BL短編

水無月

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幼馴染

浮気より気になること

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 恋人が週刊誌を飾っていた。

 見出しにはアイドルグループ『スノードヴム』の霧崎純・熱愛発覚‼ と昭和感丸出しの太文字が。写真にはどえれぇイケメンと女性の後頭部が映っている。顔は見えないが仲良さそうに腕を組んでいた。

 俺――花見勇気は閉じた雑誌を机に置く、足元で、さっきから無言で土下座している恋人を見下ろす。

「で、遺言は?」
「待ってくれええ! 勇気! 話を聞いてほしい」

 土下座石像みたいだったのに、泣きながら膝に縋りついてくる。顔から出る体液全て出ているのにイケメンだなぁ。

「縋りついてくんなよ。ズボンが汚れるだろ馬鹿」

 スリッパを脱いで足の裏で純の顔を押し返す。

「違うんだって勇気……ちょ、足邪魔!」

 ぺいっと足を退かされる。

「邪魔なのはお前だろ。この部屋から消えろ成仏した霊のように」
「家主俺なのに⁉ 違うって。う、うう、浮気じゃないんだよ!」

 目の前のイケメンと俺は恋人同士だ……った。

「いままで楽しかったわ。いい思い出をありがとう。……お前より好きな奴は現れないだろうけど、次の恋人探すよ」

 アパートの一室から出て行こうと荷物を纏める。長いこと住んでいたから俺の私物が多い。

 デカい鞄を引っ張り出すと純が背後から羽交い絞めする勢いで抱きしめてきた。作業が出来ない。

「どこ行くねん! やめろそんな嬉しい言葉残して、この部屋から出れると思うなよ!」
「……っせーなぁ。結局お前も女が良いんじゃねーか。死んでくれよ二回ほど」

 抱きしめたまま、俺をソファーまで引き戻そうとする純。俺も抵抗するがなんというか、こいつの気迫に負けた。
 ボスンッとソファーの上に投げ飛ばされる。

「いって……! お前は。暴力だけは振るわない奴だと思ってたのに」

 見上げながら睨みつけるも、奴はすぐ床に両膝を着いた。

「ごめんごめんごめん‼ 勇気。浮気じゃないんだって。彼女とは友達! そう、スイーツ食べ放題に行った帰りに酒飲みながらラーメン屋梯子する会の仲間なんだ‼」

 白目剥いて固まった。

「何やってんのお前⁉ アイドルがそんな狂気のデブ活すんな! 全身に吹き出物出来て死ぬぞ⁉ お前のファンが!」

 純は家では――いや外でも結構このザマだが。歌唱力とかでもなんでもなく、ロイヤルルックスと国宝級の顔面の力で『スノードヴム』のリーダーを務めている。

 アホなのだがどういうわけか、プラチナの髪と金の瞳という色素薄いカラーのせいで儚い感じに思われている奇跡の人物だ。十八年前鼻水垂らしながらカブトムシを追いかけていた奴と同一人物と思えない。青虫が蝶になるように成長しやがった。月日の流れってすごいな。

 アホが足に抱きついてくる。さっきからなんなんだこの足にまとわりついてくる妖怪は。

「だって! 仕事仕事仕事で気が狂いそうだったんだもん。甘いもの食わないとやってられなかったんだよ! ……勇気は甘いもの興味ないし。一人じゃつまんないから、彼女を誘っただけで。その後はすぐに解散したし」
「俺のせいにするのか?」
「違うう! してませんっ‼ 一人でお店行くの嫌いなんだもん」
「あと、お前はもう十分狂ってるから。狂いそうだとかそんなこと気にするな。それならラーメンは行く必要ないだろ」
「甘いものの後はしょっぱいものが~」

 ひんひんと泣き始める。

 その姿にこいつのどこが好きなんだったっけ? と疑問を持った。自分に。

 純は、「いつかビッグになる!」と口だけは威勢のいい男だった。なかなか芽が出ないこいつの世話をしていたのが俺だ。初めは幼馴染だから。こいつ見捨てたら野垂れ死ぬんじゃないか? という思いから。

 俺がせっせとバイトして夢を応援した。その頃の俺は仕事以外、やりたいことがなくて貯金だけはあったから。

 でももう飽き……限界で、突き放そうとしたら告白された。面食らった。夢だと思って純を一発殴ったが夢ではなかったようだ。

 俺は恋愛対象が男のみだから、ちょっとは嬉しかったけど。もちろんヒモ男など冗談ではない。

『あー……紅白に出たら付き合ってやるよ』
『マジで⁉』

 で、今や紅白の常連。日本のトップアイドルの一員、というわけ、か。

 もっと早い段階で本気出せよ、と心底思ったが。売れたのは喜ばしいことだ。

 黙っていると無視されていると思ったのか、言葉を重ねてくる。

「勇気? 勇気にとって女友達と飯行くことが浮気になるならもうやめる! 二度としない‼ ……だから、機嫌直してくれ。あ! 勇気にもそのラーメン屋教えてやるからさ。吸血鬼を退治できるほどニンニク乗っててうまいんだぜ?」
「いらない。俺をデブの道に引きずり込むな」
「勇気はもっと肉付けた方が。尻とか。なんでもないっす」

 うーん。女友達と飯が浮気かどうか。

「仕事ならごちゃごちゃ言わないけど、プライベートで女性とそんな、狂った飯行かれたらいやだなー……俺はね?」
「え? ヤキモチ?」

 ぱあっと表情を明るくしたイケメンの額にキスを落とす。

「勇気……」
「喜ぶなカス」
「……ごめんなさい」

 自分でも驚くほど冷たい声が出た。純は正座している。

「純は? 俺と別れたかったから女性と飯行った、ってわけじゃないんだな?」
「うん! 絶対それは無い! 俺は、勇気以外興味ないし」

 真っすぐに言われると照れるな。今更こいつの顔面にときめくことは無いが、そういうセリフは嬉しい。

「じゃあ、今回は許してやるよ」

 ふんぞり返りながら偉そうに言ったのに純は素直に両手を上げて喜びをあらわにする。可愛いんだよな、こういうところは。

 プラチナヘアーを撫でてやる。

「えへっへ。誤解が解けて嬉しいよ」
「お前は浮気とかより、その狂気の会を退会しろ」
「えー? 生クリームと酒とラーメンのコンボが」

 聞いてるだけで胸焼けしてくる。

「身体に悪いから言ってやってるのに」

 顔をしかめていると浮気の話はもう終わったと思ったのか、上機嫌で隣に座ってくる。なんでだよ。同じ高さのところに座られたら首が痛いから、床に座っていてほしい。

 腕を伸ばすと俺の肩を抱き寄せる。

「やめてほしいなら、勇気が頑張ってよ。甘い気分にさせて」
「はあ……」

 唇を寄せてきたので受け入れる。こいつ、喫煙するときも似たようなこと言ってたな。

 赤い舌先で、唇を舐められる。

「口開けて」

 こいつとのキスは最高だが、

「今はディープキスの気分じゃない……」

 気分じゃない時もある。

 離れようと思ったが一手遅かった。やさしく押し倒されソファーに押し付けられる。体格差もあり、こうなると逃げ出せない。

「ゆーうきっ。トップアイドルの俺が付き合ってやってるのに、つれないこと言ったら駄目だぞ~?」
「その台詞、寒気するほどキモいな」
「俺はそういう、気の強いとこ好き」
「はあ……」

 このやりとり何回目だよ。よほど売れたのが嬉しいんだな。それは俺も嬉しいが。

 恒例となった会話に呆れていると耳を甘噛みされる。

 ドキリとしてしまうが、鬱陶しげに純の顎を押し返した。

「あー。どけ。気分じゃないってば」
「嫌がってる勇気が……興奮するんだ~。俺は」

 また変なモードに入った。アイドルにあるまじき顔で笑っている。ファンに見せるなよ絶対に。

 俺の手首を掴むとソファーについている手枷をはめられる。

 ガチャンと音がして、片手が顔の横から動かせなくなった。

「おい。乗り気じゃない時はやめろって言っただろ」

 てかコレ、この前プレイで使ったやつ! なんでまだソファーと一体化してるの?

「はいはい。こっちの手も固定しよーね。勇気、手錠がめっちゃ似合ってたから、捨てれなくてさ~」

 左手も掴まれるが振り払う。

「うざいって」
「ああ~。嫌がってる勇気の顔、最っ高! ……泣かしたくなる」

 最後の一言に体温が下がる。何度か泣かされたこと実際にあるしな。でもあれは気持ち良くて……。

「純~」
「なに? 嫌? 嫌なの? 命乞いしてみる?」

 命乞い⁉ 俺はこれから殺されるんか?

 楽しいのか気分が乗ってきたのか、他人に見せられない笑顔が輝いている。

「ほら。嫌ならもっと抵抗しなよ。犯されちゃうよ~?」

 服の上から胸に手を置き、手のひらで乳首をこねるように回してきた。

 うっっぜえぇ……

 しかしじわりと快感が広がり、脳の奥を痺れさせる。

「んっ」

 胸をくすぐるように引っ掻きながら、首筋に歯を当ててきた。うっすら歯型が残るくらいの力で噛まれる。

「ちょ、くすぐったい……」
「あれ? 気分じゃないって言ってたのに? ノってきた? 甘い声出てるよ?」

 なんで俺はこいつを殺したら駄目なんだろうか。

「純! いい加減ッ、ぁ」

 タイミングを見計らったかのように乳首をキュッと抓られる。

「あは。腰浮いたね~。勇気はここが気持ち良いんだよね?」
「純!」

 本気で殴ろうとしたが手のひらで受け止められた。蹴ろうと足を上げるも、膝で股間を押される。

「ンッ!」

 ビクッと腰が引いた。

「はは。興奮してきた?」

 きつく目を閉じたと同時に、ガチャンと左手首に冷たい輪っかが通される。

「ほらほら。もっとなんか言ってよ」
「あ、お前……やめ」

 ぐりぐりと股の間を刺激される。逃れようと腰を揺らしていると、上着のチャックを下ろしシャツのボタンを外すと胸に吸いつかれた。

 ぴりっとした痛みが走る。

「ッ、あ! 馬鹿っ」
「ははっ。ここがイイんでしょ?」
「~~この……」

 いい加減でだらしなくてアホなこいつを見て。付き合いたての頃は俺が抱くんだと、ぼんやり思ってたんだけどな。

 俺が抱いたことは無い。

「純……。っは」
「乳首立ってきたね。かわいいっ」

 薄い舌で舐められ、太ももが震える。触れられたような刺激で下半身に熱が送られる。気持ちが拒んでも、快感を覚えている身体がこいつを求めだす。

「やめろってば……」

 煩わしそうに片方の耳を塞ぐ。

「勇気さ。手錠がガチャガチャうるさいんだけど。観念しなよ。もう拘束されてるんだし」
「手錠つけたのお前だろ!」
「はいはい。うるさいうるさい」

 ズボンのベルトを外される。

「おい」
「なんで家でもベルトつけてるの? お洒落?」
「お前がすぐ脱がそうとしてくるからだよ」

 足を上げようとしたが、がっちり抱え込まれた。

「蹴ろうとしないでよ。足も固定するよ?」
「お前なぁ……っあ」

 入り込んできた手に、下着ごと撫でられ吐息交じりの声が漏れる。猫の喉を撫でるような指使いで触りながら、顔を近づけてきた。

「ん~? もう濡れてるけど? 実は嫌がるフリだった? 勇気。可愛いじゃん」
「だっる……。お前、ンッ」

 敏感な個所を爪で掻かれ小さく反応してしまう。

 にやにやと楽しそうな笑みが癇に障る。

「どこで反応したの? ここ? ここ?」
「んっ、あ。ひゃ、ぁ」

 どこが敏感かなどとっくに知り尽くしているくせに、とぼけたことを言いながら責めてくる。

 密を垂らしている先端を執拗にいじられ、甘い声が漏れてしまう。

「は、ぁ。やっあ。ん」
「はは。勇気。あんなこと言っといて喘いでるじゃん。ねえ」
「うるさっ、んあ」

 純の手が下着の中にするりと入り込む。

「純……」
「あ、可愛い顔になってきたよ。腰もピクピクしてるし。あ、そうだ」

 何を想ったのか身を乗り出して手を伸ばすと、自分のスマホを手繰り寄せた。

「撮っちゃおー」
「はあ? おい! 純」

 やめさせようとするが耳元で手錠が喧しく鳴るだけだ。スマホカメラの小さい丸窓が、無機質に見つめてくる。

「……純? 写真?」
「録画~」

 ぶわっと顔が熱くなった。身を捩ろうにも足はアホが掴んでいて逃げ出せない。無機質な丸レンズに意識が全部持っていかれる。

「あはは! 顔真っ赤。かわい~」
「……ぅ」

 せめて表情を撮らせないように顔を背けるが、意味がない気がする。

「んー。でも手が使えなくなっちまうな。どこかにセット出来ないかな?」
「今すぐそれゴミ箱に捨てろ」
「これ九万もしたのに? まあいいか」

 何を思ったのかスマホのバイブ機能をオンにすると、震え出したスマホを俺の胸の上に置いた。

「な……ああっ!」

 冷たい感触に咄嗟に払い落そうとするが、手錠に阻まれる。

「いい声出すじゃん。有名人になったせいで気軽にオモチャも買えなくてさ~。なんでもっと早くに買っとかなかったんだろ。マネージャーに頼もうかな」
「あ、これやだ。取って! んッ」
「勇気が俺にお願いしてる。めずらし~」
「んんっ! ん、うう」

 スマホを落とそうと身を捩るも、すっと胸ポケットに差し込まれる。

 細かな振動が胸を叩く。

「ひゃあ! やだ! 純……あ、あ」
「えー? 待って。バイブでそんな鳴いてくれるんなら買っときゃよかったってマジ~。なんで教えてくれねぇの?」
「あ、やだ! ああ」

 同時に幹も優しく揉まれ、腰が跳ねる。

「んあ、ああ、ああ」
「興奮してきた?」
「じゅ、純。やだ、止め、あ、ん」
「あーあ。気持ち良くしてあげたいけど勇気は乗り気じゃないんだよな? じゃー仕方ないかなー」

 わざとらしくぼやくと、床に落としたベルトで俺の足を縛り出した。

「は、ああ」
「じゃ、俺コンビニ行ってくるわ」
「な」

 上着を羽織って変装用の帽子を被る。軽く手を振ると俺を放置して本当に部屋を出て行った。

「待っ……純……っ」
「帰ってくる頃には。勇気の気持ちが変わってると嬉しいな~」

 腹立つ投げキッスをして、扉が閉まった。






 どうも。トップアイドルの霧崎純です。

 いや俺だって心苦しいよ? 恋人がとろけてきた状態で退室するのは辛かったよ。奥歯粉砕しそうになってるもん俺の顎が。

「あー辛い辛い」

 扉を閉める直前の、勇気のあ然とした顔を思い出してククッと笑う。

 黒髪黒目で性格に似合う気の強そうな吊り目。まあ、平凡だよね。外見は俺とは吊り合わないけど、ガキの頃からロックオンしてたからね~。

 好きになった理由とか覚えてない。恋心には小学四年の時に自覚した。俺にはこの神のルックスと顔があったから楽勝で落とせるとは思ってた。

 まさかお付き合いの条件が紅白とは思わんかった。

「コンビニにエログッズとか置いてないかな~? そこまで世紀末じゃないか……」

 商品を眺めたり立ち読みしたりして適当に時間を潰してから部屋に戻る。

「ただいま~? いい子にしてた?」
「じゅ……はあ、や。あっ、取って……」

 ソファーで力なく横たわり、顔を朱に染めて瞳を潤ませ喘いでいる。足が勝手に駆け寄りそうになった。落ち着け。

「んー? 勇気ったら舌出してどうしたの? 飴でも舐めたいの?」
「純。あ、やだ、あ、ああ……ぁ」

 ブブブブと俺のスマホがいい仕事している。あとで磨き上げてあげよう。

「板に乳首叩かれてるだけでそんな気持ちいい? 俺は胸で感じないから分かんないな」
「は、あ。ああ」

 帽子を取ってラグに腰を下ろし、買ってきた激甘ミルクチョコ(飲み物)にストローを刺す。これめっちゃ好きなんだよね。

 眼球がこちらに向けられた。

「純……あ。取れよ、これ……」

 もじもじと太ももを擦りつけている。内股って、無条件で可愛いよな。

「んー? もっと可愛くおねだりしろよ。勇気くーん」
「ああ、ふ、あぁ」
「んふ」

 にこりと笑ってストローを噛む。

 いいよね。こういう、支配権を握ってるの。本音を言えばさっさと寝室に運んでフィニッシュしたいけどいつも俺は勇気に頭上がらなくてぺこぺこしてるから。こういう時はね。強気でいたい。

「純。純ってば……。ん、う」
「なーに?」
「ひゃ、ああ!」

 暇なので、さっき舐めた方の乳首を指で挟んでやる。可愛い声を出しながら魚のように跳ねる様が、股間にダイレクトにクる。

「ばか、摘むな。あ、あ……」
「『ばか』? まだ余裕ありそうだね」
「……、あ」

 失言したという顔ににやけそうになった。

 ミルクチョコを机に置くと、恋人の上に跨る。体重をかけないように気を遣いながらも、身体をあまり動かせないように。

 くにくにと指で挟みながら、勇気の口に吸いつく。

「ん、んん」
「あは。ビクビクしてる。胸だけでイけそうじゃない?」
「あ、純。スマホ……。ああ。止め、て」
「まあまあ。一旦胸でイってみない?」

 覆いかぶさってキスをする。

 開きっぱなしの口に、簡単に舌を滑り込ませることができた。

「あっ……ん」

 あんなに偉そうにしていた勇気を好き勝手していると思うと、俺も夢中になって唾液を啜り取る。

「う、ん」

 唇を話して表情を堪能する。

 刺激と酸欠でぼーっとしてきたのか、全身を小刻みに震わせていた。正直超かわいい。

 乳首もこんな固くなっちゃって。

「じゅん……。たすけて……。もう、やだ」
「……~~」
「ごめん。あ、あやまる、から……。や、これ以上は……ぁ」

 思わず眉間を押さえた。

 急に可愛さで殴らないでほしい。ギャップで心停止する。

「勇気ってば。じゃあ、どうしてほしい?」
「あ、あ……。だ、抱いて、ほしい。ベッドで……ここは、やだ」

 理性がホームランされたので手錠を外し、細い身体を抱き上げる。

 やだやだって、赤ちゃんみたいになっちゃって。

 明るいリビングから暗い寝室に移りホッとしたのか、表情を緩ませたのが可愛かった。

 シーツに寝かせ、足を縛っていたベルトを解き、勇気の手首に巻きつける。万歳の姿勢で柵に引っ掛けた。

「なんで……?」
「勇気が、手が早いからだよ」

 俺を殴るのに躊躇しないじゃん! 殴られ慣れちゃってメンバーと喧嘩した時、俺だけ殴られても平然としてる変な人になった。あの気まずい空気やだよ~。

「それなのに、俺が好きなの……?」

 潤んだ瞳で見つめてこないで。「はいそうです」としか言えないって!

「殴られたくらいで、嫌いにはならないかな~」

 額から瞼、鼻先に下りていき、唇に重ねる。

「ん……」
「気持ちいい?」
「……うん」

 素直に頷かれ、心臓に撃ち抜かれたような衝撃が走る。付き合って二年も経つのに一生可愛いのズルい。

 可愛い子は虐めたくなる俺は、勇気が涙を流すまで胸で遊び続けた。










「で? お前はどうすんの? 記者会見でも開くの?」

 スノードヴムのリーダーの熱愛発覚を、世間は勘違いしたままだ。

 ブラックコーヒーに息を吹きかけていると、純が上着を俺の方にかけてくる。

「全裸のままでいるなら、第二ラウンドするよ? それ着て」
「……」

 純の上着に袖を通す。

「あ、駄目だ。全裸の勇気が俺の着てると思うと……股間が苛々してくる。やっぱ脱いで」
「どっちなんだよお前はよ」

 ズボンだけ履いて葛藤するように項垂れているアホに枕を投げる。俺はようやくベッドの上で座れるようになったばっかなんだからあれこれ言うな。

 純は座り込んでる俺の隣で寝っ転がる。

「今電話でマネージャーにエログッズ買ってきてって言ったらクッソ叱られたんだけど~。メンバーにも退会しろって怒られるし」

 こいつ本当に馬鹿だな。

「そりゃそうだろ。ちなみになんて怒られたんだ? 仕事舐めるな、とか?」

 寝返りを打って純が背中を向ける。

「んーん。『お前は外見しか取り柄無いんだから。ケーキと酒とラーメンやめろ』って。八回も言われた。酷くない?」
「酷いって何が? お前の食生活か?」

 冷たく突き放すと不満げな顔で振り向く。

「はあ~? さっきまであんなに可愛く鳴いてたくせに。何もう普段通りに戻ってんだよお前」
「は? おい……」

 起き上がると俺を抱き寄せる。あたふたしている間にコーヒーを取り上げられた。

 乳首を摘まれる。

「わ! 嘘。あ……」

 さっき以上に身体が反応する。

「イったあとは敏感になるくせに。調子乗るなよ勇気。つか、メンバーに怒られた苛立ちを勇気にぶつけていい?」

 返事する間も与えられず、再び枕の上に押し倒される。

「今日はもう終わりだろ⁉」

 押し返したいが、弱点に触れられたままなので全然力が入らない。鬱陶しい長身を押しのけられずにいると、さわさわと腰をくすぐられる。

「ん、や!」

 指先で肌をくすぐられ、高い声が飛び出す。

「勇気が俺の服で燃え袖してるから、ヤりたくなった」
「お前っ、のせいじゃねーか!」

 怒鳴りつけるがすぐに口を塞がれた。二の腕を掴むも押し返せない。

「やだって……。ん」
「あーいいじゃん。俺の服着てる勇気を抱くってシチュが。明日もこれしよっか?」
「くすぐらな、あ!」

 勝手なことを言う純に言い返すことも出来ない。

 脇腹に手を添えられバラバラに動かされると、嘘のように腰がシーツの上を跳ねる。

「ああっ! やだ! 純。ひゃあっ!」
「あはは。可愛い」
「お前っ、んあ! そこ、や……んっ! あああ。純!」
「縛ってないのに抵抗できないって、エロイね」

 十本の指が肌の上を上下に滑ったり、くるくる円を描いたりと忙しなく動く。慣れる前に刺激を変えられ、酸素が足りない脳が痺れていく。

「素直に食べ放題仲間って言っても良いけど、彼女に迷惑かかるかな~? もういっそ、付き合ってる『彼氏』がいるって公表してしまうか? どう思う?」
「あ、あは、あ、やら」

 純が何か言っていたが、聞いている余裕はなかった。

















「世間にはなんて言っておいたんだ?」
「写真の娘は女装させたメンバーです~って。いい案だと思ったのにマネージャーが心労で倒れた。今度はメンバーとの関係を疑われてる」
「……」

 俺が、ついててやらないと。駄目だこいつ。











【おしまい】
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