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しおりを挟む休憩時間になり、ナリアが私たちの教室にやってきた。
「トレッド様、どうだった?」
「セラヴィはやっぱり承知してくれない。他のものじゃダメかな。」
「えー!本当にダメなの?ひょっとして婚約を解消した嫌がらせなんじゃない?」
ナリアはセラヴィに聞こえるように、わざと大きな声で言ったようだ。
「そうなのか?セラヴィ、まだ怒ってるのか?どうしたら許してくれるんだ?」
許すとか許さないとかじゃなくて、話しかけないでって言ったでしょ?
自分有責で婚約破棄になったってことを忘れているとしか思えないわ。
「ねぇ、セラヴィさん。私、あの鉱山が欲しいの。
だからトレッド様が持っている鉱山と取り換えてくれないかしら。
じゃなきゃ、私はトレッド様と別れなきゃならなくなるわ。
優しいあなたならトレッド様を傷つけるようなことをしたりしないわよね?」
ナリアの言葉を聞いた人は、誰もが理解不能に陥ったはず。
そもそも、鉱山の取り換えなんてあり得ないし、お互いにそれをできる権限もない。
ナリアがトレッドと別れるなら好きにすればいい。だが別れるのであれば鉱山が一時トレッドの伯爵家が所有していたと知らない人々にとっては何のためにセラヴィからトレッドを奪ったのか意味不明。
いくらセラヴィが優しくても自分を傷つけたトレッドがナリアと別れて傷ついても自業自得。
そして、隣国の子爵令嬢如きがセラヴィに上から目線で言っていることが一番、クラスメイトたちの気に障った。
そのため、ナリアとトレッドのことを特に何とも思っていなかった人まで2人にいい感情を抱かなくなった。
仕方なく、セラヴィは口を開くことにした。
「非常識なことをおっしゃるのね。
領地にある鉱山は侯爵家のものです。あなたが欲しいからと渡せるものではありません。
侯爵家はあなたともトレッド様とも無関係です。
そして私も、トレッド様が傷つこうがあなたと別れようがどうでもいいことです。」
心底どうでもいいという気持ちを込めて言うと、ナリアもトレッドも動揺していた。
だが、それでも2人はしぶとかった。
「でも、あの鉱山はあなたの所有なんでしょ?トレッド様がそう言っていたわ。」
「そ、そうだ。父上がそう言っていた。セラヴィのものになったって。」
「いえ、侯爵家所有に戻しています。
それにしても、なぜあの鉱山にそんなにこだわるのですか?
ナリアさん、あなたの狙いはトレッド様?それともあの鉱山?どちらですか?」
「そんな……ひどいことを言うのね。もういいわ。トレッド様、別れましょう。」
そう言ってナリアは教室を飛び出して行った。
「ナリアっ!待ってくれ。」
追いかけようとしたトレッドは振り返り、セラヴィに言った。
「君がそんなに冷たい女だったなんて思わなかった。婚約破棄してよかったよ。」
そう言い捨ててナリアの後を追いかけていった。
残されたセラヴィとクラスメイトたちはポカンとした。
何あれ?
勘違いでイタイ男?
利用されただけ?
常識が無さすぎない?
セラヴィ様のどこが冷たいの?
婚約破棄してよかったのはセラヴィ様よね?
別れを告げたってことはトレッドに好意がなかったってことでいいんだよな?
そんな声があちこちで囁かれ始め、思わずセラヴィが笑ってしまうとクラス中に笑いが広まった。
「彼と婚約破棄できて本当に良かったわ。」
セラヴィがトレッドに未練がないとわかり、クラスメイトたちは安心してセラヴィの味方についた。
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