廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第九章

第四百五十六話 廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

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 フォルティシモは『現代リアルワールド』で救急車を呼び、プレストに刺された近衛天翔王光が運ばれるのを見送った。

 刺されたせいもあるけれど、近衛天翔王光はディアナの言うことへ大人しく従った。フォルティシモからすれば、それには何の不思議もない。どころか計算通りの光景だった。

 近衛天翔王光は千年前のファーアースで、ディアナに言われたからプレストを助けたし、ディアナと共に異世界を旅して妻にして、建国の母にしたのだ。

 それはすべて近衛姫桐が産まれた後の話で、“オウコーの妻”がいる事実は、近衛天翔王光にも娘以外へ向ける愛があったことを示している。

 そしてそれこそが、フォルティシモが用意した、天才近衛天翔王光を止める手段。

 ルナーリスの記憶を聞いた時点で用意していた、近衛天翔王光攻略の最後の一手。

 今のフォルティシモには、近衛天翔王光の気持ちがよく分かる。

 あえてフォルティシモと近衛天翔王光を比べるのであれば、キュウと近衛姫桐、ラナリアと竜神ディアナが同じような相手なのだ。

 近衛天翔王光は何だかんだと言っていたけれど、竜神ディアナの気持ちは裏切らない。

 フォルティシモが用意した戦略は、最強神フォルティシモの力で天才のすべてを打ち破った上で、竜神ディアナを復活させ、竜神ディアナと共に近衛天翔王光を隠居させるというものだ。



 病院までの付き添いは“オウコーの妻”であるディアナへ任せ、フォルティシモとプレストは近衛天翔王光の屋敷に残る。

 近衛天翔王光の傷は明らかに刺し傷なので、救急隊員が警察へ連絡しているに違いない。真犯人であるプレストを逮捕される前にファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモの世界へ送り返す必要があった。

 それに今、近衛天翔王光の屋敷に警察を入らせる訳にはいかない。近衛天翔王光の屋敷地下には、『現代リアルワールド』の技術では解析できないオーパーツが稼働しているからだ。

 それは近衛天翔王光がマリアステラから受け取った、神戯ファーアースへ干渉する端末である。近衛天翔王光はそれに亜量子コンピュータを接続して、色々と悪事を働いていた。

 この端末は危険過ぎる。

 極端な例を挙げれば、どこかの国が端末の存在を知り、それを確保するために軍隊を投入してくる可能性もある。それほどまでに価値のある端末だ。

 今までは『現代リアルワールド』に存在する神々、特にトッキーが守ってきたのだろうけれど、これからも守ってくれるように頼むのは難しい。

 最強神フォルティシモ自身が守れば良いのだが、フォルティシモは『現代リアルワールド』にずっと住むつもりはない。

 己が創造した世界であるファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモの面倒は見ていくつもりだし、そもそも異世界ファーアースへ来た日に感じたように『現代リアルワールド』への執着はなかった。

 むしろキュウやラナリアなど大勢の人たちと出会った今、あの日以上に『元の世界』よりも『異世界』が大切だと感じる。

「プレスティッシモ、この端末は壊す。何かやっておきたいことがあれば言え」
「………ああ、すまない。少し呆けていた。それがしへ時間を貰えるならば、十五分ほど欲しい」
「十五分? まさか友人に連絡するとか言わないだろうな。引き籠もりゲーマーだったんだろ?」
「『現代リアルワールド』に何年も居れば、友人くらいはできるだろう? フォルティシモ殿が許してくれるのであれば、別れを言っておきたい」

 屋敷地下で端末と向き合っていたフォルティシモは、プレストの意外な言葉に振り返った。

「喧嘩売っているのか?」
「この状況で何故そうなる?」

 フォルティシモは『現代リアルワールド』で生まれて過ごして来たけれど、友人と呼べる人物がリアルで出来たことがない。何もないところから数年で別れを惜しむような友人を作っているプレストに嫉妬したとは、口が裂けても言えなかった。

 しかしフォルティシモは、異世界ファーアースに転移してから一年ほどでキュウ、ラナリア、カイル、フィーナ、エルミア、テディベア、ルナーリスなど大勢の者と出会っている。

 最強のフォルティシモの圧勝だと思って冷静になった。

「俺の勝ちだ」
「某は唐突に挑発された後、勝ち誇られたようだが、負けで構わない。今日まででよく分かった。某は最強に勝てそうにない」
「………連絡くらいは何とかしてやるし、『現代リアルワールド』にも来られるようにする。『現代リアルワールド』の神戯に勝利した神とも、その内、話を付けるつもりだ」
「そうか。ならば時間は不要だ」

 プレストは懐から取りだした投射型スマートフォンをすぐに仕舞う。

 プレストが『現代リアルワールド』には存在しないはずの【転移】ポータルの前に立つ。相変わらずVRゲームのような雰囲気が現実に存在することへ、少しの忌避感を覚えた。

 それからプレストは【転移】ポータルを潜る前に、フォルティシモを振り返った。ポータルの光が逆光となっているせいで、その表情は薄暗くて読み取りづらい。

「最初で最後の、某からフォルティシモ殿へ、心からの本音だ」
「最初ってのは気になるが、最後ってのは聞き流してやる。なんだ?」

 フォルティシモはVRMMOファーアースオンライン時代の恨み言でも聞かされるのかと身構えた。

 対してプレストは初めて表情に笑みを浮かべた気がする。

「ディアナを救ってくれたこと、感謝する。ありがとう」

 それは悪魔と呼ばれた種族の中で、仲間たちからさえもはみ出し者だった彼女の本音だった。

 本当の本当は、プレストが千年も孤独に戦い続けた理由は、自分を迫害した同胞たちとその故郷や復讐のためではなく、自分を救ってくれた人への恩返しだったのかも知れない。

 プレストはポータルの光に消えた。

 フォルティシモはその背中を見送りながら、VRMMOファーアースオンラインの頃、彼女ともっと話して仲良くしておけば良かったと後悔する。

 そうしたら、もしかしたら彼女はフォルティシモへ近衛天翔王光やトッキーの策略を、最初からすべて教えてくれたかも知れない。

 そんなことを言い出せば、フォルティシモがもっと色んなプレイヤーと交流していれば、<時>の神々の誰かが、誰よりもトッキーが、フォルティシモを頼ることを選択した可能性もあった。

 有り得ない、もしもの仮定だ。



 フォルティシモはプレストを見送った後、たった一人で近衛天翔王光の屋敷地下に残る。亜量子コンピュータを冷やすための駆動音がやけに大きく聞こえて来た。

 『現代リアルワールド』の投射型スマートフォンを手に取り、情報ウィンドウに似た仮想デスクトップを開く。

 それからプレストを最終決戦に参加させず、『現代リアルワールド』へ残した理由の一つを確認する。

 プレストの役割として、太陽神討伐イベント【トータルエクリプス】を実行する役割が必要だったし、最後の最後に近衛天翔王光がオウコーを捨てて『現代リアルワールド』へ帰還した時に止める役割もあった。

 それだけでも充分に残す理由があったけれど、フォルティシモがプレストに頼んだ仕事は、それだけではない。

 それはVRMMOファーアースオンラインへ、究極の廃課金を行うためだ。

 フォルティシモの開いた仮想デスクトップには、その究極の廃課金の結果が表示されていた。

 VRMMOファーアースオンライン運営会社の株式取得率、五十一パーセント。

 フォルティシモはプレストにVRMMOファーアースオンライン運営会社の株式を半分以上を買うように頼んでおいた。資金はもちろん近衛翔の金を使っているけれど、プレストはしっかりとやり遂げてくれたらしい。

 この株式取得率五十一パーセントという数字は、特別な意味を持っている。株式会社の経営というのは株式の多数決で決まるため、五十一パーセントを誰か一人が持っていたら、実質的に会社の権利をすべて持っているに等しい。

 『現代リアルワールド』における究極の廃課金とは、その企業の株式を五十一パーセント取得することだろう。

 これによりフォルティシモはVRMMOファーアースオンラインと異世界ファーアース、その両方の完全なる決定権を得られることになった。

 もうトッキーや近衛天翔王光が、VRMMOファーアースオンラインと異世界ファーアースを自由にすることはできなくなる。

 近衛天翔王光本人はディアナで抑え、謎端末は破壊し、二つのファーアースの権利はフォルティシモが手に入れる。

「さすがに預金が、すっからかんだな」

 資金の残りについては、詳しく見ないことにした。どうせもう『現代リアルワールド』では暮らさないので、一銭も無くなったところで問題はない。

 問題はないのだが、キュウと『現代リアルワールド』でもデートしたいし、ラナリアを連れてきたらどんな反応をするか見てみたい。問題があった。その内、何とかしておこうと思う。

 それからフォルティシモは仮想デスクトップを閉じて、マリアステラが近衛天翔王光へ与えた謎端末の前へやって来る。

「やるか」

 フォルティシモは右手を手前へ掲げた。

 異世界ファーアースへ来た日、初めて使った魔術スキルを、現代リアルワールドに降臨した最強神が実行する。

領域インテリオル爆裂エクスプロシオン

 神戯へ干渉できる端末やポータル、近衛天翔王光の屋敷地下を爆砕した。



 ◇



 フォルティシモは『異世界ファーアース』へ帰還する。

 時間は、三日三晩続くという大陸の災害、大氾濫がちょうど終わった頃だろうか。

 フォルティシモは少しばかりの憂慮を感じる。

 フォルティシモは大氾濫で、フォルティシモを信仰する者を救うのだと約束した。

 しかしながら太陽神ケペルラーアトゥムとの戦いの最中、近衛天翔王光の策略に嵌まり、大陸中の人間たちが危機に陥っていた中で行方不明になってしまったのだ。

 キュウやラナリア、アルティマにどれだけの負荷が掛かったのか、想像に難くない。彼女たちに報いるのは当然だけれど、その他大勢の人々がフォルティシモをどう思っているのか。

 そんなことを考えた自分自身に、驚きを隠せない。

 フォルティシモは有象無象の顔も覚えられない人間で、その他大勢を平気で見捨てる人間性だったはずだ。

 誘拐人質事件で、幼くして両親を失った子供へ向けられる無関係な人間の同情も、近衛天翔王光の遺産を受け継ぐだろう子供への冷酷な人間の策略も、そんな苦しみを知らずに生きる九十九パーセントの人間たちも。

 最強のフォルティシモにとって、己と無関係の人間の考えや心など、思う価値の無いものだったはずだ。

 それなのに異世界ファーアースへ帰るフォルティシモは、たしかに心配を覚えている。

「俺は、そんなに、あの異世界が好きになってたか?」

 フォルティシモが自分の状態を分析すれば、思わず苦笑が漏れた。

「まあ、好きになるか。キュウがいた、従者たちが生きてた、もうそろそろラナリアを好きにしても良いし、ピアノとはこれからも上手くやっていける。テディベアは良い奴だ。それに」

 フォルティシモが異世界で出会った者たちを思い浮かべる。

 そして『ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモ』へ帰還した。



 フォルティシモが戻って来たのは、アクロシア大陸の空だった。

 そこはフォルティシモが星の世界へ行った時のままのように見えた。

 大きく違っていたのは、キュウとそして大勢がフォルティシモの帰還を待っていたこと。

 キュウはフォルティシモの姿を見つけると、黒い隼の背中を蹴ってフォルティシモへ飛びついて来る。

「ご主人様!」
「キュウ」

 そして周囲には、つう、エンシェント (元の女性型)、セフェール、ダアト、マグナ、アルティマ、キャロル、リースロッテが集まって来る。

 少し離れたところにはラナリアやピアノ、エルミアとその頭に乗るテディベアが居た。

 最果ての黄金竜と白竜ルナーリスは巨体のまま首をこちらへ向けている。

 天使と悪魔は争うことなく最強の神の様子を窺っていて、エルフたちは歓迎一色、冒険者たちもそれに近いものだ。

 それに対して騎士や各国の軍人などは未だに緊張した雰囲気に包まれていた。

 フォルティシモは情報ウィンドウからワールド全体へチャットを飛ばせる課金アイテムを取り出す。

 三日三晩、魔物の洪水で地上を洗い流す大氾濫、そして人と世界を終わらせる最後の審判。

「俺たちの勝ちだ」

 それらが終わったことを宣言した。

 情報ウィンドウから聞いたこともない歓声が上がり、見知らぬ相手から無数のチャットが飛び込んで来る。

 廃課金最強厨フォルティシモは、神々の遊戯を完全攻略クリアした。


――――――――――

次話よりエピローグとなります。エピローグは十三話予定です。
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