バケモノ貴公子は傷を負った令嬢を寵愛する

冬野 海

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22話 布石のドレス

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22話 布石のドレス

三日ぶりに屋敷へ戻ると、既に注文していた例のドレスが仕上がっていると執事長から連絡があった。

婚約解消するためのドレス。

僕からすれば目を背けたくなる、派手な色やデザインを好むヴィヴァーチェ王女殿下。
今回は何の特徴も無い平凡なドレスは彼女にとって最大の侮辱になる。

『平民が着る服か』と激怒し喚き散らすだろう。

小さな宝石の一つも、レースも付いていないシンプルなデザイン。
二十代の女性によく好まれるベージュのドレス。
貴族令嬢であれば、よく見かけるドレスだ。

だが生地やレースに至るまで、特別なルートで手に入れた上質のシルクを使用しているため、レアソル家以外の貴族が身につけるのは不可能だ。

今回もこのドレスが王女殿下によって酷い目に遭わされると思うと縫製職人たちには申し訳ないが、僕が必ず屋敷に持ち帰るから。

何度も父と婚約解消に向けて話し合った。

必ず王女殿下の口から「婚約解消する」と言わせること。
その場には書記官、高位貴族も同席させるという結論に至った。
これが一番安全かつ確実な方法だ。

個人的な事情ではあるが、二人だけでは後で何を言われるか分からない。

書記官が同席しているような状況であれば、王族の発言は必ず記載される。
仮に王族が訂正、消去の命を下してもそのように記載されるだけだ。

しかし問題は王女殿下の公務がほとんどなく、遊び暮らしているため、書記官と同席する状況はほとんどない。

公務として国内外の来賓客との晩餐では、親交を深める会話もなければ、時には不快な思いをさせるだけであった。

王女殿下の生誕祭が六月に開催される。
その為の協議があと二回行われ、初回から書記官も王女殿下も出席している。

初回の協議の場で、王女殿下から、

「醜い顔のバケモノが私と同じ場にいてるなんて耐えられない。協議なんて無理よ」

との言葉を受け、それ以降、協議の場には出席はしていない。

毎回、王女殿下の度重なる暴言に心が折れるが、周囲の憐れむ視線が、さらに僕をバケモノに貶めるような気にさせる。

後日、担当者から協議内容の報告を受けるが、王女殿下は『ドレス、宝飾品、晩餐のメニューをもっと豪華に』という発言しかない。

それでは担当者も書記官も、うんざりするわけだ。

僕が欠席してからは、王女殿下のお気に入りの侯爵子息フェルヴィド・ペルデントが『婚約者に酷い仕打ちを受けて、お可哀想な王女殿下、もし私が婚約者ならば…』と協議に出席しているらしい。

レアソル家から支援を受けて家門を立て直し、ワインの製造、販売で隆盛を誇るペルデント家。

次に欲しいのは王家との繋がり——

今や王女殿下の足元で餌を待つ姿は滑稽ですらある。
ならばその名誉ある座を、快く譲って差し上げようではないか。

おそらく王女殿下は何も理解できていない——

婚約して以来、生誕祭の全費用はレアソル家が肩代わりしており、年々費用が高騰している。
今でも既に昨年の予算を超えており、まだ増えるだろうと王女殿下の侍従から相談があった。

これは面白いことになりそうだ。
すべての手筈はもう整っているんだ。

次回の協議には、あえて婚約者として参加してやろうじゃないか——
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