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23.
しおりを挟むメイディアは、死期が近いエステルを独りで逝かせたくなかった。
そのため、夜間も側にいたいと願い出て、エステルと一緒に過ごした。
昼間は専属侍女が、そして夜はメイディアが側にいるようになって三回目の朝方、ふと目を覚ましたエステルがメイディアに『後はお願いね。』と目を閉じ、そのまま永眠した。
エステルの顔は安らかに見えた。
彼女が望んだ、いくつもの”最期の願い”
それが生前に叶えられたのは、アイザックに望んだ離婚とメイディアに望んだ再婚だけ。
ローランドに望んだ葬儀への参列、アドレー伯爵に望んだデボラと暗殺者への措置、デズモンド夫妻にはメイディアがアイザックの妻、ルイスの母親として相応しいか見極めてほしいと願い、ルイスには健やかな成長を願ったことは死後に叶えられるもの。
全てが思い通りにいくかはわからない。
それでも、エステルはみんなの幸せを願い、旅立ったのだ。
メイディアはしばらくエステルの腕をゆっくりとさすりながら、別れに涙した。
その後、部屋の近くにいた者に伝え、エステルの死はデズモンド夫妻やアイザックにも伝えられた。
屋敷中の者が、まだ若いエステルの死を悼んだ。
数日後、エステルの葬儀がしめやかに行われた。
ただ、終える頃には下世話な話も耳に入る。
若すぎる死を気の毒に思う気持ちはあっても、所詮は他人事でなので今後の動向に気が行くものなのだ。
そういう話は聞こえない場所でしてほしい。
そう思いながら、アイザックは参列者を見送った。
そして、とうとうデボラが声を上げた。
参列者がいなくなるまで我慢したことは褒めてやりたいほどだ。
エステルの言った通り、アイザックの後妻になるだとか叔母の自分がピッタリだとか。
しまいには、エステルの死を、妹の自分を捨てたから自業自得なのだと言い出した。
これを聞き、エステルは自分の父親と兄に、妹デボラがいかに危ない人物であるかを認識させたかったのかがわかった。
そして、もう既に再婚していると教えると、デボラは癇癪をおこした。
『嘘よっ!嘘!嘘!!私を騙そうとしているんだわ。どこにいるのよっ!その再婚相手は!殺してやるっ殺してやるんだから、連れて来なさいよ!!!』
側にいたデボラの兄ケントが彼女を黙らせて担いだ。
『今後、妹が皆様の前に姿を見せることは二度とないとお約束いたします。』
ケントは悲痛な顔をしてそう言い、父親であるアドレー伯爵と共に帰って行った。
両親にとっても想像通り、いや、想像以上だったかもしれない。
少し重苦しい空気になったが、父は吸い込んだ空気を一気に吐き出した後、少し離れたところにいたウェルシス子爵とローランドの方へと歩いて行った。
アイザックと母もそれに続いた。
「ウェルシス子爵、大切なお嬢さんを息子の再婚相手に選んだこと、立て込んでいたために手紙で済ませてしまって申し訳ない。」
「いえ、大まかな経緯は娘の手紙で知らされております。あの子がどこまでお役に立てるかはわかりませんが、まぁなかなか度胸のある子ですので他者からの嘲笑や暴言で心を病むようなことはないでしょう。」
そうだった。
再婚の事実が公になれば、メイディアとは愛人関係だったのではないかと言われる可能性があるのだ。
母が先回りして、エステルの願いだと広める気でいるが、それでも疑う者はいるだろう。
それも覚悟の上で、メイディアは願いを聞き入れてくれたのだ。
自分もメイディアを守らなければならない。
アイザックはウェルシス子爵と挨拶を交わしながら、そう心に誓った。
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