夢を現実にしないための正しいマニュアル

しゃーりん

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学園の卒業式の日になった。

午前中に行われ、アベル王太子は主席、リリーベルは次席で表彰も受けた。

クラスメイトと最後の挨拶を交わす。平民や下位貴族とは直接言葉を交わす機会はほとんどないだろう。
貴族であっても跡継ぎ以外は顔を見る機会も少なくなるが、王城に勤務することになれば会えるかもしれない。
その時も学生みたいに親しげには出来ないが、懐かしく思うこともあるだろう。
そういった気持ちになれた。



その夜は、社交界デビューとなる。

学園卒業に合わせ、地方貴族も揃いやすいこの日に毎年行われる。
そして貴族は、この日から正式に成人とみなされるのだ。
 
まず、育ててくれた親とダンスをし、それから祖父や祖母と踊る人もいる。成人済の兄姉と踊る人もいる。
婚約者とも踊り、誘われたら誰とでもよい。というくらい曲が短く楽しめるのだ。


楽しそうに踊るリリーベルを、ジークとマリエルも微笑みながら見ていた。





そのひと月後、アダム王太子とリリーベルの結婚式が大聖堂で行われた。

今度は参列者の前で婚姻届けに署名し、司祭の祝福を受ける。
無事、書類が光り、リリーベルは王太子妃となった。

その夜は当然初夜であり、王族は丸5日は部屋から出ることはないと言われている。
食事も入浴も着替えも何もかも当たり前のように夫が妻の世話をする。
今までと違う愛情の重さをリリーベルは肌で感じることになるだろう。…治癒の魔石があるがために…




結婚式の夜、ジークとマリエルは王城に部屋を用意してもらい、泊まりだった。

国王夫妻と四人で集まり、11年前の夢の話から今日までを懐かしく振り返った。



「無事にこの日を迎えることが出来たわね。マリエルと家族になれて嬉しいわ。」


「あら。本当ね。でも10歳で出会ってから、親友だけど姉妹みたいに思ってたから今更ではあるわね…」


「そういう意味では私たちも同じだな、ジーク。
 仕事も一緒で誰よりも長く…くそっ!ルナより接する時間が長いじゃないか…
 早く国王の座をアダムに譲ってゆっくりルナと過ごしたい。
 あぁ、子作りを早めてもらおう。」


「やっぱり初夜では避妊魔術をかけるのか?」


「そりゃそうだよ。
 ようやく誰に咎められることもなく触れられるようになるのに、すぐ子供が出来てしまったら…
 初夜から3週間後に妊娠が発覚した過去の王太子の嘆きの文書の記録が残ってる。
 嬉しい出来事なのに感情が追い付かなくなるようだ。
 …妊娠が早いほど、子供は一人の場合が多い。」


「アダム王太子には伝えているのか?」


「…いや。言ってない。しかし、避妊魔術の確認はしていたようだから、今回はないな。」


「多分、リリーちゃんがうまく誘導?おねだり?して子供をつくるんじゃないかな?
 一人っ子にはしないと思うから、二人か三人になると思うわよ?」


「そうね。王族の執着をうまく誘導するための『マニュアル』をリリーなら作れるかもね?」


「あ、そうだ。そろそろマリー夫人に報告しようと思ってたんだよ。全部無事に終わったからね。
 
 前に夢の中で、アダムの周りの人物が怪しいって言ってたでしょ?
 『傀儡の王子』に『リアナ女王』に『リリーちゃんが欲しい』案だったっけ?

 侍従や乳母を排除して教師も見直ししたから、アダムが馬鹿王子じゃなくなったでしょ?
 表にも裏にも出てこないような話を酒が入った勢いで引退間近の爺さんたちが言ってたらしい。

 『リアナ王女は美人で聡明だから隣国に行ってほしくないよ。孫の嫁に欲しいなぁ。』

 『それを言うならリリーベルちゃんもだよ。あんな可愛い子をたった6歳で王家に取られた。』

 『執着して見えたなぁ。リリーベルちゃんは逃げられないなぁ。』

 『執着で政務しなくなったら、リアナ王女が跡継ぎにならないかなぁ?』

 『その頃には隣国に嫁いでるよ。リリーベルちゃんが産んだ子が王太子になる方が見込みあるよ。』

 『孫の子と縁が結べたらいいなぁ。…生きてるかな…』

 と、3人の元王城勤務者が話をしていたらしい。
 他愛ない願望が口に出たって感じだね。
 だけど、アダムが馬鹿王子のままだったら、ありえたかもしれない未来だった。
 慧眼があるね。」


「ありがとうございます?無礼な案を出してしまって失礼しました?」


四人で笑い合い、乾杯をして改めて両家を祝った。






初夜から6日後、怒りながら部屋から出てくるリリーベルの肩をアダムが謝りながらも嬉しそうな顔で抱いている姿が王城で見られ、そんな新婚夫婦を周りは温かい目で見守っていた。





<終わり>
 
 
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