神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

文字の大きさ
10 / 62

10

しおりを挟む
「飲み物はホットコーヒーで良いかな?」

「いや、こいつはホットティーで頼む」

「そうか……。じゃあホットコーヒーを二つとホットティーを一つ頼むよ」

「分かりました」

 笑いをこらええる表情を見られたくない為に、思わずうつむいている間にペンションオーナーの金森さんと兄はウェイトレスの横塚千香さんに飲み物のオーダーを終えた。兄が近くの椅子に腰かけたので私も横の椅子に座ればオーナーの金森さんもテーブルを挟んだ向かいの椅子に座った。

「さっき後で話すって言ったし、折角だから玄関とロビーに飾ってある猛禽の剥製やエゾ鹿について説明しておこうか?」

「そうですね。ぜひお願いします。私、あんな大きい鳥の剥製なんて初めて見ました!」

「まず、玄関に入ってすぐの所に置いていたのはオオワシだね。体長が約100センチ、翼を広げると約250センチの大きさになる」

「250センチ! そんなに大きいんですか!?」

「うん。オオワシは日本で一番大きな鳥とも言われているよ」

「エゾ鹿も日本で生息してる鹿の中で一番大きいし、北海道って土地だけじゃなくて住んでる鳥や獣のサイズまで大きいんですね!」

「失礼します」

 私が感心しているとウェイトレスの横塚千香さんが銀色のトレイに飲み物を乗せてやって来た。そして、兄と金森さんの前に湯気を立てるホットコーヒーが入った白磁器のコーヒーカップを置き、私の前にはホットティーが入った白磁器のティーカップを置いた。

「出来立てで熱いですから、飲む時は気をつけて下さいね」

「わかりました」

「では、ごゆっくりどうぞ」

「はい。ありがとうございます」

 小柄で可愛らしい三つ編みのウェイトレス。横塚千香さんに軽く会釈した後、ティーカップの持ち手をつまんで持ち上げ、白い湯気を立てる琥珀色の紅茶を数回、息を吹きかけて冷ましてから口をつけた。

 兄と金森さんもコーヒーカップを口元で傾けて一息ついた。それにしてもウェーブのかかったダークブラウンの髪色で、にこやかで日焼けしていて筋肉質な長身イケメンの金森さんと、黒髪で愛想が無くどちらかというと細身の兄は実に対照的に思える。

 そんなことを考えていたら金森さんが手に持っていた白磁器のコーヒーカップをソーサーに戻し、私と兄に視線を向けて微笑んだ。

「オオワシやオジロワシは北海道で見ることが出来る鳥の代表格だけど、冬の間しか見ることが出来ないんだ。見ておくなら今の内だよ」

「え、そうなんですか?」

「うん。夏場は繁殖……。卵を産んで育てる為にロシア極東、サハリンなどに帰るんだ。四月には北海道からロシアを目指して飛び立ってしまうよ」

「へぇ、子育ての為にロシアに……。じゃあ、なんで北海道に来るんですか?」

「寒くなるとロシアの河川が凍ってしまって主食の魚が食べられなくなるから、日本で越冬するそうだよ。北海道の川には十月はカラフトマスやサケが産卵の為に戻って来るし、旬のマスやサケで腹を満たして秋を過ごした後は冬場に人間の漁師が捕った魚からおこぼれを狙ったり、時にはアザラシの赤ちゃんを食べることもあるそうだ」

「ええっ! アザラシの赤ちゃんも食べちゃうんですか?」

「猛禽類は肉も食べるからね。可愛いアザラシの赤ちゃんが殺されてしまうというのは胸が痛むけど、自然の摂理だからね……」

「そうですね……。食べる側だって生きるのに必死なんですよね」

 クマなどの冬眠する動物と違って鳥は冬眠しないから寒い間も、しっかりエサを取らないといけないのだ。厳しい自然の気候や状況に対応する為に北海道に渡ったからには、生きるために獲物を狩って食べるのは仕方ないことなのだろう。

「うん。あと、ロビーにあるエゾ鹿の剥製。実は夏場に仕留めて剥製にしたから毛色が夏場の物なんだ」

「冬はエゾ鹿の毛色が違うんですか?」

「夏場は明るい茶色の毛色だけど、冬場はくすんだ灰褐色になるんだ」

「ずいぶん色が変わるんですね」

「保護色だな……。野生動物なら夏場と冬場で体毛がかわる物も珍しくない」

 兄が一度、ソーサーの上に戻していた白磁器のコーヒーカップをつかんで口を付ける前に呟けば、金森さんは目を細めて頷いた。

「そうだね。夏の木々に合わせて明るい茶色の体毛になったり、冬場の木々に紛れられるように灰褐色になってるんだと思うよ」

「オーナー。ちょっと良いですか?」

「ああ。今、行くよ。君たちはゆっくりしていてくれ。ちなみに夕食は18時から用意できる」

「わかりました」

 ウェイトレスの横塚千香さんに呼ばれた金森さんは席を立つ。

「金森、後でまた話を聞きたい。夕食後に時間はあるか?」

「わかった。夕食が終わる時間は一段落してるし、また来るよ」

 兄の問いかけに快く頷いた金森さんは調理場の方へ入っていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...