バケモノ貴公子は傷を負った令嬢を寵愛する

冬野 海

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64話 根拠は

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64話 根拠は

婚約パレードを一週間後に控えたある日、突然“中止”が伝えられた。

「二週間の準備期間ではヴィヴァーチェ王女殿下の安全確保が困難」という理由だった。
これには騎士団長たちは胸を撫で下ろし、ワイン樽を転がすはずの騎士も安堵した。

僕はあり得るだろうと予測できていた。

王女殿下の言動、プロテオが言ってた火種…
そして、タキトスからの情報。

——ブドウの実——

確定できる時期がきたのだろう。
王女殿下は恐らく…

マルカトもミスティア嬢もいつもと変わらずペサンテから学んでいる。
二人の顔つきが研修当初から、ずいぶん凛々しくなってきた。

あの日以来、ミスティア嬢との距離感が近くなったように思う。

向けてくれる笑顔も、増えた気がする。
気のせいかもしれない…
それでも僕には、それだけで十分だ。

ある日タキトスが珍しく、食堂でマカロンを食べていた。

「なんでお前が、マカロンを食べているんだ」

ミスティア嬢の髪の色を思わせるクリームブラウンのマカロン。
なぜ、お前がミスティア嬢の色に触れるんだ。

——そう思った瞬間、腹が立ったからタキトスから奪い取ってやった。

「おい!リソルート。何するんだ」

「お前甘いもの嫌いだろ。マカロンだけは食べるな」

「それだけかなぁ、レアソル団長~」

「お前、店で僕と同じマカロンくれって言ったんだろ」

「あーそれねー、俺じゃなくてマルツイだ」

「マルツイが?」

「騎士たちの中で噂になってるぞ“レアソル団長の強さの秘密はマカロンにあり”ってな」

なんだそれ?しかし噂のタネがミスティア嬢ではなかったことに安心する。
そこへマルツイがやってきたので聞いてみた。

「強さの秘密って何のことだ?」

「レアソル団長の強さに憧れるあまり、偶然、マカロンを購入するのをお見かけして、同じマカロンを購入しました」

その後、他の騎士たちも同じように真似をしたらしい。
僕が新人騎士の頃は“強くなるためにピーマンを食べる“が流行ったな…
僕は嫌いだから食べなかったけど。

「まさかそんなことになっていたのか。
しかし一番大切なのは日々の鍛錬と、向上心だ。
でもあのお店のマカロンは美味しかった。
いいお店を教えてくれてありがとう」
と礼を言うと、

「あのお店は人気ですから。プロポーズにも」

「プロポーズ?とは…?」

マカロンがどうプロポーズに関係するんだ?
詳しく話を聞くと、アンブルメンの売り文句か、五個入りを二人セット贈ることで、

——人生を共にしよう——

というプロポーズの言葉になるらしい。

五個入りを…二セット贈る…

ミスティア嬢に贈ったのと同じだ!
もしかして…僕はプロポーズしたことになるのか?
まずいぞ…これは、まずいことになった…
焦りを隠すため仮面に手をやった。

「心配するな。決めセリフも指輪もなかったんだろう?ただのマカロンと思っているさ」

「そうか、それもそうだな。だが、それも寂しいな…」

いつの間にかマルツイは他の騎士たちの元に戻り、タキトスは取り上げたはずのマカロンを食べていた。

「リソルート。お前に確認したいことがある」

タキトスは手に取ったマカロンを箱に戻し
自分の前に座れと促す。
そして滅多に見ない神妙な顔をした。

「何だ。どうした」

タキトスは周囲に悟られぬよう、口元の拳で隠し言った。

「バーランから報告がきた。単刀直入に聞く。
ヴィヴァーチェ王女殿下の腹の子、父親はお前じゃないよな」

ふー…思わずため息が漏れる。
その一言は怒りを通り越して呆れるほどだ。
確認せずとも、分かりきったことを聞くほど衝撃的な事実だろう。

神は信じていないが、神に誓ってもいい。
僕はタキトスを睨みつけ言ってやった。

「絶対にそれはない。全くあり得ない。天地がひっくり返っても——ない」

これ以上言うことはない。
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