出生の秘密は墓場まで

しゃーりん

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婚約を白紙にすることを承諾すればこのまま見逃してあげたのに。
これを言えば、クリスタは終わる。
そう思いながら、エスメラルダはクリスタに微笑みながら聞いた。


「ねぇ、クリスタ嬢、あなた本当にザフィーロに嫁ぎたい?公爵夫人になれなくても?
ザフィーロを跡継ぎにするだなんて、私は一言も言ったことがないわ。
婚約を結んだ時も、15歳で跡継ぎに相応しいか判断するとは言ったけど、候補がザフィーロだけだとは言っていないの。
でもクリスタ嬢は、ザフィーロが18歳になって学園を卒業したら公爵になると言いふらしているわよね?

『行き遅れで焦って年寄りと結婚したザフィーロの姉はさっさと追い出して、私は公爵夫人になるのよ』

そう言っているらしいわね?ソンブラ侯爵、公爵である私への不敬で婚約白紙ではなく婚約破棄にしましょうか?」


ソンブラ侯爵夫妻はどんどんと積みあがっていくクリスタの仕出かした重みで苦しそうだった。
顔色は真っ青だし、夫人は今にも倒れそうだけど、ソファに座っているので耐えられたようだ。

クリスタはなぜ知っているのかと呆然としていた。


「クリスタ嬢、学園内では迂闊なことを言うべきではないわ。友人に話しているつもりでも、あちこちで聞いている人はいるの。そしてご親切にも私に教えてくれる人もいるわ。
社交界は足の引っ張り合い。……あなたでは公爵夫人にはなれないわ。」


エスメラルダは最後通告を突きつけた。 


「……クリスタは修道院に入れます。申し訳ございませんでした。」


ソンブラ侯爵はさすがにもう婚約継続を望まなかった。それどころか、娘を切り捨てる決断をした。

クリスタが公爵であるエスメラルダを貶める発言をしていたということを何人もが知っているということは、クリスタはもう公爵家の嫁どころか、高位貴族に嫁ぐことは絶望的。よくて子爵家辺りだろう。
だが子爵家に嫁いでもこの性格では醜態を晒すことは間違いなく、ソンブラ侯爵家の名にも傷がつく。

すぐさま娘を修道院に入れることを判断したソンブラ侯爵は、さすが高位貴族らしい。


「お父様っ!」

「うるさいっ!我が家名をこれ以上汚すなっ!」


親子のやりとりは家に帰ってからどうぞ。


「請求書の束、受け取って帰ってくださいね?」 


もう支払いを済ませてあるものと、これから支払うべきもの全てを纏めてある。

束になっているそれを持って、早く帰れ。婚約は、破棄ではなく白紙にしてあげるから。
 

こうしてクリスタの貴族としての人生は終わりを告げた。自業自得である。




「あー。ようやく終わった。」
 

ザフィーロは鬱陶しい前髪を後ろに流し、美形な顔を露わにした。


「やりすぎじゃない?」

 
エスメラルダはザフィーロがクリスタの前でどんな態度を取っていたのかを初めて見たのだ。

ザフィーロは、クリスタに好かれないように顔を前髪で隠し、演じていた。

陰気で、無口で、男らしくない男を。
出かけることが苦手で、ボソボソと話し、猫背で自信のない男を。

10歳で顔合わせをした時は、ザフィーロはまだ鬱陶しい髪形ではなかった。
将来は美形になるに違いない顔をクリスタにも晒しており、彼女も見ていたはずだ。

しかし、ザフィーロが根暗で陰気な男を演じ、前髪で顔を隠すようになれば素顔を忘れてしまったらしく、顔を見るのも嫌だという態度を取るようになったらしい。
それでいて、欲しいものがあれば連れ回して買わせていたというのだ。

学園に入学してからのここ一年は特にひどかった。……金額面で。


「姉上、これでリルベルとの婚約話、進めてもいいよね?」


エスメラルダは頭が痛かった。リルベルとはザフィーロの思い人。ただし、まだ10歳だった。
 

 

 
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