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しおりを挟む馬車から降りてきたのは、ミッシェル・クラプトン侯爵令嬢。
リリスティーナの友人だった。
(お嬢様、頭を下げてください。)
驚いていたリリスティーナは、ミミにそう言われてミッシェルに頭を下げた。
リリスティーナは今、侍女ミミに見えているのだから。
ミッシェルは、ミミを見た後、花を手向けに向かった。
この敷地の一角に、花が手向けられている場所がある。
リリスティーナがここで死んだと知れ渡り、未だに多くの人が供えてくれているのだ。
「ミミ、久しぶりね。」
「ミッシェル様、ありがとうございます。」
リリスティーナの死にミッシェルは心を痛めてくれている。
目の前にいるのがリリスティーナだと言えないことが申し訳なく思ってしまう。
でもいつか、リリスティーナの今後が決まれば、ミッシェルには伝えたいと思っているけど。
「リリスがいなくて寂しい。会いたいわ。」
「……はい。そうですね。」
今、言ったらダメかしら?
ミッシェルなら信じてくれると思うし、また会えるようになれたら……って駄目ね。
中に入る女性が変わるたびにミッシェルも、侍女も護衛たちも困惑するものね。
やっぱり友人との別れは一度にしておくべきだわ。
「パルモア伯爵家、当主が変わったわね。当然よね。リオーネと殿下の逢引を許していたのだから。」
リオーネはウォルタスの浮気相手の女性で、婚約者ジョージがいた。
ジョージがウォルタスの背中を負傷させた。
そしてウォルタスの護衛にジョージは殺された。
ジョージの両親にしてみれば、リオーネの浮気が原因で息子が死ぬことになったのだ。
そのため、ジョージがウォルタスを切りつけたことは不問とされた。
しかし、原因となったパルモア伯爵家が不問とされるのは誰もが納得しない。
ウォルタスの浮気相手であったリオーネとその両親は、パルモア籍から除籍されて平民にされたそうだ。
王都とパルモア領には立ち入り禁止らしい。
「可哀想なのは妹のユリアね。関係のない彼女はパルモアに残ることを許されたと聞いてよかったと思っていたんだけど、当主になった新たな伯爵が早々に結婚させて追い出すつもりらしいの。」
「追い出す?ユリア様は15歳くらいでしたか?」
「ええ。学園にも入学させず、16歳になれば結婚させるそうよ。」
「……お相手の方は?」
「どこかの子爵の弟らしいけど。40代くらいのね。」
「40代、ですか。歳が離れていますね。お優しい方ならいいですね。」
歳が離れているからといって、幸せな結婚ができないわけではない。
でも、追い出されるように結婚するのに、養父となったパルモア伯爵がいい相手を選んでくれたかどうかは疑問である。
リリスティーナはミッシェルが去るのを見送った。
「ねぇ、ミミ。お父様に、ユリアの相手が誰か、調べてくれるように言ってくれないかしら?」
(嫌です。お嬢様がご自分でどうぞ。)
優しいミミはこれを口実に、リリスティーナと共にクレベール公爵家に戻ろうと言っているのだ。
温かい気持ちに感謝して、リリスティーナはミミに入ったまま、実家へと戻った。
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