
 むしろ10年もそう思い込んでいた自分が可哀想で悲しいって気づいたの。恥ずかしいけど。
 だからその心の傷を癒すために楽しんできたわ。」


セラヴィがそう言うと、両親はしばらく固まった後に笑った。


「セラヴィの心の傷は恋の傷じゃなかったのね。
 失恋は新しい恋をすることで癒えるって聞くから、ライガー様に恋でもしたのかと思ったわ。」

「ライガー様に恋?……良い人だったけど、そんなこと考えもしなかったわ。
 トレッドとばかり過ごした時間より、この休暇の方が充実していて楽しかったってこと。」


ライガー様が頼りがいのある人だと感じたのは年上だったからかしら?それともトレッドが頼りなさすぎたせいかしら?
ライガー様は聞き上手で話し上手だから、話題に困ることもなく楽しかったわ。


「……お前に何の未練もないようでよかったよ。
 実はトレッドが何度かお前を訪ねて来ていたんだ。今更迷惑な話だ。」


トレッドが?

セラヴィは思わず眉をひそめてしまった。

 




 
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