神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

文字の大きさ
39 / 62

39

しおりを挟む
 本来なら長時間いるはずがない地上で動けなくなり、冷たい雪の上で絶命した哀れなオオワシを思い出しながら聞けば兄は私を一瞥した。

「そうだ。そして、次はこれを見てくれ」

 言いながら兄は茶色い封筒の中から複数のレントゲン写真を取り出し、テーブルの上に並べた。非常に分かりやすい真横から撮影された犬のレントゲン写真だ。横以外に腹部を上から撮影したアングルのレントゲン写真などもある。

「このレントゲン写真は、このペンションで飼われていた三匹の北海道犬の物ね」

「ああ。そして、ここを見てくれ」

「え、これって!?」

 犬のレントゲン写真、肋骨に覆われた下腹部を兄が指さしたので見れば、そこにはオオワシと同じような金属らしき白い影が鮮明に写っていた。

「これオオワシのレントゲンに写ってたのと全く同じなんじゃないの?」

「ああ。同じ物だ」

「ねぇ、この金属片って一体……?」

「そいつの正体はこれだ」

 沖原沙織さんが眉を潜めながらレントゲン写真の白い影をにらみつけた時、上着のポケットに手を入れた兄がハンカチを取り出し、ゆっくりとめくる。

 すると白いハンカチの中から黒灰色に鈍く光る、いびつな形の金属片が姿を現した。この形状には見覚えがある。ここに来た初日の晩、エゾ鹿の遺体から兄が見つけた物だ。

 しかし指の爪ほどの大きさで、ごく小さな金属片だ。取り立てて鋭利な破片という訳でもない。少なくともこの金属片が鋭利な刃物となって内臓を傷つけたようには見えない。私が小首を傾げながら考えた疑問を沖原沙織さんも同様に感じたようで、鈍く光る金属片を指さしながら眉根を寄せた。

「それを飲み込んだせいでオオワシやここで飼ってた北海道犬たちが死んだの? でもペットの誤飲は比較的よくある事故なのよ……。こんな小さな小石みたいな異物の誤飲で死んでしまうなんてありえないわ!」

「確かに犬や猫などのペットは異物の誤飲を起こしやすい。通常は即座に死に至る事故はそうそう起こらない。だが、飲み込んだ物が悪すぎた」

 白いハンカチの上に置かれた黒灰色の金属片を見据えながら、兄の黒い前髪が目にかかり顔に昏い影を落とした。もったいぶったような言い回しに痺れを切らしたのは沖原沙織さんだった。右手の平でバン! とテーブルを叩いたのだ。

 食堂内に大きな音が響いた瞬間、テーブルの上に置かれている白磁器のコーヒーカップだけでなく、カウンター付近からこちらを見ていたウェイトレス横塚千香さんの肩や、厨房の中からこちらを見守っていた笹野絵里子さんのポニーテールまでもがビクリと揺れるのが見えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...