9 / 20
9.
しおりを挟むラルゴ殿下は、少女を殺害したわけではないが、その一端は担っていると見做された。
拉致された少女を金を払って愛でていたのだ。
拉致だと知らなかったとしても怪しむことすらしなかった。
年齢的に興味がなくなった後のことは知らなくても、少女たちが家に帰れるわけがない。
幼女とは違い、男たちの顔を覚えているのだから。
いずれ娼婦になるか、殺されるかは明らかだった。
王族にも関わらず犯罪に加担したことでラルゴ殿下が自ら進んで毒杯を飲んだことは、あっという間に伝わった。
その時は既に、エスメラルダはラース公爵領に来ていた。
エスメラルダは、ラルゴ殿下が犯罪を犯したことで婚約破棄になったとだけ聞いた状態で、慌てて領地へと向かわされた。
そして、体調が落ち着いたのを見計らい、説明された。
「……少女の拉致・監禁に関わっていて、毒杯を飲まれたのですね。」
「ええ。婚約者だったあなたが醜聞に巻き込まれないように、領地にやってきた。というのが表向きな事情よ。」
「表向き、ということは裏があるのですね?」
「……ええ。エスメラルダ、あなたは妊娠しているわ。ラルゴ殿下の子供を。」
「……やはりそうでしたか。そんな気がしていたのです。ラルゴ殿下の子供かどうかは自信がありませんでしたが。」
「気づいていたの?!」
「症状が全て、妊娠によるものでした。月のものも来ないし。図書室の本で調べました。
誕生日の翌朝、下腹部に違和感があったことを思い出しました。少しだけ出血していたことも。
それに、胎動というものを感じました。もう、この子、動いています。」
妊娠は既に五か月に入っている。
ワンピースの膨らみで外見ではわかりにくいが、下腹部が少し膨らんできているという。
「そうよね。さすがに気づくわね。あの時に気づいてあげられなくてごめんなさいね。」
「いえ、私が迂闊だったのです。侍女もつけずに殿下と東屋に行こうとしたのですから。」
あの直前に飲んだ飲み物に眠り薬が入っていたに違いないとエスメラルダは思った。
ラルゴ殿下の可能性が高いが、別人の線も捨てきれなかった。
「私の妊娠のことを知っているのは?」
「医師とあなたの侍女だけ。お母様の侍女にも話して協力してもらうわ。妊婦のフリをするから。」
「……お母様の子供にするのですか?」
「あなたのためなの。そしてその子のため。わかってくれる?」
「はい。もちろん。ありがとうございます。」
その後、公爵夫人は妊婦のフリ、エスメラルダはお腹の膨らみが誤魔化せる時期までは屋敷内を動いていたが、その後は骨折したことにして部屋に籠った。
そして臨月になり、エスメラルダは男の子を出産した。ザフィーロと名付けられた。
エスメラルダが13歳と9か月のときのことだった。
「ザフィーロはいい子ね。エスメラルダの体に合わせて小さく産まれてくれて。でもとても元気。」
公爵夫人はエスメラルダが思いのほか安産だったことに涙した。
万が一の場合は、子供よりもエスメラルダを助けるように指示をしていたのだ。
母親でありながら姉となったエスメラルダ。
祖母でありながら母となった公爵夫人。
出産後、しばらくは領地で過ごしたが、二人とザフィーロが王都に戻る日は近づいていた。
14歳になったエスメラルダが学園に入学することになるからだ。
1,198
あなたにおすすめの小説
冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。
禁断の関係かもしれないが、それが?
しゃーりん
恋愛
王太子カインロットにはラフィティという婚約者がいる。
公爵令嬢であるラフィティは可愛くて人気もあるのだが少し頭が悪く、カインロットはこのままラフィティと結婚していいものか、悩んでいた。
そんな時、ラフィティが自分の代わりに王太子妃の仕事をしてくれる人として連れて来たのが伯爵令嬢マリージュ。
カインロットはマリージュが自分の異母妹かもしれない令嬢だということを思い出す。
しかも初恋の女の子でもあり、マリージュを手に入れたいと思ったカインロットは自分の欲望のためにラフィティの頼みを受け入れる。
兄妹かもしれないが子供を生ませなければ問題ないだろう?というお話です。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
後妻の条件を出したら……
しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。
格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。
だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。
しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。
しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。
幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。
その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。
実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。
やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。
妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。
絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。
なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる