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アフターストーリー
第四百八十四話 二度目の初邂逅
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フォルティシモはゼノフォーブフィリアから早く来るようにメッセージを受け取り、ビジネス街に鎮座する巨大ビルまでスーパーカーを走らせた。
このビルを所有するヘルメス・トリスメギストス社は、VR空間へフルダイブするための機器VRダイバーを開発し浸透させた巨大企業である。
しかしながら、その大企業のCEOが現代リアルワールドの神というのは、何か詐欺のような騙されたような気分になる。意味は異なるが、自作自演と言えば良いだろうか。
そんな大企業の本社ビルの前までやって来ると、キュウが車の窓からビルを見上げる。耳を動かしているのは、フォルティシモには聞こえないものを聞き取ろうとしているのだろう。
「ゼノフィリアとは会談の後も少し話したが、なかなか話せる男だった。キュウに興味があるらしいが、もし不快な目で見られたり、食事に誘われたり、部屋に二人きりになりそうになったり、耳や尻尾を指先でも触れられたら、すぐに俺に言え。今すぐ同盟を破棄して、現代リアルワールドを攻め滅ぼすからな」
「はい………い、いえ、そのくらいなら大丈夫です!」
助手席のキュウがフォルティシモの軽口に慌てて振り向いた。こうして冗談を言えるなんて、フォルティシモもコミュ障ではなくなって来ているのかも知れないと、心の中で自画自賛する。
「冗談だ。ゼロパーセントはな」
「そ、そうでしたか。ご主人様の冗談に気が付かず、申し訳ありま………あれ、ゼロパーセント冗談ということは………?」
『主はせめて半分は冗談と言ってくれ。キュウ、ゼノフォーブフィリアはキュウへ性的もしくは恋愛感情や所有欲を抱いている訳ではない。その点は安心して良い』
エンシェントはフォローしているが、ゼノフォーブフィリアがキュウに並々ならぬ興味を抱いているのも事実だった。
フォルティシモも、それは仕方がないと理解している。
フォルティシモが車を進めて守衛AIに顔を見せると、すぐにVIP用の駐車場へ案内してくれた。VIP専用駐車場とは言え混雑しているかと思ったが、フォルティシモ以外に自動車は見つからない。
「これ、今日の打ち合わせとか、来客とか、全部断ったのか」
『それどころか、ネットワークをすべて遮断しているようだな。余程、主の来訪を心待ちにしていたらしい』
「大丈夫か? 株価下がらないか? 今の内に空売りしとくか」
世界的大企業の本社ビルが丸一日インターネットも電話も繋がらなくなってしまえば、もう事故か災害を疑う事態だ。さすがのフォルティシモも、もう少し早く来ても良かったかと罪悪感を覚える。
「ご主人様、この建造物、中から人の音がほとんど聞こえて来ません」
「人の音が聞こえない? ほとんどAIとロボティクスに任せてるってことか? さすが大企業だな」
キュウは駐車場で自動車を降りた瞬間、ドライブデートやコンサートデートの時とは異なった真剣な表情で、その黄金の耳で聞き取った内容を伝えてきた。
「居るのは、神や神に近い者、精霊や悪魔、あと、うまく言葉で説明できないのですが、概念的な生物、生物と言って良いのか、そんな方が居ます」
「キュウ」
「はい」
フォルティシモはキュウに必要以上に近寄って、尻尾をさわさわした。女性は頭を撫でられるのを嫌がるらしいから、代わりに尻尾を撫でることにしたのだ。
「情報量が多い。ここリアルワールドだよな? キュウの尻尾は触り心地最高だ」
「あ、ありがとうございます?」
『それらを世間から隠し、こうして世界を運営していた能力を称賛するべきだろう』
VIP専用駐車場から直通のエレベーターを使い、受付のある階まで上がると、大勢の従業員たちがフォルティシモとキュウを出迎えた。どこかの国の国家元首が現れてもここまで頭を下げるかと思うほどの最敬礼が、エレベーターの扉を開いた瞬間から目に入って来る。
フォルティシモは“最強のフォルティシモ”が敬意を示されるのが好きなので、ちょっと気分が良くなった。
「………俺はそこまで気にしないから、普通で良い、と言いたいが、ここは敵地の可能性もあるからな」
頭を上げてはならないとかは、敬意を示すだけではなく、暗殺を防ぐ意味もある。許可されるまで動かないのは、それだけフォルティシモへ敵対の意志がないことを示しているのだ。
「話しても良いが、変な気だけは起こすなよ。お前たちの一挙手一投足は、キュウが過去から未来まで聞き取ってる。変な行動を取ろうとしたら、俺たちと戦争になると思って言動を選べ」
従業員の中から若い男が前へ出た。首から提げたネックストラップには仰々しい肩書きに加えて常務取締役の文字がある。見た目だけであれば二十代前半で、アイドルでもやっていそうな容姿をしている。キュウの事前情報から、見た目通りの年齢ではないだろう。というか人でもないはずだ。
「ようこそおいでくださいました。偉大なる最強の神フォルティシモ様」
常務取締役は自己紹介と共に電子名刺をフォルティシモへ送って来たけれど、そこに書かれている名前は流した。あくまでも現代リアルワールドでの名前であり、本名とは思えなかったし、覚える気もなかったからだ。
それから世界最大の企業の常務取締役をエレベーターボーイに使い、キュウと共に案内されるままにVIP用エレベーターへ乗り込む。
「話しにくいことなら流して良いんだが、お前らはマリアステラと戦うことに賛成なのか?」
フォルティシモは案内されている最中に、常務取締役へ質問を投げ掛けてみた。
フォルティシモ率いる<最強>は、主力のほとんどがフォルティシモの元従者である。その元従者の従属神は、一人を除いて性格設定をフォルティシモ自身が作成した、フォルティシモの分身とも呼べる者たち。意見の対立はあっても、お互いを裏切ることはない。
しかしゼノフォーブフィリアたちは違う。戦争以外に選択肢の無かったトッキーの<時>でさえ非戦派がいた。複数人集まれば、神々でさえ意思統一は困難なのだ。フォルティシモとゼノフォーブフィリアが手を組んで、マリアステラと戦うことに反対している者がいるだろう。
「偉大なる神とはそのようなものでしょう」
常務取締役は答えになっていない答えを返して来た。事前に流して良いと言ったのはフォルティシモなので、文句も言い辛い。
エレベーターが最上階で停止した後、常務取締役はエレベーターの前でフォルティシモたちを見送った。
ここまでのエントランスやエレベーター、廊下はいかにも企業のオフィスビルであり、修羅神仏の跋扈する伏魔殿を想像していたフォルティシモからすると肩透かしに感じる。
しかしフォルティシモが拍子抜けしたのに対し、隣を歩くキュウは緊張を強めていくのが分かった。いや緊張と言うよりも、彼女の耳と尻尾の角度から考えると、警戒していると言うべきだろうか。
「この先に気になることがあるのか?」
「この先、私には何も“聞こえ”ません」
フォルティシモとキュウが歩く廊下の先にあるのは、当たり前にある大企業の社長室に見える。
しかし黄金の耳を持つキュウがその部屋を聞き取れないと言えば、まったく違った印象を覚えた。過去や未来、確率や可能性、そんな概念から切り離された全視も全聴も観測不可能な部屋。
「マリアステラと戦おうとしているのは、伊達じゃないようだな。キュウは俺から絶対に離れるな」
「はい、ご主人様」
フォルティシモはドアノブへ手を掛け、部屋の扉を開いた。
その部屋は照明器具がほとんど取り付けられていないため全体的に薄暗く、その代わりというように壁や天井、床までがコンピュータの基板で埋め尽くされている。まるでコンピュータの内部に飲み込まれてしまったかのような錯覚に陥る部屋だった。
そんな不気味な部屋の中心にあるシステムチェアに、黒髪紅眼の少女が膝を立てて座っている。
椅子に座りながらも床に付く長い黒髪は幽鬼のようで、体型は長い髪とは真逆で子供のそれだ。十代前半くらいの少女が、何十年も髪を伸ばしたアンバランスな姿。紅い眼を見れば、吸血鬼を連想させる。
「フォルティシモだ。お前“も”、ゼノフォーブフィリアで良いんだな?」
「吾はゼノフォーブフィリア。今はゼノフォーブだ」
黒髪紅眼の少女ゼノフォーブはシステムチェアに膝を抱えて座りながら、フォルティシモを睨み付けていた。
フォルティシモはその視線に動じず、部屋を見回してシステムチェア以外に家具がないことを確認し、まず気になる点を指摘した。
「キュウの座る椅子はないのか? 俺は立ったままでも良いが、キュウを歓迎する椅子とお茶くらいは用意しようと思わなかったのか? リアルワールドの神のくせに交渉が下手だな」
「い、いえ、私よりも、ご主人様は対等な会談に臨まれているはずなので」
「他神の領域へ来て、使節団を遊びに行かせ、自分は物見遊山をしていた神がよく言う」
フォルティシモとゼノフォーブフィリアがリアルワールドへ向かう時間を約束していながら、その後の具体的な時間を調整しなかった。
その理由は、お互いに思うところがあるので、片方だけが悪い訳ではないと思っている。
「俺はお前よりも先に、キュウにこっちの世界を案内するって約束をしていたからな。最強のフォルティシモがキュウとの約束を破る訳にはいかないだろ」
「まーとの戦い以上に優先することなどない」
「でもキュウとのデートが楽しかったから、かなり満足した」
ゼノフォーブフィリアが瞬きを何度かした後、首を傾げた。フォルティシモの言いたいことが分からなかったらしいから,
フォルティシモは分かり易く繰り返す。
「キュウとのデートが楽しかった」
フォルティシモは分かり易く伝えたけれど、ゼノフォーブフィリアは理解できなかったようだった。
『主は、この世界の良さを再確認したから、一緒に守りたいと言っている』
「どれだけチューニングすれば、その論理展開を理解できるようになる?」
ゼノフォーブフィリアは諦めたように溜息を一つ吐き、視線でフォルティシモを促した。
「座りたければ好きな場所を使え」
「なら、このくらいは大目に見ろよ」
フォルティシモが虚空へ手を入れる。現代リアルワールドで【インベントリ】を使用したのだ。
最強神フォルティシモは神戯を本当の意味で完全攻略した存在であるため、世界の法則に縛られることなく力を行使できる。これまで使わなかったのは、感情的な理由とゼノフォーブフィリアとの関係を考えてのことだった。
それを破りインベントリから高級ソファを取り出す。当然、フォルティシモとキュウの二人で腰掛けられるサイズである。フォルティシモはキュウを抱き寄せる形で、高級ソファへ座った。
片やくつろぐための高級ソファに女の子を侍らせて座り、片やシステムチェアに膝を立てて座っている。
最強神フォルティシモと現代リアルワールドの神ゼノフォーブフィリアの二度目の会談は、そんな様子で始まった。
このビルを所有するヘルメス・トリスメギストス社は、VR空間へフルダイブするための機器VRダイバーを開発し浸透させた巨大企業である。
しかしながら、その大企業のCEOが現代リアルワールドの神というのは、何か詐欺のような騙されたような気分になる。意味は異なるが、自作自演と言えば良いだろうか。
そんな大企業の本社ビルの前までやって来ると、キュウが車の窓からビルを見上げる。耳を動かしているのは、フォルティシモには聞こえないものを聞き取ろうとしているのだろう。
「ゼノフィリアとは会談の後も少し話したが、なかなか話せる男だった。キュウに興味があるらしいが、もし不快な目で見られたり、食事に誘われたり、部屋に二人きりになりそうになったり、耳や尻尾を指先でも触れられたら、すぐに俺に言え。今すぐ同盟を破棄して、現代リアルワールドを攻め滅ぼすからな」
「はい………い、いえ、そのくらいなら大丈夫です!」
助手席のキュウがフォルティシモの軽口に慌てて振り向いた。こうして冗談を言えるなんて、フォルティシモもコミュ障ではなくなって来ているのかも知れないと、心の中で自画自賛する。
「冗談だ。ゼロパーセントはな」
「そ、そうでしたか。ご主人様の冗談に気が付かず、申し訳ありま………あれ、ゼロパーセント冗談ということは………?」
『主はせめて半分は冗談と言ってくれ。キュウ、ゼノフォーブフィリアはキュウへ性的もしくは恋愛感情や所有欲を抱いている訳ではない。その点は安心して良い』
エンシェントはフォローしているが、ゼノフォーブフィリアがキュウに並々ならぬ興味を抱いているのも事実だった。
フォルティシモも、それは仕方がないと理解している。
フォルティシモが車を進めて守衛AIに顔を見せると、すぐにVIP用の駐車場へ案内してくれた。VIP専用駐車場とは言え混雑しているかと思ったが、フォルティシモ以外に自動車は見つからない。
「これ、今日の打ち合わせとか、来客とか、全部断ったのか」
『それどころか、ネットワークをすべて遮断しているようだな。余程、主の来訪を心待ちにしていたらしい』
「大丈夫か? 株価下がらないか? 今の内に空売りしとくか」
世界的大企業の本社ビルが丸一日インターネットも電話も繋がらなくなってしまえば、もう事故か災害を疑う事態だ。さすがのフォルティシモも、もう少し早く来ても良かったかと罪悪感を覚える。
「ご主人様、この建造物、中から人の音がほとんど聞こえて来ません」
「人の音が聞こえない? ほとんどAIとロボティクスに任せてるってことか? さすが大企業だな」
キュウは駐車場で自動車を降りた瞬間、ドライブデートやコンサートデートの時とは異なった真剣な表情で、その黄金の耳で聞き取った内容を伝えてきた。
「居るのは、神や神に近い者、精霊や悪魔、あと、うまく言葉で説明できないのですが、概念的な生物、生物と言って良いのか、そんな方が居ます」
「キュウ」
「はい」
フォルティシモはキュウに必要以上に近寄って、尻尾をさわさわした。女性は頭を撫でられるのを嫌がるらしいから、代わりに尻尾を撫でることにしたのだ。
「情報量が多い。ここリアルワールドだよな? キュウの尻尾は触り心地最高だ」
「あ、ありがとうございます?」
『それらを世間から隠し、こうして世界を運営していた能力を称賛するべきだろう』
VIP専用駐車場から直通のエレベーターを使い、受付のある階まで上がると、大勢の従業員たちがフォルティシモとキュウを出迎えた。どこかの国の国家元首が現れてもここまで頭を下げるかと思うほどの最敬礼が、エレベーターの扉を開いた瞬間から目に入って来る。
フォルティシモは“最強のフォルティシモ”が敬意を示されるのが好きなので、ちょっと気分が良くなった。
「………俺はそこまで気にしないから、普通で良い、と言いたいが、ここは敵地の可能性もあるからな」
頭を上げてはならないとかは、敬意を示すだけではなく、暗殺を防ぐ意味もある。許可されるまで動かないのは、それだけフォルティシモへ敵対の意志がないことを示しているのだ。
「話しても良いが、変な気だけは起こすなよ。お前たちの一挙手一投足は、キュウが過去から未来まで聞き取ってる。変な行動を取ろうとしたら、俺たちと戦争になると思って言動を選べ」
従業員の中から若い男が前へ出た。首から提げたネックストラップには仰々しい肩書きに加えて常務取締役の文字がある。見た目だけであれば二十代前半で、アイドルでもやっていそうな容姿をしている。キュウの事前情報から、見た目通りの年齢ではないだろう。というか人でもないはずだ。
「ようこそおいでくださいました。偉大なる最強の神フォルティシモ様」
常務取締役は自己紹介と共に電子名刺をフォルティシモへ送って来たけれど、そこに書かれている名前は流した。あくまでも現代リアルワールドでの名前であり、本名とは思えなかったし、覚える気もなかったからだ。
それから世界最大の企業の常務取締役をエレベーターボーイに使い、キュウと共に案内されるままにVIP用エレベーターへ乗り込む。
「話しにくいことなら流して良いんだが、お前らはマリアステラと戦うことに賛成なのか?」
フォルティシモは案内されている最中に、常務取締役へ質問を投げ掛けてみた。
フォルティシモ率いる<最強>は、主力のほとんどがフォルティシモの元従者である。その元従者の従属神は、一人を除いて性格設定をフォルティシモ自身が作成した、フォルティシモの分身とも呼べる者たち。意見の対立はあっても、お互いを裏切ることはない。
しかしゼノフォーブフィリアたちは違う。戦争以外に選択肢の無かったトッキーの<時>でさえ非戦派がいた。複数人集まれば、神々でさえ意思統一は困難なのだ。フォルティシモとゼノフォーブフィリアが手を組んで、マリアステラと戦うことに反対している者がいるだろう。
「偉大なる神とはそのようなものでしょう」
常務取締役は答えになっていない答えを返して来た。事前に流して良いと言ったのはフォルティシモなので、文句も言い辛い。
エレベーターが最上階で停止した後、常務取締役はエレベーターの前でフォルティシモたちを見送った。
ここまでのエントランスやエレベーター、廊下はいかにも企業のオフィスビルであり、修羅神仏の跋扈する伏魔殿を想像していたフォルティシモからすると肩透かしに感じる。
しかしフォルティシモが拍子抜けしたのに対し、隣を歩くキュウは緊張を強めていくのが分かった。いや緊張と言うよりも、彼女の耳と尻尾の角度から考えると、警戒していると言うべきだろうか。
「この先に気になることがあるのか?」
「この先、私には何も“聞こえ”ません」
フォルティシモとキュウが歩く廊下の先にあるのは、当たり前にある大企業の社長室に見える。
しかし黄金の耳を持つキュウがその部屋を聞き取れないと言えば、まったく違った印象を覚えた。過去や未来、確率や可能性、そんな概念から切り離された全視も全聴も観測不可能な部屋。
「マリアステラと戦おうとしているのは、伊達じゃないようだな。キュウは俺から絶対に離れるな」
「はい、ご主人様」
フォルティシモはドアノブへ手を掛け、部屋の扉を開いた。
その部屋は照明器具がほとんど取り付けられていないため全体的に薄暗く、その代わりというように壁や天井、床までがコンピュータの基板で埋め尽くされている。まるでコンピュータの内部に飲み込まれてしまったかのような錯覚に陥る部屋だった。
そんな不気味な部屋の中心にあるシステムチェアに、黒髪紅眼の少女が膝を立てて座っている。
椅子に座りながらも床に付く長い黒髪は幽鬼のようで、体型は長い髪とは真逆で子供のそれだ。十代前半くらいの少女が、何十年も髪を伸ばしたアンバランスな姿。紅い眼を見れば、吸血鬼を連想させる。
「フォルティシモだ。お前“も”、ゼノフォーブフィリアで良いんだな?」
「吾はゼノフォーブフィリア。今はゼノフォーブだ」
黒髪紅眼の少女ゼノフォーブはシステムチェアに膝を抱えて座りながら、フォルティシモを睨み付けていた。
フォルティシモはその視線に動じず、部屋を見回してシステムチェア以外に家具がないことを確認し、まず気になる点を指摘した。
「キュウの座る椅子はないのか? 俺は立ったままでも良いが、キュウを歓迎する椅子とお茶くらいは用意しようと思わなかったのか? リアルワールドの神のくせに交渉が下手だな」
「い、いえ、私よりも、ご主人様は対等な会談に臨まれているはずなので」
「他神の領域へ来て、使節団を遊びに行かせ、自分は物見遊山をしていた神がよく言う」
フォルティシモとゼノフォーブフィリアがリアルワールドへ向かう時間を約束していながら、その後の具体的な時間を調整しなかった。
その理由は、お互いに思うところがあるので、片方だけが悪い訳ではないと思っている。
「俺はお前よりも先に、キュウにこっちの世界を案内するって約束をしていたからな。最強のフォルティシモがキュウとの約束を破る訳にはいかないだろ」
「まーとの戦い以上に優先することなどない」
「でもキュウとのデートが楽しかったから、かなり満足した」
ゼノフォーブフィリアが瞬きを何度かした後、首を傾げた。フォルティシモの言いたいことが分からなかったらしいから,
フォルティシモは分かり易く繰り返す。
「キュウとのデートが楽しかった」
フォルティシモは分かり易く伝えたけれど、ゼノフォーブフィリアは理解できなかったようだった。
『主は、この世界の良さを再確認したから、一緒に守りたいと言っている』
「どれだけチューニングすれば、その論理展開を理解できるようになる?」
ゼノフォーブフィリアは諦めたように溜息を一つ吐き、視線でフォルティシモを促した。
「座りたければ好きな場所を使え」
「なら、このくらいは大目に見ろよ」
フォルティシモが虚空へ手を入れる。現代リアルワールドで【インベントリ】を使用したのだ。
最強神フォルティシモは神戯を本当の意味で完全攻略した存在であるため、世界の法則に縛られることなく力を行使できる。これまで使わなかったのは、感情的な理由とゼノフォーブフィリアとの関係を考えてのことだった。
それを破りインベントリから高級ソファを取り出す。当然、フォルティシモとキュウの二人で腰掛けられるサイズである。フォルティシモはキュウを抱き寄せる形で、高級ソファへ座った。
片やくつろぐための高級ソファに女の子を侍らせて座り、片やシステムチェアに膝を立てて座っている。
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