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第四章
第百四十八話 エルミアの依頼
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「どうしてできないのよ!」
旧エルフの国であるエルディン、今は焦土となった土地で、フォルティシモはエルミアからの抗議を受けた。焼け焦げた樹木を挟んでフォルティシモとエルミアは向かい合っていて、エルミアの目には言葉の通り怒りが浮かんでいる。
かつてこの地に住んでいたエルフたちは、今は『浮遊大陸』の一地域に移住していて、新しい生活に馴染もうとしている。新エルフの里はモンスターが侵入しないエリアに指定したため、それだけでもかなり感謝された。そのお陰もあり、その感謝で手に入れたエネルギーを使って、『浮遊大陸』の新エルフの里は旧エルフの里よりも豊かな木々で囲んでやった。それで更に感謝されて、またエネルギーが溜まるという良い循環を形成しつつある。
そんなフォルティシモに恩返しのつもりか、エルフたちの中には積極的にフォルティシモへ協力を申し出てくれる者も出て来て、それにも非常に助かっていた。
今日はエルミアから鍵盤商会を通して「御神木さんのことで至急会いたい」という連絡があったので、御神木の前で待ち合わせをしたのだ。
エルミアはファーアースオンラインプレイヤーの子孫であり、天然で情報ウィンドウの一部の機能を使いこなす。そして御神木こそが、ファーアースオンラインプレイヤーで自称神戯の敗者、目下フォルティシモが最も気に掛けている人物―――樹木物の一人だ。
いつも待ち合わせ時間よりもかなり早く来ているエルミアの、フォルティシモを見つけた後の第一声は「御神木さんを新しい里に連れて行きたいの」だった。
エルミアの気持ちを否定するつもりはない。彼か彼女か知らないが、この御神木が本当はエルディンの始祖であり、エルディンでずっと信奉されていたのであれば、エルフたちの心の安寧のためにも移住して貰うのは良いことだろう。
しかしフォルティシモは二つの理由から断った。
一つ目は、フォルティシモがエルフたちを受け入れたのは、信仰心エネルギーを集めるためであり、フォルティシモ以外に奉られる対象が現れることは不都合が生じるからだ。
二つ目は、もはや燃え滓寸前の御神木を物理的に動かす手段が思い浮かばなかったのだ。
「あの大陸みたいに、この辺り全部浮遊させて、着地させれば良いじゃない!」
『浮遊大陸』内部であれば、そう言ったことも可能ではあるだろう。
『あのね、エルミア。君が楽しそうにしていたから、言葉を挟むのは野暮だと思っていたけれど、それはいくら彼でも無茶だというものだよ』
「で、でも御神木さん! 私たちが新しい里で暮らしてるのに、あなただけここで一人きりなんて!」
『その気遣いは嬉しい。だけど、僕はとっくに死んだ存在だよ。ここに居るのは単なる残滓に過ぎない』
「そんなことないっ!」
「喧嘩なら俺の居ないところでやってくれ。ただ、そいつの言う通り、本当に運ぶ方法がない」
エルミアはその後も何か無いのかと騒いでいたが、フォルティシモにもできないことが分かると、自分で方法を探すと言って空飛ぶ絨毯に乗って飛び去ってしまった。
フォルティシモと御神木が後に残される。御神木の至急用件だと思っていたから、他の従者を誰も連れて来なかったため、二人きりの気まずい沈黙が流れる。
「あれだ。いくら子供の頃に世話になったからと言っても、ちょっと熱を上げ過ぎじゃないか?」
『エルミアはハイエルフとして、里でも浮いた存在だったからね。僕は教師であり友達であり兄弟だったんだと思う。現代で言えば個人用サポートAIだったんだよ』
それは近衛翔にとってのつう、エンシェント、セフェールという意味であり、そう聞くとエルミアの気持ちに同情してしまう。
しかし腕を組んで改めて御神木の状態を観察してみても、ちょっと強い風が吹いたら崩れてしまいそうな枯れ木だったので、彼女の希望に添う案は浮かんで来なかった。
『前にも言ったけど、君は僕のことなんて考えなくて良い。それよりも領域を手に入れたということは、これから本格的に神戯の戦いが始まるかも知れない。いつ誰に攻められても良いように、いち早く準備を整えるんだ』
「準備はしてる。ただ、どうしても時間が掛かる」
信仰心とは一朝一夕で生み出せるものではないので、仕込みは大変なのだ。それこそ御神木たち、古くからの神戯の参加者たちが、それぞれ自分の国を作り出した理由が良く分かる。フォルティシモはほとんど従者任せだが。
「待てよ? エルディンの領域の権利は、まだお前にあるのか?」
『僕は神戯の敗北者なんだよ。まだ領域の権利を持っていたらおかしいだろう? もちろん権能も使えない』
この御神木が権能を使えたとしたら、両手槍の男にエルディンを自由にさせなかったに違いない。
「そういえば、アクロシアに結構な数のプレイヤーが居た」
『へぇ? 全員倒しちゃったの?』
「いや、仲間に裏切られて全滅した」
『………そうか』
仲間の裏切りで神戯を敗北して、樹木として暮らすことになってしまった御神木に言うべきではなかった。
その後二、三の近況報告をしてからフォルティシモは天烏を使ってエルディンから飛び立った。
空から見るエルディン、焦土の中心にぽつりとある枯れ木。あれが彼女たちだったらと考えると、やはり何か手は無いか誰かに相談してみようと考えた。
「エルフの里にあった焼けた御神木を『浮遊大陸』に移動させたい、か」
夕食後にコーヒーを楽しみながら、エンシェントに相談を持ちかけてみた。しかしエンシェントの回答は色好いものではない。この異世界には、重機の類いや化学物質の類いが限定的にしか無いのだ。あの御神木を崩さずに形を保ったまま『浮遊大陸』へ運ぶのは困難だと言わざるを得ない。
リビングには知識のあるセフェール、生産アイテムに強いマグナ、異世界の常識なら他の追随を許さないラナリアも居るが、誰からも名案は上がって来ない。
「この大陸みたいに浮かせたりできないのか?」
「お前の発想はエルミアと同レベルだ」
夕食のためだけにフォルティシモの【拠点】へ来ているピアノ。
「まあ実際のところ、それくらいしか方法がないから、エルミアも俺に頼んできたんだろうな」
エルミアがフォルティシモへ頼んできたというのは、相当な決意があったはずだ。
フォルティシモはエルミアが生涯を掛けて打倒しようと誓った両手槍の男を殺してしまったことを、たいそう恨まれているようだった。会えば必ずと言って良いほど憎まれ口を叩かれ、かなり嫌われている。
そんな彼女が自分の人生を狂わせたフォルティシモに頭を下げて頼むくらいには、御神木が大切なのだろう。
「神戯に関しての知識もあるし、エルフたちを長い間見てきたから、信仰心を集めるコツも分かる。俺たちにもメリットがあるかと思ったが、難しいか」
何せ信仰心エネルギーを集めるためにエルディンを建国した始祖エルフその人なのだから、誰よりもエルフたちの文化や性格に詳しいはずだ。『浮遊大陸』へ来て色々協力して貰えたら心強い。
別にフォルティシモに利益があるから考えてみただけで、エルミアがサポートAIのような相手と離れ離れになるのを憂慮したのではない。誰へでもなく心の中で言い訳しておく。
御神木を『浮遊大陸』へ移住させるのは難しい。この時はそれが結論で、それ以上は追究しなかった。それが覆されるのは数日後のことだ。
旧エルフの国であるエルディン、今は焦土となった土地で、フォルティシモはエルミアからの抗議を受けた。焼け焦げた樹木を挟んでフォルティシモとエルミアは向かい合っていて、エルミアの目には言葉の通り怒りが浮かんでいる。
かつてこの地に住んでいたエルフたちは、今は『浮遊大陸』の一地域に移住していて、新しい生活に馴染もうとしている。新エルフの里はモンスターが侵入しないエリアに指定したため、それだけでもかなり感謝された。そのお陰もあり、その感謝で手に入れたエネルギーを使って、『浮遊大陸』の新エルフの里は旧エルフの里よりも豊かな木々で囲んでやった。それで更に感謝されて、またエネルギーが溜まるという良い循環を形成しつつある。
そんなフォルティシモに恩返しのつもりか、エルフたちの中には積極的にフォルティシモへ協力を申し出てくれる者も出て来て、それにも非常に助かっていた。
今日はエルミアから鍵盤商会を通して「御神木さんのことで至急会いたい」という連絡があったので、御神木の前で待ち合わせをしたのだ。
エルミアはファーアースオンラインプレイヤーの子孫であり、天然で情報ウィンドウの一部の機能を使いこなす。そして御神木こそが、ファーアースオンラインプレイヤーで自称神戯の敗者、目下フォルティシモが最も気に掛けている人物―――樹木物の一人だ。
いつも待ち合わせ時間よりもかなり早く来ているエルミアの、フォルティシモを見つけた後の第一声は「御神木さんを新しい里に連れて行きたいの」だった。
エルミアの気持ちを否定するつもりはない。彼か彼女か知らないが、この御神木が本当はエルディンの始祖であり、エルディンでずっと信奉されていたのであれば、エルフたちの心の安寧のためにも移住して貰うのは良いことだろう。
しかしフォルティシモは二つの理由から断った。
一つ目は、フォルティシモがエルフたちを受け入れたのは、信仰心エネルギーを集めるためであり、フォルティシモ以外に奉られる対象が現れることは不都合が生じるからだ。
二つ目は、もはや燃え滓寸前の御神木を物理的に動かす手段が思い浮かばなかったのだ。
「あの大陸みたいに、この辺り全部浮遊させて、着地させれば良いじゃない!」
『浮遊大陸』内部であれば、そう言ったことも可能ではあるだろう。
『あのね、エルミア。君が楽しそうにしていたから、言葉を挟むのは野暮だと思っていたけれど、それはいくら彼でも無茶だというものだよ』
「で、でも御神木さん! 私たちが新しい里で暮らしてるのに、あなただけここで一人きりなんて!」
『その気遣いは嬉しい。だけど、僕はとっくに死んだ存在だよ。ここに居るのは単なる残滓に過ぎない』
「そんなことないっ!」
「喧嘩なら俺の居ないところでやってくれ。ただ、そいつの言う通り、本当に運ぶ方法がない」
エルミアはその後も何か無いのかと騒いでいたが、フォルティシモにもできないことが分かると、自分で方法を探すと言って空飛ぶ絨毯に乗って飛び去ってしまった。
フォルティシモと御神木が後に残される。御神木の至急用件だと思っていたから、他の従者を誰も連れて来なかったため、二人きりの気まずい沈黙が流れる。
「あれだ。いくら子供の頃に世話になったからと言っても、ちょっと熱を上げ過ぎじゃないか?」
『エルミアはハイエルフとして、里でも浮いた存在だったからね。僕は教師であり友達であり兄弟だったんだと思う。現代で言えば個人用サポートAIだったんだよ』
それは近衛翔にとってのつう、エンシェント、セフェールという意味であり、そう聞くとエルミアの気持ちに同情してしまう。
しかし腕を組んで改めて御神木の状態を観察してみても、ちょっと強い風が吹いたら崩れてしまいそうな枯れ木だったので、彼女の希望に添う案は浮かんで来なかった。
『前にも言ったけど、君は僕のことなんて考えなくて良い。それよりも領域を手に入れたということは、これから本格的に神戯の戦いが始まるかも知れない。いつ誰に攻められても良いように、いち早く準備を整えるんだ』
「準備はしてる。ただ、どうしても時間が掛かる」
信仰心とは一朝一夕で生み出せるものではないので、仕込みは大変なのだ。それこそ御神木たち、古くからの神戯の参加者たちが、それぞれ自分の国を作り出した理由が良く分かる。フォルティシモはほとんど従者任せだが。
「待てよ? エルディンの領域の権利は、まだお前にあるのか?」
『僕は神戯の敗北者なんだよ。まだ領域の権利を持っていたらおかしいだろう? もちろん権能も使えない』
この御神木が権能を使えたとしたら、両手槍の男にエルディンを自由にさせなかったに違いない。
「そういえば、アクロシアに結構な数のプレイヤーが居た」
『へぇ? 全員倒しちゃったの?』
「いや、仲間に裏切られて全滅した」
『………そうか』
仲間の裏切りで神戯を敗北して、樹木として暮らすことになってしまった御神木に言うべきではなかった。
その後二、三の近況報告をしてからフォルティシモは天烏を使ってエルディンから飛び立った。
空から見るエルディン、焦土の中心にぽつりとある枯れ木。あれが彼女たちだったらと考えると、やはり何か手は無いか誰かに相談してみようと考えた。
「エルフの里にあった焼けた御神木を『浮遊大陸』に移動させたい、か」
夕食後にコーヒーを楽しみながら、エンシェントに相談を持ちかけてみた。しかしエンシェントの回答は色好いものではない。この異世界には、重機の類いや化学物質の類いが限定的にしか無いのだ。あの御神木を崩さずに形を保ったまま『浮遊大陸』へ運ぶのは困難だと言わざるを得ない。
リビングには知識のあるセフェール、生産アイテムに強いマグナ、異世界の常識なら他の追随を許さないラナリアも居るが、誰からも名案は上がって来ない。
「この大陸みたいに浮かせたりできないのか?」
「お前の発想はエルミアと同レベルだ」
夕食のためだけにフォルティシモの【拠点】へ来ているピアノ。
「まあ実際のところ、それくらいしか方法がないから、エルミアも俺に頼んできたんだろうな」
エルミアがフォルティシモへ頼んできたというのは、相当な決意があったはずだ。
フォルティシモはエルミアが生涯を掛けて打倒しようと誓った両手槍の男を殺してしまったことを、たいそう恨まれているようだった。会えば必ずと言って良いほど憎まれ口を叩かれ、かなり嫌われている。
そんな彼女が自分の人生を狂わせたフォルティシモに頭を下げて頼むくらいには、御神木が大切なのだろう。
「神戯に関しての知識もあるし、エルフたちを長い間見てきたから、信仰心を集めるコツも分かる。俺たちにもメリットがあるかと思ったが、難しいか」
何せ信仰心エネルギーを集めるためにエルディンを建国した始祖エルフその人なのだから、誰よりもエルフたちの文化や性格に詳しいはずだ。『浮遊大陸』へ来て色々協力して貰えたら心強い。
別にフォルティシモに利益があるから考えてみただけで、エルミアがサポートAIのような相手と離れ離れになるのを憂慮したのではない。誰へでもなく心の中で言い訳しておく。
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