廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

文字の大きさ
21 / 509
第一章

第二十一話 最強のカンストプレイヤー

しおりを挟む
 キュウが怪我はないと申告して来たとしても、これを鵜呑みにしてはいけない。従者のステータス画面でHPが減っていないことは確認しているので、身体的な怪我ないのは本当でも心の怪我に関しては分からない。

「てめぇ、何者だ?」

 両手槍を構えた男が何かを言っていたが、無視してキュウの頭から爪先までを観察する。乱れているが服も脱がされていないし、目立った傷もない。しかし、目が赤く涙の痕がある。

「変なことされてないか?」
「変なこと、ですか?」
「蝋燭を垂らされたり、鞭を打たれたり」
「………さ、されてません」

 エロいことをされなかったか聞こうとしたのに、何故か具体的なプレイ内容になってしまった。キュウが引いている。フォルティシモがSM好きなどと勘違いされたら困るので、訂正しておいたほうがいいだろう。しかし本音でメイドさんプレイが好きだなんて言ったら、キュウにどん引きされるのは確実だ。否、逆に考えて、軽く伝えておいて後々にキュウにメイド服を着て貰うのは有りかも知れない。

「私は大丈夫です。でも、ラナリアさんが」

 キュウの視線の方向を見ると、下着姿の美少女がフォルティシモを見つめていた。名前も顔も知らない少女であってもキュウの友達なのだろう。キュウの身代わりをしてくれたのかも知れない。だとしたら、この子には感謝してもし足りない。しかもエロい。

 フォルティシモはインベントリから上着を取り出す。作成に多くのレアドロップ品が必要なL級アイテムであっても、キュウを助けてくれた友人で美少女にならあげても惜しくない。可能な限り下着姿の胸や素足に目が行かないようにして、少女に上着を掛ける。

「よく頑張った。そして、キュウを助けてくれたこと、礼を言う。あとは俺に任せておけ」

 固い口調なのは、気を緩めると下心が飛び出しそうだったからだ。相手が美少女だからと言って、キュウを助けに来たはずなのにキュウの前で他の女の子に見とれるのは格好悪すぎる。

「あ、あなたは?」
「俺はフォルティシモという。キュウを従者にしてるのは俺だ」

 少女は驚いた顔をしていたが、キュウを見て、顔を横に振った。

「フォルティシモさん、キュウさんを連れて逃げてください。あのヴォーダンという男のレベルは四二〇〇、個人の力でどうにかなる相手ではありません!」
「レベルは聞いた」

 カイルが事前にレベルを教えてくれていたので、フォルティシモは相手の強さが最初からある程度は分かっている。キュウが不安そうな顔でやってくる。

「ご主人様、あの人は、カンストを超えたって言っていました」

 キュウの言葉に物凄い勢いで振り向く。

「キュウ、確かか?」
「はい………」

 切望したカンストを超える情報。フォルティシモはそれに失望した。しかし、キュウの不安そうな顔を前にして、怒りよりも安心させる言葉を言うべきだった。

「安心しろ。俺が四二〇〇程度の奴に負けると思ったか?」

 キュウは、フォルティシモが二番目に好きな驚いた顔をして。

「いえ、思っておりません。ご主人様、お願いいたします」

 前よりも少し優雅な所作で頭を下げた。


「舐めてんじゃねぇぞ、こらぁ!?」

 両手槍の男が叫んだ。フォルティシモはゆっくり歩いて男の前へ出る。

分析アナリシス
「アナライズ!」

 互いに【解析】スキルを打ち込んだ。瞬時に情報ウィンドウを確認。

「「雑魚か」」

 意図せずに感想が重なった。

「てめぇ、レベル五〇〇で俺に逆らおうってのか? 憐れすぎて涙が出るぜ」
「【偽装】も【隠蔽】もなし、レベル四二五八、未覚醒、ディアルクラスもなし、装備もゴミ、死ねよ、お前」

 キュウを怖がらせた、キュウの友人を下着姿にした、カイルの友人を傷付けた、王女も奴隷にしたらしい、フォルティシモの邪魔をした、フォルティシモの期待を裏切った、フォルティシモに生意気を言った、フォルティシモの前に雑魚が立ち塞がった、フォルティシモの力を疑った、フォルティシモを知らなかった、フォルティシモの―――キュウを泣かせた。

 フォルティシモの【偽装】によって偽ったレベルを見て、両手槍の男は構えを解いた。

「そのショートカット、お前、俺と同じか? ははっ、なら、持ってるアイテム全部置いていけば、命だけは助けてやってもいいぜ」
「ああ、お前と同じファーアースオンラインのプレイヤーだ」
「だったら分かるだろ? 俺のレベルはファーアースオンラインの頃を超えた! てめぇに勝ち目はねぇ。俺の部下になるなら、女くらいは融通してやってもいいけどな」
「クソ雑魚が。俺の希望を奪いやがって、その上にキュウに手を出す? こんだけイラついたのは、生まれて初めてだ」
「てめぇ、何を言ってやがる?」
「もう口を開くな。憐れすぎだ」
「不快な野郎だな、お前」

 両手槍の男は顔を歪ませると、持っていた槍を片手で持ち上げ、槍投げのようなフォームを取った。

「神の槍を受けろ、グングニル!」

 両手槍の男が手に持った槍を投擲した。【グングニル】、投擲後に相手に当たるまで飛び続ける追尾効果と、相手に当たった後に戻ってくる帰還効果に、効果スロットを占有されたL級でありながら史上希に見るゴミ武装。ただ、その名前の知名度から鍛える者も多かった。一言で言えば、趣味装備。

「ご主人様っ!!」
「フォルティシモさん!!」

 キュウとキュウの友人の悲鳴が聞こえた。しかし、続く声は聞こえない。投擲された【グングニル】はフォルティシモの身体を貫くことなく、停止した。フォルティシモは【グングニル】を掴む。直線にしか向かってこない武器は、武器奪取や武器破壊の格好の餌食だ。

 奪取した場合、一定距離を離れれば武器は元の持ち主のインベントリに戻るのがファーアースオンラインの仕様だった。そんな生温いことはしない。フォルティシモは手に力を入れ、握力だけで【グングニル】の柄を握りつぶした。

 【グングニル】の耐久は瞬時にゼロになり、紫色の光に包まれて消滅する。こんなことをしなくてもレベル四二〇〇程度のプレイヤーが放った武器など、フォルティシモのHPを一すら削れない。それでもフォルティシモは無意味とも思える力の誇示をした。

 両手槍の男は、後ずさりをしていた。それは【グングニル】を消滅させたからではない。【隠蔽】と【偽装】を解除し、フォルティシモの本当のレベルを晒したからだ。

「れ、レベル、九九九九、ステータスが一億………?」

 両手槍の男の情報ウィンドウには表示されているはずだ。


 BLv:9999+++
 CLv:9999
 DLv:9999
 TLv:9999
 HP :999,999,999
 MP :999,999,999
 SP :999,999,999
 STR:99,999,999
 DEX:99,999,999
 VIT:99,999,999
 INT:99,999,999
 AGI:99,999,999
 MAG:99,999,999


 最強のステータスが。

「れ、レベル、九九九九………?」

 男とまったく同じ言葉を放ったのはキュウだった。キュウにはレベルを伝えたつもりだったが、正確に伝わっていなかったようだ。驚かせてしまったので、後でフォローしておこう。

「う、嘘、だろ? なんかの、間違い、だよ、な?」

 男の瞳は驚愕に開かれ、舌が上手く動かないのか言葉は途切れ途切れになっていた。
 このステータスは装備や従者の効果が反映されていない素のステータスで、これ以上何をやっても上げることができない限界値、カウンターストップ。略して、カンストだ。

 一歩、男へ近づく。

 男は、一歩引いた。

「てめぇは、ベースレベルをカンストさせてからこの世界へ来た。そしたら経験値が入った。だからモンスターを倒してレベルを上げた」

 フォルティシモは失望した理由を口にする。

「俺は経験値が入らなかったんだよ。つまり、俺は、この世界でもレベルカンストで、もう強くなれない」

 命の危険があると理解していても諦めなかったのは、全ての制限が取り払われると言われたからで、だからこそ色々調べながら慎重に行動してきた。それが無駄だと証明されることのなんと不快なことか。

「ま、待て、待ってくれ、は、話し合おう!」
「いや、ははっ、それだけなら恨むのは運営だ。そりゃいつものことだ。そうだよな。俺がてめぇを殺したいのは、そうじゃない」

 男の声を無視して、フォルティシモは自分の言葉の意味を知る。

「俺はNPCじゃない! 俺を殺したら殺人だぞ!?」

 男はこの世界に生きる者たちをNPCだと思いゲームの延長だと考えているようだ。フォルティシモは彼らを人間だと思い、新しい人生だと考えている。だからこれまで脅しで「殺す」だなんだと口にしても実行には移さなかった。

「お前を殺したら殺人って、そんなのは当たり前だろ?」
「だ、だったらっ!」
「当時カンストしてて、俺の名前を知らないってことは、お前もソロか?」
「あ、ああ、そうだ。お、お前もソロなら、パーティを組もうじゃないか!」
「確かに仲間はいいな」

 まだ一方的なことが多いけれど、食事を何にようか話し合ったり、部屋を散らかすと悪いなと考えるようになったり、洗濯物をまとめてみたり、買い物では彼女が喜びそうな服やアクセサリに目が行くようになったり、孤独を考えることがなくなり、朝起きてゲームにログインではなくキュウの顔を確認することが嬉しくなった。

 リアルでもゲームでも一人だったけれど、誰かと一緒であることを久々に思い出した。近衛翔は最強厨で独占欲が強くて承認欲求の塊だからこそ、それを満たしてくれる誰かを奪われそうになったことに、自分でもどうしようもないほどの衝動が沸いて来る。

「俺のキュウを泣かせた時点で、俺はお前を許せないわ」

 自分の親でも子供でも恋人でも、大切な者を奪おうとした者を許せるか否か。
 フォルティシモは絶対に許せない。それだけだ。

究極スプレモ乃剣エスパーダ

 フォルティシモがその手の黒剣を掲げると、黒色の光が放たれる。

 光は次第に大きくなり、その光は天を衝き雲を割く。巨大な光の黒剣。すべてをカンストさせた魔術スキルを収束させて、剣術スキルに載せて放つ、フォルティシモの最強攻撃スキルの一つ。本来、消費MPが大きいだけで事前動作もキャストもない、最強攻撃スキルに相応しいものだが、キュウが見ているので格好付けることにした。

 天空ごと男を両断する。男は悲鳴をあげて、逃げようとしたが意味はない。フォルティシモの黒色の斬撃は容赦なく男に襲いかかり、その身体を両断ではなく消滅させた。


> 【魔王神】のレベルがアップしました。


 フォルティシモが情報ウィンドウに流れるその文字に気付くのは、宿屋に帰って寝る時である。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...