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しおりを挟むライガーはなぜ侯爵領の鉱山が狙われているのか、自分の考えを説明した。
「かつてこの大陸は一つの国でした。始まりの国ですね。
トーマス・アンガスの歴史小説の中には、時々『始まりの地』に触れる文章があります。
それを読み解くと、この大陸の丁度ど真ん中。
地図をご覧になっていただければわかりますが、それがシーレント侯爵領を指しています。
国境近くの鉱山よりも領地の真ん中寄り。そこで目につくのがその鉱山になるのだと思います。」
「地図を持ってこい。」
兄がすぐさま廊下にいる使用人に指示をした。
「ライガー殿、ちなみにそこには何があると?」
「それはまだ解き明かされていません。だからこそ推察で盛り上がるのでしょう。」
「まったく迷惑な話だ。そこは作り話なんだろう?」
「いえ、それがそう言い切れないのです。
大昔、王位を争った兄弟の兄が正統な証と莫大な財宝と共に行方不明になったと記録書にあります。
トーマス・アンガスはそれが『始まりの地』にあると話に組み入れたのだと思います。」
「『始まりの国』の『始まりの地』がうちの領地辺りというのは正しい歴史なんだろうか。」
「正しい歴史を判断できる人はいません。
言い換えれば、別の案を信用できるものだと主張し認めさせてしまうことも可能だと思います。」
別の案?
『トーマス・アンガスを支持する会』、あるいはトーマス・アンガス本人すら侯爵領の鉱山に何かがあると思っている認識を変えるに値する案を用意するってこと?
「何か良い手があるということだろうか?」
「僕だったら、こちらの方が信憑性が高いと思えます。」
そう言ってライガーが話してくれたことは、納得してくれれば確かに良い案だと思った。
「だが、最初にそのことを誰にどうやって納得させるかが問題だな。
トーマス・アンガス本人が納得すれば、支持する会に説明してくれるだろうか。」
「それは難しいでしょうね。そもそも、トーマス・アンガス本人は始まりの地を明言していません。
他の推察についても、どう判断するかは読者の自由だという考えです。
ですので、始まりの地がこっちかもしれない、などと支持者に言うことはないでしょう。」
ナリアをよこしたり、盗掘に何人も派遣したりしている隣国の支持者たちを訪れて直接説明したところで納得してくれるかもわからない。
何か良い方法はないものかと考えていた時、国王陛下から至急登城するようにと連絡が来た。
しかも、『シーレント侯爵領の有事に備えよ』との一文。
父はすぐさま兄に指示を出した。
「陛下との面会内容にもよるが、領地に向かう準備をしておけ。
私兵の一部も動けるように。領地の備蓄数も把握しておいてくれ。」
「わかりました。」
兄は部屋を出て行った。
有事って一体何が起こっているの?
「マッシュ侯爵、ライガー殿。来ていただいたのに話途中で申し訳ない。
ライガー殿、非常に助かった。ありがとう。」
父は登城しなければならないために先に部屋を出た。
「セラヴィ嬢、大丈夫かい?」
「え、ええ。驚いてしまって。」
「まさかとは思うけど、鉱山が狙いで領地を脅かそうとしている可能性もあるね。」
「え……そんな馬鹿な事がありますか?」
「うん。一人二人ならまだしも、同じ思想の者たちが集まれば思考が暴走するかもしれない。
それこそ、強行突破という感じで鉱山を占領するかもしれない。」
戦争を起こして領地を奪うまではいかないが、何かしようとしていることがわかって、警戒するようにと国に伝わったのかもしれない。
確かにこのタイミングだと、鉱山が狙いだとしか思えなかった。
「大丈夫だよ。実際に兵が動いているのであれば、もっと大掛かりに召集がかかる。
今はそういう動きがあるかもしれないと備える程度だから。
関係を悪化させる気など国同士にはないからね。」
ライガーの言葉に心が落ち着いてくるのを感じた。
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