心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん

文字の大きさ
25 / 36

25.

しおりを挟む
 
 
あの後、トレッドは教室に戻って来なかった。

荷物は置いたままになっているが、取りに戻ってくる可能性もあるので誰も届けに行こうとは言わなかった。
内心は、届けに行くことで何か面白いことが見られるかもしれないという野次馬的な考えを持つ者もいたが、トレッドの味方だと思われても心外なので諦めたのだ。

落ちぶれていく未来しか見えない伯爵家には近づくまい。ということだ。




セラヴィは学園での出来事を父と母に話した。


「ナリアさんは鉱山が目当てでトレッドを奪ったようです。あの鉱山になにかあるのですか?」
 
「……いや、思い当たらないな。昔からあるが正直言って邪魔な場所にある。
 採掘がてら、道を通したいところだがダイヤモンド目当てに盗掘されるのも問題でな。
 結局、長い間立ち入り禁止の鉱山のままだ。」


盗掘を避けるために、あの鉱山のかなり手前から迂回路があるのね。
見回りもあるし、横穴が掘られていたら気づくものね。


「ナリアさんは隣国の令嬢だわ。それに、失礼だけどそれほど頭が回る人ではないわ。
 あんな人が大勢いる前で鉱山が欲しいだなんてわめくんだもの。
 だから、彼女が欲しいのではなくて、誰かに指示されたのだと思うのだけど。」

「ああ。そうじゃないかと思う。
 トレッドが鉱山について騒ぎ出した時にナリアという令嬢のことも言っていたから調査をしている。
 もうそろそろ彼女についての情報を持ち帰るはずだ。
 そうすれば、背景が見えてくるかもしれない。」


父のその言葉に、学園で耳にしたことを話そうと思った。


「お父様、ナリアさんがお世話になっているという親戚のデーツ伯爵家、本当は親戚ではないとか。
 隣国の本当の親戚に頼まれて預かったのに、我が侯爵家に迷惑をかけたことで困っているそうです。
 早く追い出して弁明したいと夫人が言われていたということをお聞きしました。」

「デーツ伯爵家、か。温厚な夫妻だな。夫妻のどちらかに隣国に親戚がいるということだな。
 そちらからも調べれば、隣国の誰が動いているかがわかるかもしれない。」


セラヴィに縁談を申し込んだ隣国の伯爵家。
デーツ伯爵家と親戚である隣国の貴族。
ナリアの実家である隣国の子爵家。

それぞれが何か関わりを持っているように思える。


だが、不可解はナリアだ。
確かに彼女は可愛いし、多くの男性には魅力的に見えるのはわかる。
だけど、彼女は……賢くない。

正直、トレッドが狙いだったからこそセラヴィとの婚約解消はうまくいった。
なぜなら彼も……賢くないから。

格上の侯爵令嬢との結婚の意味を正しく理解していれば、婚約解消を言い出すことなどあり得ない。
自分の気持ちだけで突っ走った代償は大きいということを今後は今以上に実感するはずだ。

現に、鉱山の所有者が伯爵家からセラヴィに、そして侯爵家に戻っただけなのに、賢くない2人は学園でやらかした。自分たちのものではない鉱山が原因で別れる騒動など笑いの種でしかない。
あれではあの2人に関わりたくないと思う貴族が増えるだけだ。

だからこそ、なぜトレッドを誘惑する役目がナリアだったのかが不可解なのである。 
 
ナリアは、この国の貴族に受け入れられることはないだろう。
自国に帰っても、トレッドとのことが知られれば結婚は難しい。

彼女が何を考えてこんなことに協力していたのかがさっぱりわからなかった。




 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

王子と公爵令嬢の駆け落ち

七辻ゆゆ
恋愛
「ツァンテリ、君とは結婚できない。婚約は破棄せざるをえないだろうな」  ツァンテリは唇を噛んだ。この日が来るだろうことは、彼女にもわかっていた。 「殿下のお話の通りだわ! ツァンテリ様って優秀でいらっしゃるけど、王妃って器じゃないもの」  新しく王子の婚約者に選ばれたのはサティ男爵令嬢。ツァンテリにも新しい婚約者ができた。  王家派と公爵派は、もう決して交わらない。二人の元婚約者はどこへ行くのか。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

公爵令嬢ローズは悪役か?

瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」 公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。 隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。  「うちの影、優秀でしてよ?」 転ばぬ先の杖……ならぬ影。 婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。 独自設定を含みます。

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

処理中です...