神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

文字の大きさ
21 / 62

21

しおりを挟む
「そうそう。織田信長が高級な茶器を集めてたり、豊臣秀吉が千利休にお茶をたててもらってるイメージが強いわ!」

 私は手を叩いて頷いた。大河ドラマなどで織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などの有名な武将たちがお茶を飲むというシーンは必ずと言っていいほどあるし、織田信長が本能寺の変で明智光秀に謀反を起こされ殺害された時、織田信長が所持していた高価な茶器まで戦火の中で一緒に失われてしまったというのを聞いたことがある。

 歴史ドラマなどでお馴染みになる位なのだから、当時の文献などにも戦国武将と茶器、茶文化について記述がかなり残っているに違いない。

「茶については安土桃山時代には織田信長や豊臣秀吉のような武将に好まれたのもあって、広く親しまれていたが実は平安時代の初期、804年には空海と最澄が中国から茶を持ち帰っていた。しかし、当時は日本に茶の文化が定着しなかったようだな……」

「えー。そうなの? なんでお茶が定着しなかったんだろう? 戦国時代には武将たちの間にも浸透してたっぽいのに……」

 戦国武将たちには受け入れられたものが平安時代に広まらなかった原因が分からない。時代が早すぎたということも無い気がするけど……。理由が分からず、私は口を尖らせながら首をひねった。

「空海や最澄の時代だと、茶は嗜好品というよりも異国の薬として捉えられていたというのもあったようだ」

「ああ、異国のなんだかよく分らない薬ってイメージが強かったんじゃあ、確かに浸透しにくかったのかもしれないわねぇ……」

「その後、平安時代の後期に明菴栄西みょうあんえいさいという禅僧が、当時は宋という国だった中国に渡って、1191年に茶の種と抹茶の製法を日本へ持ち帰った。明菴栄西が茶の種を九州で蒔いて栽培すると同時に、漢柿形茶壺あやのかきべたのちゃつぼという中国南宋から持ち帰った茶褐色の陶器に三粒の茶種を入れて、京都の北にある栂尾山の高山寺。今の京都市右京区に住む明恵みょうえ上人という僧に贈った」

「なんで明菴栄西は明恵上人に茶種と漢柿形茶壺あやのかきべたのちゃつぼを贈ったのかしら? 中国の陶器も茶種も当時はすごい貴重品だったんじゃないの?」

「1141年生まれの明菴栄西と1173年生まれの明恵上人は年齢が30歳以上も離れている。年齢的にも宋に渡った明菴栄西が明恵上人を指導する立場だったはず。一方、明恵上人は優秀な僧として知られていて、修行の為に大陸へ行く事を熱望していたが、自身の病気などで大陸への渡航が果たせなかった。明恵上人が渡航を果たせなかった無念さを明菴栄西は知っていたんだろう……。そして当時の明菴栄西は年齢が50歳。鎌倉時代あたりはせいぜい20代半ばが平均寿命だったことを考えれば当時50歳の明菴栄西はすでに高齢だった」

「20代が平均寿命なんて……。今の日本人は平均寿命が80歳以上だってこと考えると信じられないわね」

 現代の四分の一程度の寿命だった時代があったなんて、具体的な数字で聞くと唖然としてしまう。

「まぁな。とにかく、そういう年齢的なこともあり、まだ若い明恵上人に自分の知識を伝えたいという思いもあっただろう。だからこそ、宋から持ち帰った貴重な茶種と漢柿形茶壺を明恵上人に託したのではないかと考えられる」

「明菴栄西は、自分が大陸で学んだ知識や文化を後世に伝えたかったのね」

「そうだろうな。そして、貴重な茶種をもらった明恵上人が京都の深瀬ふかいぜ三本木という山中で茶種を植えて大切に育て、栽培した茶葉から抹茶を作って飲んでみたところ。眠気を覚ます効能があり、修行をする際に眠気を覚ますのにも最適な飲み物だという理由で周囲の僧たちにも茶を飲むことを薦めていったそうだ」

「へぇ、コーヒーみたいな受けとめられ方だったのねぇ……」

「抹茶にはカフェインの成分が含まれているから実際、眠気を覚ましてリフレッシュしたい時に飲むのは有効だったんだろう。さらに言えばビタミンCなどが多く含まれている上、ミネラルやカルシウムなども摂取できた。人体に必要な成分が含まれている抹茶を眠気覚ましとして寺で愛飲することで、僧たちは茶が健康的な体づくりに良いことにも気付いたはずだ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...