廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第三章

第六十七話 ある従者たちの会合

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 二人静色に白い花柄が入った着尺模様の着物を身に着けた女性が、フローリングの廊下を歩いていた。腰よりも長く伸ばされたストレートの黒髪は美しく艶掛かっており、陶器のように透き通る肌には染み一つ無い。背筋はぴんと伸ばされていて、遠目に見れば清楚よりも凛とした雰囲気を感じさせたことだろう。彼女の歩みは穏やかで、白い靴下がゆっくりと規則正しい間隔で動いていた。

 木製の廊下は幅一メートルほどで、彼女が目指す場所は二十メートルほど先にある部屋だった。一般住宅だと考えればかなりの広さがある。だがこの屋敷は廊下から見える美しい庭園一つ取っても、一般住宅とは言えない様相を示していた。
 女性が目的の部屋に着いたので障子を開けると、百畳はある畳の間が現れる。

 そこにずらりと人が並んでいれば壮観だったことだろうが、部屋の中に居るのは彼女を含めてわずか八名で上座は空席になっている。この部屋は上座に座るはずの主人が友人たちを招き歓待するために作った場所なのだが、彼女が知る限りにおいてここに入ったことのあるお客様はたったの六名だ。結局、主人を含めて会議室のような扱いになっている。

 着物の女性は部屋に入るなり、その中央で俯せに倒れている少女に目をやった。嫌でも目に付いたという表現のが正しい。黄金色の髪にちょこんととがった狐の耳を持った少女が、髪と同じ色の狐の尻尾をバタつかせながら抑え付けられていた。
 黄金狐の少女の背中にも別の少女、いや幼女と言えるほど幼い者が乗っており、周囲の者たちも止めようとしない。見ようによっては幼女と遊んでいる光景ではあるものの、内実は違うことを彼女は理解している。

「来たか、つう」

 部屋の中で上座に近い左側の場所に座っている銀髪の女性が声を掛けた。神話か芸術作品の中から出て来たかのような造形を持つ美しい女性だ。それもそのはずで、彼女の容姿は主人がそのように設定した結果である。

「エン、これはどうしたの?」
「暴れ出したから取り抑えた」
「じゃあ、更に暴れないうちに話をしてしまいましょう」

 彼女は上座から右斜めの最も近い場所に置かれた座布団に腰を下ろした。

 七人の注目が一斉に集まり、畳の間に静寂がやってくる。

 ここの八人は年齢の幅はあれど皆が女性であり、何よりも全員が信じられないほど容姿端麗な者たちだった。背格好や性格を含めてまで主人の趣味であり、彼女たちに上下関係はない。けれども座る順序となんとなくの優先順位があるのは、主人が創造した順番だ。

 今、上座に最も近い場所にいる着物の女性は、主人から最初に産み出されたために言葉に重きを置かれている。それ以外にも着物の女性は生産系のスキルに特化しており、この家のことを中心的に回す役割を担っているのも大きい。更にこの家の外装や内装を動かす権利も与えられている。

「えっと、みんなも知ってる通り、フォルが二ヶ月ほど戻って来てないの」
「その内帰ってくるとは思うけど」
「たしかに、これだけ帰ってこねーのは初めてですね」

 一ヶ月くらい戻って来ないことはよくあったが、二ヶ月は初めてだ。しかし、この家の施設が生きていることから、主人が死んだということは誰も考えていない。また、主人はこの家や自分たちを病的なまでに大切にしており、それらを置いて居なくなることはないと信じられる。

 話を切り出した着物の女性自身は、心の中では今の状況に多大な焦燥感を抱いているのだが、それをおくびにも出さずに話を続ける。

「話したいのはそういうことではなくてね。実は」
「なんで、なのじゃぁぁ!」

 部屋の中心から大きな声が叫ばれた。

「絶対何かあったのじゃあ! 妾に断りもなく近衛を外すはずがない! 妾が探しに行く! だから放して欲しいのじゃ!」
「お前よりも相応しい近衛を見つけたんじゃ?」
「有り得ないのじゃ!」

 この中心で叫んでいる黄金狐の少女は、主人が出掛ける直前まで特別な地位である【近衛】というものに就いていた。それは少女にとっては嬉しいことで、得意げにしていたことを覚えている。主人は【近衛】を目的に合わせて頻繁に入れ替えていたものの、彼女を【近衛】としている時間がほとんどで、彼女はそれを誇りに思っていた。

 それが二ヶ月前に突如外れて、それ以来主人は顔も出さない。外すことができるのは主人だけのはずだから、主人が外したとは思う。それに対して何も説明がなく、問いかけようにも主人が帰って来ない。少女はショックを受けて部屋に籠もりきりになってしまっていた。見ていて憐れなほどだったが、今日は大事な話があったので連れ出したのだ。

「あのね、それに関しては私からも文句言っておくから、今は私の話を聞いて?」

 もし彼女が主人から同じ仕打ちを受けて、それから顔も合わせてくれないようだったら同じようにショックだろう。そう思うのは他の者たちも一緒で、だから彼女の行動を諫めようとはしなかったはずだ。さすがに部屋を壊すのは止めたようだが。

「うー、分かったのじゃ」

 黄金狐の少女は大人しくその場に座った。畳の上、部屋の中央に、正座で。誰も気にしない。

「実は、この『浮遊大陸』の燃料が尽きそうなの」

 『浮遊大陸』。
 彼女たちの居るこの場所は、『浮遊大陸』と呼ばれる場所の上に立てられた和風の家屋であり、高度一万メートルに位置する特殊な大地なのだ。

 こんな大地が何の力の作用も受けずに浮遊し続けているなどということはない。この大陸の維持にはマナダイトと呼ばれるエネルギー源を必要としている。主人はマナダイトの材料を大量に買い込み、およそ何百年という単位で維持できるだけの燃料を用意していた。着物の女性はそれが主人の勘違いで、予定の百倍の量を買ってしまった結果であることを知っている。

 主人は運営に対して怒髪天を衝きながらも、その後有用性に思い至ってマナダイトを更にかき集めた。いつものエピソードだ。

「は? マグが精製してるんじゃないの?」

 大きなリュックサックを傍らに置いた少女がそう言うと、頭にバンダナを付けハンマーを背負った少女に視線が集まる。
 リュックサックの少女は、黒髪に黄色の肌を持つ純人族。
 ハンマーの少女は、小麦色の肌でドワーフと呼ばれる種族だ。

「フォルさんに貰った素材はもう無くなっちゃったんだよね」
「無くなったって。あれだけ素材を買って、魔王様を利用した錬金術とかいうスレまで立ったんだよ? 作った傍から捨てる嫌がらせでもしたの?」
「そんなことする訳ないでしょ。数ヶ月分をまとめて精製する感じだったから、もう手元に素材がない。倉庫が開けられれば、いっぱいあるけどさ」

 この家屋の倉庫を含めた様々な機能は主人だけが使えるもので、それらはこの家にずっと住んでいる彼女たちでも手出しできないものだ。

「というわけなの。燃料が尽きたら墜落しちゃうから―――」
「分かったのじゃ! 妾が主殿とマナダイトを探してくるから任せるのじゃ!」
「え、ちょ」

 黄金狐の少女は止める間もなく走り出した。

「あの馬鹿は、装備も忘れやがって」

 ハンマーのドワーフ少女。

「頭空っぽ」

 幼女。

「どーしょうもねーやつです」

 虎の耳を持つ少女。

「連れ戻したほうが良いんじゃないですか? 絶対利益よりも損害が大きいですよ」

 リュックサックの少女。

 彼女たちの中でも性格が武闘派の者たちが立ち上がる。

「しばらく放っておけ。少し自由にさせたほうが気も晴れる」

 銀髪の女性がそう言うと、黄金狐の少女の落ち込みようを思い出したのか、立ち上がった者たちは顔を見合わせた。

「それよりも、『浮遊大陸』は後どのくらい保つ?」
「一ヶ月は大丈夫ね」
「それまでには主も戻るとは思うが、念のために私たちで集めて来よう」

 ほとんど着物の女性と銀髪の女性二人の意思確認になっているが、他の者たちから文句は出ない。最古参の二人は主人のことをよく理解しているから、その判断を信じている。

 ちなみに彼女たちは方針さえ決まれば、それぞれの分野で主人よりも結果を出せるし、結果のためなら主人をぶん殴る者たちでもある。

「お金も引き出せないのよ」
「手っ取り早いのは、素材を集めて値段の高いアイテムに精製して売るのがいいだろう。私が行く。それから、マグは付いて来てくれ。アイテムを作るにしてもマナダイトを手に入れるにしても、私一人よりも一緒のほうが効率がいい」

 銀髪の女性はハンマーのドワーフ少女に問いかける。

「途中でフォルさんが戻って来たらまずくない? マナダイト精製できんの私しか居ないし」
「つうはできなかったのか」
「私には無理ね」

 裏技を使わなければ、という呟きは満場一致でスルーされた。

「私いこか? アクロシアのフリマはホームグラウンドだよ。マナダイトの買い取りを最安で実行するけど」
「定位置で店番ゴーレムを設置してるだけでホームグラウンドとか言われてもな」
「フォルを探したいから行きたい」
「そりゃ狡いんじゃねーですか? 私だって探しに行きてーですよ」
「その理由なら私だって良いじゃん!」

 リュックサックの少女、幼女、虎の耳を持つ少女、三人が言い合いを始める。口々に希望を言い出すと収集がつかなくなるので、着物の女性はこの辺りで決めてしまおうと考えた。

「エンとセフェで行って来て貰える? もしもの場合でも二人が良いと思うし」

 着物の女性は銀髪の女性ともう一人に声を掛けた。

「そうだな」
「私ですかぁ。わかりましたぁ」

 そう答えたのは着物の女性の右隣に座っていた少女で、桜色の髪に金と銀の光彩異色の瞳、ブレザーの制服を身に着けている。まるで彼女たちの主人を女性にしたような容姿を持つ少女だった。

「まったく、どこをほっつき歩いているんだか」

 着物の女性は主人が戻って来たら、目の前に正座させて盛大に説教をしてやろうと心に決めた。
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