5 / 65
グリンダの兄
しおりを挟むラングスレッタ家の大広間。高価そうな絵画や、壺、花飾りで彩られている空間を、オーケストラの音楽が包んでいた。
使用人の数も、いつもより多く、ラングスレッタ子爵が客人に経済力を見せつけようと、あれこれ努力していたことが伝わってくる。
オーケストラが絶え間なく響き渡る中、客人の紳士、令嬢は、ビュッフェ式の食事を楽しみながら舞踏会を楽しんでいた。
六曲目の音楽が流れ始めてから五分が経ち、酒を飲みながら噂話をする人々の視線は段々と”ある二人組”の元に集まり始めた。
それは、パーティの”花”であるグリンダと、美しい紳士の二人組であった。
二人の容姿から、一挙一動に至るまで洗練された動きは見る人々を魅了した。
「あの紳士どなたかしら?」
「見たことが無い方ね」
「後で名前を伺わないと」
「容姿は素敵だし、あとは家督が継げる長男なら完璧よね」
そわそわとする娘たちの存在に気づいた、紳士は「ん?」と言わんばかりに首を傾げる。
まるで小悪魔のような対応に、令嬢たちの黄色い悲鳴が上がったことは言うまでもない。
やがて、ダンスが終わりグリンダと紳士が喫茶室へお菓子を摘みに行く。
なにやら楽しげに話している二人の姿を見て、令嬢たちは悔しそうに奥歯を噛み締めた。
「ねぇ、見た?」
「あの二人。そのままティールームに入ったわ」
「ということは初対面ではないのよね?」
「くやしぃー、グリンダ嬢より早く、あの方に出会いたかったわ」
ダンスパーティにおいて初対面の男女はむやみに言葉を交わしてはならない。
話したり、散歩をして楽しむことができるのは三回踊ってからだ。
***
時は一時間前に戻る。
大広間の入口で、来客に挨拶をしているのはグリンダと長男であるアンソニーであった。
「ミス・グリンダ。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。どうぞ、ゆっくりと楽しんで下さい」
グリンダの前で、優雅に礼をする紳士が一人。茶色の紳士服に、質のいいシルクハットを被った男は、ニッコリ微笑んでからグリンダの前を立ち去る。
心做しか紳士の姿を見たグリンダの表情も、柔らかくなった。
「知っているヤツか?」
アンソニーがグリンダに尋ねる。
「いいえ、初めてお会い致しましたわ」
ニコニコと笑うグリンダの様子をアンソニーは気に入らないと言わんばかりの目つきで見つめていた。
パーティが始まった後、しばらくして茶色の紳士服をまとった男がグリンダをダンスに誘った。
二人が踊るさまに人々は魅了され、グリンダの表情もいつもより明るかった。
ダンスが終わると、二人はティールームへ移る。
人脈を広げたい貴族たちが、楽しげに言葉を交わす中。グリンダと紳士は、マフィンをつまみながら談笑していた。
「グリンダは社交場が、あまり好きではないようだね」
「どうして、そう思うの?」
「だって僕が、ダンスに誘うまで君は周囲を警戒しているような素振りを見せていたからね。笑顔もぎこちないし」
グリンダが赤面する。
「嘘、私って、そういうふうに見えていたの?」
「誰にだって苦手なことはあるし仕方ないよ。それより、僕は今のような『ありのままのグリンダ』が好きだよ。無理して取り繕っていない、今の君がね」
「……、貴方って本当に……ね」
親しげに話す二人。
物陰から忌々しそうに見つめるアンソニーの姿には気づいていないようであった。
34
あなたにおすすめの小説
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~
猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」
王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。
王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。
しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。
迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。
かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。
故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり──
“冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。
皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。
冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」
一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。
追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、
ようやく正当に愛され、報われる物語。
※「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる