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婚約を破棄するって言いましたよね?
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「ユリア・ウザボラ公爵令嬢。貴様との婚約を破棄し、ここにいる聖女メルと婚約を結ぶことを宣言する! せいぜい、他国で平民として生きるんだな!」
「素敵ですわ、王太子様」
わたくしの婚約者であるはずの王太子マーサリア様。その横でマーサリア様を見上げる聖女メル様。わたくしは一体何を見せられているのでしょうか? 喜劇?
そう思っていた次の瞬間、マーサリア様とメル様がお倒れになりました。
「すまない、ユリア嬢。今の発言は無かったことにしてくれ。皆の者もだ。そして、成人を迎えた皆のものは、我が息子マーサリアのようになりたくなかったら、飲み過ぎないように」
そう言って、国王陛下はマーサリア様を引きずって下がってお行きになりました。
「お父様。わたくし、なぜ婚約破棄を言い渡されたの?」
「いやー。この国の王族の皆様って、お酒に大変お弱いんだ。だから、この成人の儀のパーティーで一度失敗することが習慣となっているのだが……」
まさか婚約破棄なんて言い出すなんてね、とお父様も困った表情を浮かべていらっしゃいます。
現国王は裸踊りを披露し、先代国王は会場の真ん中で爆睡。先々代の国王は号泣しながらご自身の黒歴史を語り尽くされたそうです。なにその血筋、こわすぎます。
お酒の失敗とはいえ、わたくしの名誉も尊厳も全て失われました。許すことはできません。聖女メル様もお酒に泥酔なさっているご様子で、殿方に順番に婚約破棄を誘っていらっしゃいます。よっぽど先ほどの劇が楽しかったようですわ。明日が楽しみですわね?
◇◇◇
「すまなかった、ユリア。本気じゃなかったんだ。酔った勢いで気が大きくなって、君の困った顔が見たくなったところに、聖女の言葉が聞こえて、その……」
「あら? 覚えていらっしゃるのね? では、王族として発言の責任を取ってくださるかしら?」
「違うんだよ、ユリア。本当にすまなかった。もう二度とお酒は飲まないから」
「えぇ、この国の王族は成人の儀のパーティー以降、お酒を口にする者はいないそうよ? よかったわね、婚約者……いえ、元婚約者に恥をかかせることができて」
「本当にすまなかった! 君のいつもの上品な微笑みも大好きなんだけど、もっと他の顔を見たくなって、僕の言葉で君の感情を揺り動かすことができたらと思ってしまって、君を傷つけることなんて考えていなくて……本当に考えたらずだった……許してくれないだろうか?」
子犬のような表情で必死にわたくしの許しを乞うマーサリア様。そんな様子が少し愛らしく見えてしまったのは、惚れた弱みでしょうか?
「我がウザボラ公爵家の後援無くして、我が国で立太子できるとお思いで?」
「違うんだよ。そんなことはどうでもいいんだ。君のことが好きで、君が僕の元から離れていってしまうことが辛いんだ。せっかく婚約に漕ぎ着けたのに……」
悲しそうな様子でおっしゃるマーサリア様。実際、わたくしの婚約者になるためにさまざまな課題を与えられました。それを唯一全問こなされたのは、マーサリア様お一人でしたわ。……ふぅ。仕方ありませんね、このお方は。
「二度と聖女と同席することは許しません」
「はい」
「国民の皆様の前で今日と同じことを素面でできますの?」
「……君が少しでも許してくれるのなら、同じように国民の前で君に懇願しよう」
「では、明日。国民全員の前では許して差し上げます。明日のパーティーでわたくしが王宮に到着した時、お待ちしておりますわ」
◇◇◇
「ユリア・ウザボラ公爵令」
「ユリア!!」
わたくしがパーティー会場に着いて、誰かに噂されるよりも前に、マーサリア様が走っておいでになりました。100本の真っ赤な薔薇の花束と一緒に。
「マーサリア様。本日もご機嫌麗し」
「ユリア! 君のことが好きなんだ! あの夜は、大好きな君の困った顔が見たくて、君が僕の発言で表情を揺らすそんな姿が見たくて、君の気持ちのことなんて考えずに欲望のままに行動してしまった! 本当に申し訳なかった! 許して欲しい! 君が許してくれるのなら、僕はなんだってする! 君と共にいることができるのなら、王太子の立場だっていらない!」
「マーサリア様……わたくし、まだ挨拶の途中でしてよ?」
「僕に取って、君に許してもらうことが最優先だ」
「仕方ないお方。本日のエスコートを許しますわ。今後の行動次第だとご理解なさって?」
「ありがとう!! ユリア!」
そう叫んだマーサリア様は、喜びを隠しきれない犬のようでした。
「♪きょっうもー聖女がー酒飲んでー」
ワイン持参で酔っ払いながら現れた聖女メル様を指差し、マーサリア様は何か従者に耳打ちします。数秒後、慌てた様子で現れた教会の方に聖女メル様は回収されていきました。
「彼女には聖女らしく過ごしてもらうように教会に言いつけておいたから」
聖女メル様由来の酔っ払いながら婚約破棄は、あの日あの後も起こったそうです。メル様は王宮へ出禁となりました。
◇◇◇
「ユリア。愛しているよ」
「まぁ、本当ですの?」
「君のためなら国民全員の前で素面で裸踊りだってしよう」
「おやめください。あなたのお父上の顔に泥を塗りたいのですか?」
「素敵ですわ、王太子様」
わたくしの婚約者であるはずの王太子マーサリア様。その横でマーサリア様を見上げる聖女メル様。わたくしは一体何を見せられているのでしょうか? 喜劇?
そう思っていた次の瞬間、マーサリア様とメル様がお倒れになりました。
「すまない、ユリア嬢。今の発言は無かったことにしてくれ。皆の者もだ。そして、成人を迎えた皆のものは、我が息子マーサリアのようになりたくなかったら、飲み過ぎないように」
そう言って、国王陛下はマーサリア様を引きずって下がってお行きになりました。
「お父様。わたくし、なぜ婚約破棄を言い渡されたの?」
「いやー。この国の王族の皆様って、お酒に大変お弱いんだ。だから、この成人の儀のパーティーで一度失敗することが習慣となっているのだが……」
まさか婚約破棄なんて言い出すなんてね、とお父様も困った表情を浮かべていらっしゃいます。
現国王は裸踊りを披露し、先代国王は会場の真ん中で爆睡。先々代の国王は号泣しながらご自身の黒歴史を語り尽くされたそうです。なにその血筋、こわすぎます。
お酒の失敗とはいえ、わたくしの名誉も尊厳も全て失われました。許すことはできません。聖女メル様もお酒に泥酔なさっているご様子で、殿方に順番に婚約破棄を誘っていらっしゃいます。よっぽど先ほどの劇が楽しかったようですわ。明日が楽しみですわね?
◇◇◇
「すまなかった、ユリア。本気じゃなかったんだ。酔った勢いで気が大きくなって、君の困った顔が見たくなったところに、聖女の言葉が聞こえて、その……」
「あら? 覚えていらっしゃるのね? では、王族として発言の責任を取ってくださるかしら?」
「違うんだよ、ユリア。本当にすまなかった。もう二度とお酒は飲まないから」
「えぇ、この国の王族は成人の儀のパーティー以降、お酒を口にする者はいないそうよ? よかったわね、婚約者……いえ、元婚約者に恥をかかせることができて」
「本当にすまなかった! 君のいつもの上品な微笑みも大好きなんだけど、もっと他の顔を見たくなって、僕の言葉で君の感情を揺り動かすことができたらと思ってしまって、君を傷つけることなんて考えていなくて……本当に考えたらずだった……許してくれないだろうか?」
子犬のような表情で必死にわたくしの許しを乞うマーサリア様。そんな様子が少し愛らしく見えてしまったのは、惚れた弱みでしょうか?
「我がウザボラ公爵家の後援無くして、我が国で立太子できるとお思いで?」
「違うんだよ。そんなことはどうでもいいんだ。君のことが好きで、君が僕の元から離れていってしまうことが辛いんだ。せっかく婚約に漕ぎ着けたのに……」
悲しそうな様子でおっしゃるマーサリア様。実際、わたくしの婚約者になるためにさまざまな課題を与えられました。それを唯一全問こなされたのは、マーサリア様お一人でしたわ。……ふぅ。仕方ありませんね、このお方は。
「二度と聖女と同席することは許しません」
「はい」
「国民の皆様の前で今日と同じことを素面でできますの?」
「……君が少しでも許してくれるのなら、同じように国民の前で君に懇願しよう」
「では、明日。国民全員の前では許して差し上げます。明日のパーティーでわたくしが王宮に到着した時、お待ちしておりますわ」
◇◇◇
「ユリア・ウザボラ公爵令」
「ユリア!!」
わたくしがパーティー会場に着いて、誰かに噂されるよりも前に、マーサリア様が走っておいでになりました。100本の真っ赤な薔薇の花束と一緒に。
「マーサリア様。本日もご機嫌麗し」
「ユリア! 君のことが好きなんだ! あの夜は、大好きな君の困った顔が見たくて、君が僕の発言で表情を揺らすそんな姿が見たくて、君の気持ちのことなんて考えずに欲望のままに行動してしまった! 本当に申し訳なかった! 許して欲しい! 君が許してくれるのなら、僕はなんだってする! 君と共にいることができるのなら、王太子の立場だっていらない!」
「マーサリア様……わたくし、まだ挨拶の途中でしてよ?」
「僕に取って、君に許してもらうことが最優先だ」
「仕方ないお方。本日のエスコートを許しますわ。今後の行動次第だとご理解なさって?」
「ありがとう!! ユリア!」
そう叫んだマーサリア様は、喜びを隠しきれない犬のようでした。
「♪きょっうもー聖女がー酒飲んでー」
ワイン持参で酔っ払いながら現れた聖女メル様を指差し、マーサリア様は何か従者に耳打ちします。数秒後、慌てた様子で現れた教会の方に聖女メル様は回収されていきました。
「彼女には聖女らしく過ごしてもらうように教会に言いつけておいたから」
聖女メル様由来の酔っ払いながら婚約破棄は、あの日あの後も起こったそうです。メル様は王宮へ出禁となりました。
◇◇◇
「ユリア。愛しているよ」
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