廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第六章

第二百六十六話 サンタ・エズレル神殿の狂気

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 アクロシア大陸で最大の権勢を誇る、女神マリアステラを信仰する聖マリア教の総本山サンタ・エズレル神殿。

 聖マリア教は【プリースト】系のクラスチェンジを斡旋し、大陸中の医療に大きな貢献をしている。加えて冠婚葬祭など様々な儀式を執り行ったり、洗礼具と呼ばれる特殊な魔法道具の生成も行っていた。それは大陸中の人々の生活に根付き、信仰を一手に集める世界の常識と言って過言ではないものである。

 そんな宗教を教え広める彼らは、大氾濫を前にして多忙を極める状況だ。それにも関わらず、大司教を始めとした聖職者位階の高い者たちは連日の会議を行っている。

 議題は、聖マリア教とて無視できない神の如き力を振るう天空の王と狐人族の少女だ。

 天空の王が信仰を集めようとしているのは、もはや大陸の国家の中では自明な事柄になっている。情報統制は行っているものの、人間は目先の欲に釣られたり追い詰められれば何でも話してしまうものだ。

 さらに天空の国へ移住したエルフの街や、実験都市と呼ばれる場所へ訪問した者たちの話を総合すれば、徐々にその情報が正確になっていく。

 あの御伽噺の中から現れた巨大な空の国家が求めるものは信仰心だ。

 信仰心であれば、どんな小国でもいくらでも差し出せる可能性がある。他国へ輸出できるような主要な産業がなくても、天空の国フォルテピアノとは交渉できる。小国の中には聖マリア教を捨てて天空の王に信仰を鞍替えしようと検討している国もあるという。

「神託は?」
「偉大なる女神マリアステラ様からは、天空の王について何もお答え頂けません」

 聖マリア教の高位者たちにとって最大の問題はこれだった。

 この世において、神は問い掛ければ答えてくれる存在である。もちろんすべてに答えてくれる訳ではないけれど、必要な事柄には必ず神託という形で返答があった。

 だから聖職者位階の高い者たちは、女神マリアステラの教えを違えることはないし、重要な決定をすることもない。すべては女神マリアステラがお決めになることであり、女神の意向さえあれば命を捨てる覚悟を全員が持っている。

 しかしその女神マリアステラの御言葉がなければ、彼らは重要な決定を何もできない。

「何故だ。これほどまでに信仰が揺らいでいるというのに」
「この程度で揺らぐ信仰を憂いておられるのではないか?」
「我ら自ら解決せよという神意かも知れぬ」
「しかし天空の王の力は、神の如き力。あれを見せられて揺らぐなとは、信者たちにはとても………」
「貴様! 偉大なる女神の力を疑うか!」

 誰も女神マリアステラの力を疑ってなどいない。神は実在する。実際にいくつもの恩寵を与え、神託を下し、奇跡を起こすこともある。

 今回の問題は、もう一柱、女神マリアステラに匹敵するほどの神の如き力を振るう存在が現れた点に起因する。

 あのような空を浮かぶ大地を使役するなど、神と呼ばずして何と呼ぶか。加えて天空の王は、エルフや冒険者、ドワーフに多大な恩寵を与えている。

 格別の天恵を与えているのは酷く女性に偏っていて、そこが老若男女に平等な女神マリアステラとは異なっている。けれども、それは逆に世界中の国々から天空の王の趣味嗜好を把握する情報となっていた。

 何を与えれば喜んで頂けるのかも分からない女神マリアステラに対して、美しい女性を好む精力絶倫の天空の王は、貢ぎ物に困ることはない。

 この場で唯一、天空の王と直接会話した経験のあるテレーズ大司教は迷いを見せつつ口を開いた。テレーズ大司教は己の娘フィーナがフォルティシモと交流があると知り、半ば無理矢理話し合いの場を設けた経験がある。その経験から言って、天空の王はとても人間臭かった。

「おそらく、天空の王は人間でありましょう」
「ならばあなたは、あれが人間の所業だと?」
「いいえ。力は神の如きもの。しかしながら、彼の者は、あくまで人間」

 少しの間、高位聖職者たちの間に沈黙が流れる。

「テレーズ大司教の意見は一考に値する見解である。しかし、女神の御言葉がない限り、断言するのは異端とされても致し方ない行為だと心得よ」
「失礼致しました。今の言葉は私の未熟の致すところであります」

 聖マリア教は女神の御言葉がすべてである。公式な場で神の見解を語ることは許されない。テレーズ大司教は席を立ち、両手を組んで空へ謝罪の祈りを捧げる。

 それから天空の王の代わりというようにあった神託について語る。

「黄金の狐を、偉大なる女神マリアステラ様がお守りになられる」

 天空の王については何も語らない女神は、黄金の狐人族こそ女神の交友者であり、支援および支持するよう神託を下した。

 その黄金の狐人族は、天空の王フォルティシモが寵愛している少女に他ならない。

 聖マリア教の女神と天空の王、二つの神に愛される狐人族の少女の扱いをどうすれば良いのか。聖女や神子だと認めてしまえば、間接的に天空の王を認めてしまう。かと言って無視してしまえば、女神の神託を違えることになる。

 高位聖職者たちが終わらない会議に明け暮れていると、会議場に青い渦が現れた。

 その正体を知る者は、思わず身構える。それは天空の王が移動に使う魔術で、空の配下の者たちも使っている。大陸各地でその様子は知れ渡っているし、テレーズ大司教など青い渦に飛び込んだ経験もあった。

 だからそこから出て来る者は、天空の王かその配下の者だろうと思っていた。身構えはしたものの、彼の天空の王は虐殺などをしたという話はない。だからどこか楽観的であった。

 現れた者が、デーモンと呼ばれる種族の者だと知るまでは。

「な、何者だ貴様は!?」
「ここを何処だと思っている!?」

奴隷制度制定イナクト・スレイブリー

 その場に座る高位聖職者たち全員の表情が抜け落ち、身体はだらりと弛緩した。人間の自由を奪う【隷従】スキルが、彼らへ襲い掛かったように見える。

 テレーズ大司教は、アクロシアを襲ったエルディン王ヴォーダンが多くの者に【隷従】を掛けていたことを知っている。彼女の娘もその毒牙に掛かる寸前だったことも、娘自身から話を聞いた。

 だが、それはあくまで【隷従】を掛けた者が、更に別の者に【隷従】を掛けるという行為を何年も繰り返し、ようやく多くの者を奴隷として使役するに至ったに過ぎないはずだった。

 今のように、一瞬にしてこの場に座る十数名の高位聖職者を奴隷にするなど、聞いたことがない。テレーズ大司教は【隷従】の効果が発動する寸前でそんな驚きを感じていたが、すぐに自らの思考さえもできなくなった。
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