バケモノ貴公子は傷を負った令嬢を寵愛する

冬野 海

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54話 マカロン

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54話 マカロン


マカロン専門店の“アンブルメン”

手頃な大きさと、色とりどりのマカロンは選ぶ楽しみもあり、最近令嬢たちに人気があるらしい。
特に木曜日は期間限定の”芳醇ラズベリーマカロン“はとても人気が高いと聞く。

翌朝十時の開店と同時に一番乗りで、ミスティア嬢を思い浮かべながらマカロンを選ぶつもりだった。

しかし木曜日の朝十時。

僕は軽く敗北感を感じている。

婚約発表の二週間後に婚約パレードを開催するようにと王女殿下から要請があったため、各部門の面々と打ち合わせをしている。

王宮内でゆったりとワインを堪能していればいいものを…

婚約パレードは当然、予算に組み込まれていない。
通常は王家、あるいは王女殿下の私費の予算から支払われる予定だ。
どのように捻出するかは知らないが。

元婚約者の僕が表に出るわけには行かないので、すすんで王城待機を引き受けた。

パレードのルート、馬車の装飾、人員配置、先導騎士、周辺道路の交通規制、など決めなければならない項目は多い上に、婚約者の侯爵子息が「自慢のワイン樽を転がしたい」と言い出した。

一体誰が転がすというのか……

短い時間での調整が困難を極めた。
王女殿下の気まぐれで中止になる可能性も予測し、婚約パレードは王城の周辺を軽く二周してはどうかと提案した。

これには全員の賛同が得られ、調整はスムーズに進めることができたが、「さすが元婚約者」と言った奴らの顔は覚えているからな!

そして一週間後の木曜日、朝十時過ぎ。
僕はマカロン専門店アンブルメンの前にいる。

開店と同時に一番乗りを決め込んでいたが、躊躇してしまった。
ガラス越しでも可愛らしいマカロンが並んでいるのがよく分かる。

そのような店に僕のような者が、入っても良いのだろうか?
…他の客に迷惑にならないか?

侍従に代わりを頼むことも考えたが、自分で選びたい。
店の前で悩んでいると、「こんにちは。どうぞいらっしゃいませ」と店員が声をかけてくれた。

「入っても良いのか?」と尋ねると
「あっ…てっきりお客様かと思っていましたが…」と店員を困惑させてしまった。

「ありがとう。マカロンを購入したい」と伝えると、色とりどりのマカロンを案内してくれた。

パステルカラーのマカロンに目移りする。
あった、これだ。
期間限定芳醇ラズベリーマカロン。

白色のマカロンはミスティア嬢の白衣のようだ。
この薄桃色のマカロンは、初めて馬車までエスコートした時のミスティア嬢の頬の色だ。

「…これは買い占めないといけない」

「それでございましたらご予約お受け致しますが…」

僕の周りには先ほどより客が増えており、“バケモノ大公子息”とは違う視線を感じた。

しまった。声に出ていたか。

「あぁ、いや、すまない。本日はいくつか頂きたいのだが、よろしいかな?」

「はい。お好きなマカロンをどうぞお選びください」

ライトグリーンのマカロンについている”蒼翠の眼差し“というネーミングは、まるで僕のことのようだ。
芳醇ラズベリーマカロンには”スピネルに溺れる“これも僕のことだな。

三十分以上悩みに悩んで、選んだ十個のマカロンを五個ずつ入れてもらい、二セットにして購入することにした。
丁寧に包装してもらい、自分で買えたことに満足した。

ついでに母に贈るマカロンを購入した。

最近『花壇に護衛騎士をつけようかしら』と言い出した。
潰していないのだからもう勘弁してほしい…

爽やかな黄色のマカロン。
ネーミングは“レモンの執着”母にピッタリだ。

店を出る時に「成功をお祈りします」と言われた。
成功とは少し変わった言い回しと思ったが、このような仮面をつけているから“相手に上手く渡せますように”ということだろう。

……これは研修を頑張っているミスティア嬢へささやかな激励のマカロンだ。

マルカトにも別の物を用意してある。

しかし、マカロンをきっかけに会話ができればと、期待している下心は否定できない。

そしてミスティア嬢の瞳を思わせるライトブルーのマカロンも購入した。

“瑠璃の守護”……これはだけは僕一人で味わうんだ。
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