損切り女子はスパダリ彼氏と別れたい

KUMANOMORI(くまのもり)

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 目が覚めて体を起こせば、続く海岸線が窓の外に見える。
 紺碧の海を臨みながら、もう一度眠りにつこうと、体を横たえた。
 泥のように眠って起きて、また眠る。

 目覚めた瞬間にはどんどん肥大化していく腹部と、どんどん鈍化していく頭の働きに危機感を覚えるけれど、気だるさにかき消されてしまうのだ。

「いいよ、眠っていて。何も心配しなくていい」
 優しい声をかけて、私の背中をさすってくれる。

 不満を言おうとすれば、吐き気と頭痛が襲ってきて、何も言えなくなる。

 2ヶ月ほど経ち体が動くようになって、テラスに出るようになった。でも、部屋からは出られない。
 ただ物を食べ、ただ眠っていた。

 
 私が仕事を失って数ヶ月後に、会社に一斉監査が入ったらしい。脱税と横領に関わっていた可能性があるとして、私のいた部署を中心に調べが入る。
 会社の情報を改竄していたので、私の存在は消えている。よって、私のところに捜査は入らない。
 それを、よーちゃん経由で聞く。
   
 よーちゃんと別れの前の最後の晩餐をしていたら、眠くなってしまう。休んでいいよ、と言われたのを最後に、昏倒した。
 そしてこの部屋で目覚める。
 
 何を尋ねても、休んでいていいよ、とよーちゃんは言うだけだ。

 運んでくれた食事をとると、いつも眠くなる。そして目覚めるのを繰り返していたら、いつしか吐き気と頭痛に襲われるようになった。

 体のだるさを訴えれば、自然なことだよ、ケトン体が増えているんだと思う。とよーちゃんがいう。ゼリーやレモン水、炭酸水を用意してくれるけれど、どれも喉を通らない。
 ひたすら求めているのは、なぜか、ガリだ。

 ガリを食べ、ベッドにふせって、目覚めて再び眠る。泥のような生き方をしていたのを記憶している。

 やっと起き上がれるようになれば、今度はテラスから外の景色を見る日々だ。

 よーちゃんに場所を聞く。ここが移住先をして彼が口にしていた離島だと知る。
 体を動かせるようになって初めて、自分が妊娠していることを知った。
 腹部の内部からの違和感を感じたからだ。
 

「私、妊娠しているみたい」と言ったとき、
「そうだよ、もう5ヶ月になる」とよーちゃんは言う。
「どうして?」
 ここ5ヶ月間、ほとんどまともな記憶がない。

「どうしてって。どうすれば、子どもができるかなんて、当然知っているだろ」
 そういう意味じゃないのに、とよーちゃんを見あげたら、

「サユが休んでいる間にも、人生を進めておこうと思ったんだ」
 返された。

「進むってどういう意味?」
「俺にとっての人生の進捗は、サユの人生とより深く結びつくこと」
「より、深く」
 私にはほとんど記憶がない。

「サユが疲れたなら、休んでいてくれればいい。その間に、人生を進めておくから」
 人生を進めておく。まるで、すごろくのコマを代わりに動かしてくれるかのような言いぶりだ。

 薄氷の上に知らぬ間に立ちすくんでいるような気分になる。
 動いても、動かなくても、いつかは氷は割れてしまう。

「俺のことを好きだけど、疲れるって言っていた。じゃあ、サユの疲れの部分を、俺が受け取ればいい。全部、面倒なことは俺がするから」

 よーちゃんの透明な器の中に、私が流れていく。


 
 
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