神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

文字の大きさ
54 / 62

54

しおりを挟む
「増えすぎた鹿によって環境破壊がそんなに深刻になっていたなんて……。何か解決策はないの?」

「環境保護だけ考えるなら、有効だと思える手段はあるんだがな……」

「えっ? どんな方法があるの!?」

 私が弾かれるように顔を上げれば、兄は自身のアゴを手で触りながら黒い前髪の奥で黒曜石色の目を細めた。

「参考になる例として……。アメリカのアイダホ州、モンタナ州、ワイオミング州にかけて存在している広大なイエローストーン国立公園では1926年にオオカミが殺された記録を最後に、現地ではオオカミが絶滅した。そしてその後、大型の草食動物であるワピチというアメリカ赤鹿などの個体数が増加して森林の環境被害が深刻になっていった」

「天敵のオオカミがいなくなったことで、鹿が増えて森林の食害が大きくなってきた。日本と同じ状況だったのね……」

「ああ。そして、アメリカ赤鹿の個体数が増える半面、アカギツネの個体数は減少した。さらに、水辺に生息していたビーバーは絶滅寸前になった」

「なんでアメリカ赤鹿が増えたからって、アカギツネやビーバーの数が減るの? 直接、関係があるとは思えないけど?」

 アメリカ赤鹿が草食動物ならアカギツネやビーバーが直接の被害を被るとは思えない。それなのに何故、アカギツネとビーバーの個体数が減少したのか皆目、見当がつかず私は首をひねった。

「オオカミは家畜を襲う害獣として駆除され絶滅したが、オオカミと同じイヌ科のコヨーテは絶滅していなかったんだ。そして、生き残っていたコヨーテは自分より体長が遥かに大きいアメリカ赤鹿を襲わず、狙いやすいサイズのアカギツネを捕食していった。さらに言えば、コヨーテの天敵はオオカミだ。人間によって天敵のオオカミが完全に駆除されたことでコヨーテの個体数も増え、被害に遭うアカギツネの数も増加したことから、アカギツネの個体数減少に繋がったんだろう」

「コヨーテに捕食されたアカギツネの個体数が減ったのは分かったけど、ビーバーは? 水辺に住むビーバーがどうして絶滅寸前になったの?」

「ビーバーの天敵はコヨーテなんだ。やはり、増加したコヨーテに捕食されてビーバーも数を減らしたと考えられる」

「オオカミが絶滅した余波が、アカギツネや水辺の生き物であるビーバーにまで及んでいたのね……」

「当時の人間は家畜を襲う害獣であるオオカミさえ駆除すれば丸く収まると考えていた訳だが、実際にオオカミが絶滅するとオオカミが捕食していたアメリカ赤鹿の増加による森林の食害、環境破壊。コヨーテの増加。アカギツネやビーバーの深刻な個体数減少と次から次へと問題が噴出した」

「今起こってる日本の状況とすごく似てるわね」

「ああ。そこで、このまま手をこまねいていては状況が悪化する一方だと危機感を持った関係者たちは、イエローストーン国立公園の生態系を以前の正常な形に戻すのが最善だと考えた」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...