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第47話 逃避行
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「だって一緒に住んでるんでしょ?」
ユリカは、「南極にはペンギンがいるんでしょ?」くらいのニュアンスで、なんでもないことのようにそう言い放った。
「え?なんで?」
もちろん僕はすっとぼけたが、それは虚しい努力だった。
「なんでもなにも、祇園さんの後と昨日と、私今年になってもう2回もこの部屋に泊まってるんだよ?そんで、去年の夏はしょっちゅう泊まりに来てたんだよ?」
うん。付き合ってたんだからそりゃそうだ。
ちなみにユリカとはその秋に別れた。
なんでも、、芦屋に家がある関学の男と付き合うことにしたから、ということらしかった。
僕はひと夏ですっかりユリカに疲れていて、正直ホッとしたものだ。
「なんでその私が、この変化に気づかないと思ってるの?」
「トイレの可愛いうさぎちゃんカバーとマットは何?そこら中にあるぬいぐるみは何?玄関の赤い長靴と水玉模様の傘は何?ハル、いつからそんな少女趣味になったのよ?」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
いや、7月に泊まっていった時に、当然気づいただろうになぜ何も言わないのか不思議に思いつつも、僕はあえてそれを気にしないふりをしてスルーしていたんじゃないか。
「いや、ちょこちょこ遊びに来てて、その度に色々置いていくから困ってんねん…」
「洗面所に、『まいこ』っててんとう虫のシール貼った歯ブラシあるけど?」
いや、それは…その…
「あとここ」
そう言ってユリカは押し入れの扉に手をかけた。
「あ、そこは…」
僕が言うよりも早く、彼女は押し入れを開けた。
色とりどりのクッション、ぬいぐるみ、文庫本、ミルクチョコレート、ポテチ。
さらに、脱ぎ捨てたドルフィンパンツに、「おはよう!スパンク」のTシャツ。
明らかに誰かがそこに住んでいることは、金田一耕助相手じゃなくてももはや言い逃れできる状態ではなかった。
祟りじゃーっ!
「それにね」
ユリカは続ける。
「バーベキューの時も白浜の時も、とても親戚の女の子に対する態度じゃなかったじゃない?どっからどう見ても、ラブラブの恋人同士にしか見えなかったよ」
「いや、子供の頃から可愛がってたから…」
「思春期の親戚の女の子が、いくら仲いいからって大学生のお兄ちゃんとかき氷、あーんって食べさせ合う?」
もともとの性格のキツさと甲高い声もあって問い詰めているような口調ではあるものの、そこには怒りや嫉妬と言った感情は読み取れず、どちらかというと面白がっているようにしか見えなかった。
「で、付き合ってるの?ロリコンさん?」
僕はもう観念した。
「いや、付き合ってるわけじゃないし、世間的にやましい関係でもない」
「そう?じゃあ、何?」
「でも、一緒に住んでるのは事実やし、親戚の子じゃない。」
「ふ~ん…まあ、ハルがあんな子どもに手を出すわけがないって言うのは信じてあげるわ。だって、私と付き合ったことあって、ねえ?」
半笑いでそういうユリカに、僕は、軽井沢の蕎麦屋からの顛末を一通り話した。
「ふ~ん…じゃあ、舞子ちゃんは、好きとかそういうのじゃないけど、ハルの大事な存在ってことだ。」
それは、そうかも知れない。
僕は自分自身でも改めてそう認識して、すこし動揺した。
大事な存在。
確かに、それは何ら否定できるものではなかった。
「でも大丈夫なの?なんか最近、法律とか条例とかうるさいみたいだけど?」
僕も気になってる部分を突っ込んでくる。
「……いや、その、正直……そこは僕も気にはなってる。舞子がここにやってきたときからずっと」
僕は椅子に深く腰掛けて、頭をガシガシかいた。
さっきから同じ場所がかゆい気がしてたけど、それはたぶん良心の呵責だ。
「最初は、ほんまにコタツで一晩だけのつもりやってん。信州からいきなり来て、“泊めてください”って、アポなしでさ」
「アポなしで?」
「せやねん。次の朝、鍵渡して出かけて、学校から帰ってきたら、押し入れの中にクッション敷いて、ぬいぐるみ並べて、僕のランプまで持ち込んで……完全に“ここが私の部屋です”みたいな感じになってた」
「どうしてそこで鍵なんか渡すかなあ…?」
「僕もな、最初は“いやいやいやいや”って思ったよ。でも、妙に段取りよくて、生活能力あるし、洗い物も黙ってやってくれて……で、気づいたら“いても困らへんか”ってなってもうてん。まあ、親とも連絡取ってて関係いいみたいやし」
「いやいやいやいや、こっちのセリフだわ」
「あとな、美味しいもん食べさせたらめっちゃおもろいねん。」
「水族館のごはんタイムじゃないんだから」
「それとな、生活リズムが整ってさ。僕、ちゃんと朝起きて、ごはん食べて、大学行って、夜遊びあんまりせんようになって……なんか、人間として更生してもうた感じあって」
「舞子ちゃん、更生プログラムだったの?」
「たぶんな。未成年なのに。──でも、僕、ほんまに下心とかそういうんはなくて。ただ、断るタイミング全部失ったまま、気づいたら“巣付き”の部屋に住んでた、みたいな」
ユリカはしばらく黙って僕を見つめ、それからふっと吹き出した。
「……ハルはさ、ほんと昔から、流されやすいとこあるよね。てか、言い訳が全部ズレてんのよ。条例とかじゃなくて、もっと根本的にアウトな気がする」
「うん……僕も、なんか途中からわけ分からんくなってる。でも、だからって追い出せるような子でもなくてさ」
「そっか……じゃあ、せめて“営巣中”って張り紙でもしときなよ。誰かに突っ込まれる前に」
「そうするわ……ってするか!」
「で?どうして今は舞子ちゃんいないの?昨夜、どうするのかなーって思ってたら気にせず私を部屋に入れてくれたから不思議に思ってたのよ」
そう思ってたんなら上がり込むなよ、と思いながら、実家のおばあちゃんが倒れて10日ほど実家に帰っていることを言った。
「そう…ってじゃあ私、間男ならぬ間女みたいになってるんじゃない!?」
ユリカは自分で言った『間女』という単語がツボに入ったみたいで、ゲラゲラ笑い出した。
「じゃ、じゃあさ」
笑いすぎて言葉がスムーズに出ないようだ。
「舞子ちゃん帰ってくるまで、私、『間女』やってあげるよ」
「え?なんやそれ?ていうか、白浜まで迎えに来てくれてた、あの阪大だかの彼氏はいいの?赤いプレリュードの」
「あー、いいのいいの。あのヒト、つまんないから。将来性あるから付き合ってるけど、時々呼び出してあげたり、イベントの時だけ相手してあげたらそれで満足してるみたいだし。祇園祭とか、送り火とか。」
酷い言われようだ。
将来性はあるけどつまんない、僕ならそんな事言われたら当分立ち直れない。
「ん?送り火は彼氏と過ごすの?」
「そうだよ。」
今年も送り火はユリカと嵐山か…などと考えていた僕は、ちょっとすかされた。
勝手なものだ。
「じゃ、今日明日はここにいるね?…まあ、暇つぶしにはちょうどいいじゃん」
そういってユリカは冷蔵庫を勝手に開けて、入っていた雪印フルーツをグラスに注いで飲み始めた。
あ、それは舞子の…とは言い出せなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
8月16日。
僕はアパートの周りが傍若無人な輩どもで混みだす時間帯になる前に、アパートの駐車場から車を出して、白川通を北へ向かった。
このまま出町柳にいたら、またどんなトラブルに巻き込まれるか分かったもんじゃない。
大原から滋賀県を目指す。
「京都~大原、三千院♪」
大原を通る時、ひとりで歌ってみたけど、全然面白くなかった。
試しに、「大原三千里♪」と歌ってみたら、今度はちょっとだけ面白かった。
舞子はどうしているだろう。
堅田まで行って、びわこタワーの前を左折して北に向かう。
バイト先チェーンのびわ湖店の前を通り過ぎ、やがて白鬚神社の鳥居が湖の中に見えてきた。
春に舞子と奥琵琶湖に桜を観に行った時と同じルートだ。
ラジカセからは、今日は、この前たくさん借りてきたレコードを自分でカセットにダビング編集したAORがずっと流れている。
ビル・ラバウンティ、ボビー・コールドウェル、シカゴ、そして──
♪Everybody wants to rule the world.
Tears for Fearsに言われるまでもなく、僕も自分の周りのややこしいあれやこれやを支配したいものだ。
本当は、権力の暴走と戦争についてを歌ったものらしいけど。
安曇川を抜け、今津を抜け、そのまま「福井・敦賀」方面に直進。
県境の山道に入り、「国境スキー場」というそのまんまなスキー場の看板を越えると、本当にすぐに福井県に入る。
峠を下ると、ほどなく敦賀の街に出た。
一昨年の夏にバイト先のメンバーで海水浴に来た時の民宿街が見えてくる。
見覚えのある道を左折して海に出ると、そこは「気比の松原」という、海水浴場もあるきれいな公園になる。
あの時はこの海水浴場で、日焼け止めも塗らずに午後から砂浜で昼寝してしまって、後で日焼けでえらい目にあった。
駐車場に車を停め、海岸に降りる。
もうクラゲの出てくる時期だと言うのに、海水浴客でいっぱいだ。
ぼちぼち日が落ち始める時間なのだが、みんな夏の日の日差しの最後の一滴まで浴びようとしているかのように帰ろうとしない。
僕はタバコを咥えて、火を点けた。
特に目的があってここにきたわけじゃない。
強いて言うなら、ここに来てタバコを1本吸うことが目的だった。
舞子のいない部屋に、もう少しいたくなかった。
ここまで来て、タバコを1本吸って、帰りにびわ湖店でアイスモカジャバでも飲んでゆっくりしてからアパートに帰れば、あの馬鹿げた人混みもマシになっている頃だろう。
ついでに北白川で天下一品でも食べて帰れば完璧だ。
「えー?またテンイチ?」
海の匂いと風の音の中に、ふと、舞子の声が混じった気がした。
ユリカは、「南極にはペンギンがいるんでしょ?」くらいのニュアンスで、なんでもないことのようにそう言い放った。
「え?なんで?」
もちろん僕はすっとぼけたが、それは虚しい努力だった。
「なんでもなにも、祇園さんの後と昨日と、私今年になってもう2回もこの部屋に泊まってるんだよ?そんで、去年の夏はしょっちゅう泊まりに来てたんだよ?」
うん。付き合ってたんだからそりゃそうだ。
ちなみにユリカとはその秋に別れた。
なんでも、、芦屋に家がある関学の男と付き合うことにしたから、ということらしかった。
僕はひと夏ですっかりユリカに疲れていて、正直ホッとしたものだ。
「なんでその私が、この変化に気づかないと思ってるの?」
「トイレの可愛いうさぎちゃんカバーとマットは何?そこら中にあるぬいぐるみは何?玄関の赤い長靴と水玉模様の傘は何?ハル、いつからそんな少女趣味になったのよ?」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
いや、7月に泊まっていった時に、当然気づいただろうになぜ何も言わないのか不思議に思いつつも、僕はあえてそれを気にしないふりをしてスルーしていたんじゃないか。
「いや、ちょこちょこ遊びに来てて、その度に色々置いていくから困ってんねん…」
「洗面所に、『まいこ』っててんとう虫のシール貼った歯ブラシあるけど?」
いや、それは…その…
「あとここ」
そう言ってユリカは押し入れの扉に手をかけた。
「あ、そこは…」
僕が言うよりも早く、彼女は押し入れを開けた。
色とりどりのクッション、ぬいぐるみ、文庫本、ミルクチョコレート、ポテチ。
さらに、脱ぎ捨てたドルフィンパンツに、「おはよう!スパンク」のTシャツ。
明らかに誰かがそこに住んでいることは、金田一耕助相手じゃなくてももはや言い逃れできる状態ではなかった。
祟りじゃーっ!
「それにね」
ユリカは続ける。
「バーベキューの時も白浜の時も、とても親戚の女の子に対する態度じゃなかったじゃない?どっからどう見ても、ラブラブの恋人同士にしか見えなかったよ」
「いや、子供の頃から可愛がってたから…」
「思春期の親戚の女の子が、いくら仲いいからって大学生のお兄ちゃんとかき氷、あーんって食べさせ合う?」
もともとの性格のキツさと甲高い声もあって問い詰めているような口調ではあるものの、そこには怒りや嫉妬と言った感情は読み取れず、どちらかというと面白がっているようにしか見えなかった。
「で、付き合ってるの?ロリコンさん?」
僕はもう観念した。
「いや、付き合ってるわけじゃないし、世間的にやましい関係でもない」
「そう?じゃあ、何?」
「でも、一緒に住んでるのは事実やし、親戚の子じゃない。」
「ふ~ん…まあ、ハルがあんな子どもに手を出すわけがないって言うのは信じてあげるわ。だって、私と付き合ったことあって、ねえ?」
半笑いでそういうユリカに、僕は、軽井沢の蕎麦屋からの顛末を一通り話した。
「ふ~ん…じゃあ、舞子ちゃんは、好きとかそういうのじゃないけど、ハルの大事な存在ってことだ。」
それは、そうかも知れない。
僕は自分自身でも改めてそう認識して、すこし動揺した。
大事な存在。
確かに、それは何ら否定できるものではなかった。
「でも大丈夫なの?なんか最近、法律とか条例とかうるさいみたいだけど?」
僕も気になってる部分を突っ込んでくる。
「……いや、その、正直……そこは僕も気にはなってる。舞子がここにやってきたときからずっと」
僕は椅子に深く腰掛けて、頭をガシガシかいた。
さっきから同じ場所がかゆい気がしてたけど、それはたぶん良心の呵責だ。
「最初は、ほんまにコタツで一晩だけのつもりやってん。信州からいきなり来て、“泊めてください”って、アポなしでさ」
「アポなしで?」
「せやねん。次の朝、鍵渡して出かけて、学校から帰ってきたら、押し入れの中にクッション敷いて、ぬいぐるみ並べて、僕のランプまで持ち込んで……完全に“ここが私の部屋です”みたいな感じになってた」
「どうしてそこで鍵なんか渡すかなあ…?」
「僕もな、最初は“いやいやいやいや”って思ったよ。でも、妙に段取りよくて、生活能力あるし、洗い物も黙ってやってくれて……で、気づいたら“いても困らへんか”ってなってもうてん。まあ、親とも連絡取ってて関係いいみたいやし」
「いやいやいやいや、こっちのセリフだわ」
「あとな、美味しいもん食べさせたらめっちゃおもろいねん。」
「水族館のごはんタイムじゃないんだから」
「それとな、生活リズムが整ってさ。僕、ちゃんと朝起きて、ごはん食べて、大学行って、夜遊びあんまりせんようになって……なんか、人間として更生してもうた感じあって」
「舞子ちゃん、更生プログラムだったの?」
「たぶんな。未成年なのに。──でも、僕、ほんまに下心とかそういうんはなくて。ただ、断るタイミング全部失ったまま、気づいたら“巣付き”の部屋に住んでた、みたいな」
ユリカはしばらく黙って僕を見つめ、それからふっと吹き出した。
「……ハルはさ、ほんと昔から、流されやすいとこあるよね。てか、言い訳が全部ズレてんのよ。条例とかじゃなくて、もっと根本的にアウトな気がする」
「うん……僕も、なんか途中からわけ分からんくなってる。でも、だからって追い出せるような子でもなくてさ」
「そっか……じゃあ、せめて“営巣中”って張り紙でもしときなよ。誰かに突っ込まれる前に」
「そうするわ……ってするか!」
「で?どうして今は舞子ちゃんいないの?昨夜、どうするのかなーって思ってたら気にせず私を部屋に入れてくれたから不思議に思ってたのよ」
そう思ってたんなら上がり込むなよ、と思いながら、実家のおばあちゃんが倒れて10日ほど実家に帰っていることを言った。
「そう…ってじゃあ私、間男ならぬ間女みたいになってるんじゃない!?」
ユリカは自分で言った『間女』という単語がツボに入ったみたいで、ゲラゲラ笑い出した。
「じゃ、じゃあさ」
笑いすぎて言葉がスムーズに出ないようだ。
「舞子ちゃん帰ってくるまで、私、『間女』やってあげるよ」
「え?なんやそれ?ていうか、白浜まで迎えに来てくれてた、あの阪大だかの彼氏はいいの?赤いプレリュードの」
「あー、いいのいいの。あのヒト、つまんないから。将来性あるから付き合ってるけど、時々呼び出してあげたり、イベントの時だけ相手してあげたらそれで満足してるみたいだし。祇園祭とか、送り火とか。」
酷い言われようだ。
将来性はあるけどつまんない、僕ならそんな事言われたら当分立ち直れない。
「ん?送り火は彼氏と過ごすの?」
「そうだよ。」
今年も送り火はユリカと嵐山か…などと考えていた僕は、ちょっとすかされた。
勝手なものだ。
「じゃ、今日明日はここにいるね?…まあ、暇つぶしにはちょうどいいじゃん」
そういってユリカは冷蔵庫を勝手に開けて、入っていた雪印フルーツをグラスに注いで飲み始めた。
あ、それは舞子の…とは言い出せなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
8月16日。
僕はアパートの周りが傍若無人な輩どもで混みだす時間帯になる前に、アパートの駐車場から車を出して、白川通を北へ向かった。
このまま出町柳にいたら、またどんなトラブルに巻き込まれるか分かったもんじゃない。
大原から滋賀県を目指す。
「京都~大原、三千院♪」
大原を通る時、ひとりで歌ってみたけど、全然面白くなかった。
試しに、「大原三千里♪」と歌ってみたら、今度はちょっとだけ面白かった。
舞子はどうしているだろう。
堅田まで行って、びわこタワーの前を左折して北に向かう。
バイト先チェーンのびわ湖店の前を通り過ぎ、やがて白鬚神社の鳥居が湖の中に見えてきた。
春に舞子と奥琵琶湖に桜を観に行った時と同じルートだ。
ラジカセからは、今日は、この前たくさん借りてきたレコードを自分でカセットにダビング編集したAORがずっと流れている。
ビル・ラバウンティ、ボビー・コールドウェル、シカゴ、そして──
♪Everybody wants to rule the world.
Tears for Fearsに言われるまでもなく、僕も自分の周りのややこしいあれやこれやを支配したいものだ。
本当は、権力の暴走と戦争についてを歌ったものらしいけど。
安曇川を抜け、今津を抜け、そのまま「福井・敦賀」方面に直進。
県境の山道に入り、「国境スキー場」というそのまんまなスキー場の看板を越えると、本当にすぐに福井県に入る。
峠を下ると、ほどなく敦賀の街に出た。
一昨年の夏にバイト先のメンバーで海水浴に来た時の民宿街が見えてくる。
見覚えのある道を左折して海に出ると、そこは「気比の松原」という、海水浴場もあるきれいな公園になる。
あの時はこの海水浴場で、日焼け止めも塗らずに午後から砂浜で昼寝してしまって、後で日焼けでえらい目にあった。
駐車場に車を停め、海岸に降りる。
もうクラゲの出てくる時期だと言うのに、海水浴客でいっぱいだ。
ぼちぼち日が落ち始める時間なのだが、みんな夏の日の日差しの最後の一滴まで浴びようとしているかのように帰ろうとしない。
僕はタバコを咥えて、火を点けた。
特に目的があってここにきたわけじゃない。
強いて言うなら、ここに来てタバコを1本吸うことが目的だった。
舞子のいない部屋に、もう少しいたくなかった。
ここまで来て、タバコを1本吸って、帰りにびわ湖店でアイスモカジャバでも飲んでゆっくりしてからアパートに帰れば、あの馬鹿げた人混みもマシになっている頃だろう。
ついでに北白川で天下一品でも食べて帰れば完璧だ。
「えー?またテンイチ?」
海の匂いと風の音の中に、ふと、舞子の声が混じった気がした。
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