23 / 36
23.
しおりを挟む学園後期が始まった。
セラヴィとトレッドの婚約破棄は休暇中に知れわたっており、社交界の話題としてはもう古い話と言ってもおかしくはないのだが、学園では婚約者ではなくなった2人がどんな顔で現れるか興味津々だった。
先にやってきたのはセラヴィ。
有体に言えば、彼女はフラれた側。
だが、頭も目もおかしいのはトレッドで、セラヴィは何も悪くないと誰もが知っている。
そして、前までと変わらない姿で明るく挨拶をしたセラヴィにみんながホッとした。
後にやってきたのはトレッド。
長年の婚約者で侯爵令嬢であるセラヴィを捨てて、留学生のナリアに心を奪われた愚か者。
彼の姿は、少し前とは違っていた。
男前のキラキラ度が明らかに下がっていたのだ。
全体的に痩せたように思えた。
それはそうだ。伯爵家はセラヴィの侯爵家との繋がりが切れたことにより信用を失った。
今後は契約終了や期日満了が更新されることなく、他家から縁を切られていくことだろう。
「あっ!セラヴィ、会いたかったんだ。話がしたくて。」
「トレッド様、私に話しかけないように伝えましたよね?」
「……そうだけど。本気じゃないよね?
それにそんな他人行儀じゃなくて前みたいに呼び捨てでいいのに。」
「本気です。そして私たちは他人です。家名で呼んでもいいですがクラスの方針が名前ですので。」
その方針を決めたのはクラス委員ではなくトレッドだったが。
「あ、僕の家の鉱山とセラヴィが持っている鉱山を取り換えてくれないかな。」
唐突にトレッドが放った言葉に、クラス中がシーンとなった。
非常識すぎる発言を人前でするこの男は何かクスリでも飲まされたのではないか?そんなことを考えたのは一人や二人ではないだろう。
「領地にある鉱山を、領主でもないあなたと私が手続きすることなどできません。
それに我が領地にあるものを手放すほど侯爵家は困っておりません。」
「いや、でもナリアが欲しがっていて……その鉱山がないと婚約できない。」
「意味がわかりません。あなたの領地の鉱山でいいではないですか。うちは関係ありません。」
セラヴィがトレッドから視線を外して席に座り、この会話が不快だと言動で表した時に教師がやってきたため、トレッドも話を続けることができなくなり席に着いた。
セラヴィはトレッドに呆れると共に、ナリアは既にトレッドから離れようとしているのではないかと思った。
彼女を繋ぎ止めるためにトレッドは必死になっている。
トレッドがそこまでナリアに心を奪われているのに、彼女の狙いはトレッドの妻ではなく鉱山。
……少し可哀想な気がするけれど、これも彼が選んだ結果なのだから。
ナリアが欲しがる鉱山はダイヤモンド鉱山。
ダイヤモンドが欲しいのなら、他の鉱山のダイヤモンドが宝飾店にはたくさんあるはずよ。
指輪にネックレス、イヤリングにブレスレット、髪飾りにブローチ、あとはティアラやドレス?
自分の好みのものが欲しいのであればデザイン通りに作ってもらえばいい。
加工前のダイヤモンドなんて、仕入れたいのなら簡単よ?まぁ、お金は必要だけど。
だからダイヤモンドが彼女の狙いではない。
鉱山そのもの。あるいはあの場所?
自領について学んだけれど、あの鉱山に何か意味があるなんて知らない。
お父様も知らないんじゃないかしら。おそらく、亡くなったお祖父様も。
だって、嫌がらせに使ったくらいなんだもの。
405
あなたにおすすめの小説
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
王子と公爵令嬢の駆け落ち
七辻ゆゆ
恋愛
「ツァンテリ、君とは結婚できない。婚約は破棄せざるをえないだろうな」
ツァンテリは唇を噛んだ。この日が来るだろうことは、彼女にもわかっていた。
「殿下のお話の通りだわ! ツァンテリ様って優秀でいらっしゃるけど、王妃って器じゃないもの」
新しく王子の婚約者に選ばれたのはサティ男爵令嬢。ツァンテリにも新しい婚約者ができた。
王家派と公爵派は、もう決して交わらない。二人の元婚約者はどこへ行くのか。
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
なにひとつ、まちがっていない。
いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。
それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。
――なにもかもを間違えた。
そう後悔する自分の将来の姿が。
Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの?
A 作者もそこまで考えていません。
どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
公爵令嬢ローズは悪役か?
瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」
公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。
隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。
「うちの影、優秀でしてよ?」
転ばぬ先の杖……ならぬ影。
婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。
独自設定を含みます。
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
【完結】君の世界に僕はいない…
春野オカリナ
恋愛
アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。
それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。
薬の名は……。
『忘却の滴』
一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。
それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。
父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。
彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる