ホウセンカ

えむら若奈

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君に捧げるカランコエ

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「正気の沙汰じゃないね。そんなことのために、自分の恋人を何年も苦しめるなんてさ」

 良い絵を描く。翔流にとっては“そんなこと”だ。それを平気で言えるような性格だから、一緒にいても気が楽だった。
 
「俺はお前が死ぬんじゃないかって、いつもヒヤヒヤしてたよ。良い絵が描けて死ねるなら本望だって思ってるのかもしれないけどさ。それが何になるんだよ。俺にはそんな価値観は理解できないし、友達としては心配しかなかったね。健康に長生きして幸せになる方が、いいに決まってるだろ」

 確かにあの頃のオレは、自分が納得する絵を描けたら死んでもいいと思っていた。というより、それを自分が生きる唯一の理由にしていたのだろう。

 オレにはオレの、翔流には翔流の価値観がある。こいつと価値観が合うと思ったことはほとんどないし、おそらく翔流も同じで、それを分かった上で付き合っている。それでもここまで言うのは、オレのことで相当気を揉んでいたからなのかもしれない。

「健康で長生きねぇ……。別に長生きしたいとは思わねぇけどな」
「なんでお前ら芸術家は、太く短くを好むわけ?」
「好んでるわけじゃねぇよ。太かろうが細かろうが、納得できる絵を描くのが人生の目標ってだけ」
「だからって、あんな人に支配されることはないだろうが。お前は、お前らしく描きゃいいだけじゃんか」

 そう言って、むくれた顔でガツガツとパフェをかき込んでいる。

 それも正論ではあるが、オレはスミレの言動が間違っていたとも思っていなかった。そうでなければ、4年近く付き合うわけがない。ただ、オレの絵に対する異常な執着と、あまりに奔放な恋愛観に苦しめられていただけだった。
 
「終わったことを、いつまでも言うなよ」
「アホ!俺がどれっだけ心配したか、お前が分かってなさそうだからだよ!」
「悪かったって、心配かけて」

 若干涙目の翔流に詫びつつ、お前はオレの彼女か?と突っ込みたくなった。

 ただ、相当心配をかけていたのは間違いない。特にスミレと別れる直前は記憶がすっぽり抜けていて、自分がどんな生活をしていたか、どうやって絵を描いたのか一切覚えていないぐらい、精神的に追い詰められていたようだ。

「まぁ、いいけどさ。あの時と違って今は穏やかな顔になってるし。愛茉ちゃん、良い子だもんな。顔も性格もいいとか、羨ましすぎ」

 そういやこいつは、猫被り時の愛茉しか見たことがなかったか。“良い子”の定義はよく分からないが、あの合コンでの愛茉は、いかにも周りに好印象を与えそうな振る舞いをしていた。
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