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夜の女王
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侍女が神殿に移ってから数日後。
やっと、外出する暇を確保できた。
今日は夜になるまで客人が来る予定はない。
外出するには最適の日だ。
まずはバスタブで身体を洗って、ヘアセット係が困らないようブラシで髪を梳かしておく。
リボンがふんだんに使われたドレスに着替える。色は赤。これだけは変えられない。
化粧とヘアセットを終わらせたら、日傘を持って馬車に乗り込む。
行先はグリンダの屋敷であるラングスレッタ家だと、執事には伝えておいた。
メアリーを乗せた馬車は、ラングスレッタ家を超えてモルガナ教会へと向かう。
「到着致しました」
目的地にたどり着くと御者の男が、馬車の扉を開けメアリーが安全に降りられるよう手を伸ばした。
「何度も言って申し訳ないんだけど、この事はターレンバラ家の者には絶対に内緒にしてね」
「分かっております。それにしても、使用人に会うため教会にまで赴くとは。お嬢様は、なんとお優しいことか」
「あの子は、ただの使用人じゃなくて昔から私に仕えてくれていた侍女だからね。私には特別な存在なのよ」
「それだとしても高貴な者が使用人ごときを気にするなど。家の者や、他の貴族に知られたらタダでは済まないでしょう?」
「だからこそ、貴方には私が教会に行っていたことを内密にして欲しいのよ」
メアリーは笑いながら男の手に金貨を握られた。いわゆる賄賂というヤツである。
「約束を守ってくれれば、また頼むわ」
「御意でございます。お嬢様」
御者は不敵な笑みを浮かべながら、深く、深く、礼をした。
***
「これはこれは、メアリーお嬢様」
メアリーが神殿に入ると白い神官服に身を包んだ男が出迎えた。
「神官長、お久しぶりです」
「本日はどのようなご用向きで?」
「私の侍女が最近、神殿に来たようなので様子を見に来ました」
「お嬢様、お気遣いは嬉しいですが、我々神官は俗世から離れた身です。ですから極力、外部の方が特定の個人に接触するのはやめて頂きたいのです」
神官長は申し訳なさそうにペコペコと頭を下げたが、彼の目には明らかに不快感の色が見えた。歓迎されていない。一目で分かる。
外部との接触が経たれる神殿。
フィネラが邪魔者を排除するには、都合のいい場所ね。
他にも神殿に送られた使用人がいるはず。見つけられれば、フィネラの悪事を世に広める際、証人になってくれるかもしれない。
すると、神官長の裏で待機していた女性神官が口を開いた。
「ですが、せっかく来ていただいたのですから、神殿の中を見学していくのはどうでしょう? そうすれば偶然元侍女の方とお会いする可能性もあるでしょう?」
聖母のような笑みを浮かべる女性神官。
「そうですね。では神殿の中を見学させていただくことにしましょう」
「では、私どもは神官の皆様にお嬢様がいらっしゃったことを伝えてまいりますね」
神官長と女性神官が早足で立ち去る。
一人残されたメアリーは、教会の壁に描かれた絵を眺める。
かつての宮廷画家が描いたという壁の絵は、帝国で昔から伝わる神話がモチーフになっていた。
とおい、むかし。
世界には人間と、大地の精霊である妖精が居ました。
人間と妖精は領土を求めて戦いました。
ながい、ながい、戦いの末、魔法を使える妖精が戦争に勝ちました。
それから何百年にもわたって『夜の女王』を中心とした妖精たちが、世界を治めるようになりました。
『夜の女王』は魔法を使ってありとあらゆる厄災を収めましたが、とても傲慢だったので気に入らない民の首は全てはねてしまいました。
ある時、『夜の女王』人間の王様が、一人の魔道士を派遣しました。
魔道士は『夜の女王』を槍で十三回刺して殺しました。
妖精たちは今まで人間と魔族にいじわるしてきたことを謝って、お詫びとして魔法の使い方を、人間と魔族に教えました。
それから妖精は姿を隠し、魔族と人間は仲良く暮らしましたとさ。
壁に描かれた絵。最後の一枚。
人間に魔法を授ける妖精たちは、銀髪であった。メアリーは己の髪に触れながら考える。
私の家族に銀髪の者はいない。
昔は両親と血が繋がっていないのではないかと考えていたが……。
もしかすると先祖に妖精でも居て、私は先祖返りなのかしら?
壁に描かれた『夜の女王』に手を伸ばす。
――私は誰?
やっと、外出する暇を確保できた。
今日は夜になるまで客人が来る予定はない。
外出するには最適の日だ。
まずはバスタブで身体を洗って、ヘアセット係が困らないようブラシで髪を梳かしておく。
リボンがふんだんに使われたドレスに着替える。色は赤。これだけは変えられない。
化粧とヘアセットを終わらせたら、日傘を持って馬車に乗り込む。
行先はグリンダの屋敷であるラングスレッタ家だと、執事には伝えておいた。
メアリーを乗せた馬車は、ラングスレッタ家を超えてモルガナ教会へと向かう。
「到着致しました」
目的地にたどり着くと御者の男が、馬車の扉を開けメアリーが安全に降りられるよう手を伸ばした。
「何度も言って申し訳ないんだけど、この事はターレンバラ家の者には絶対に内緒にしてね」
「分かっております。それにしても、使用人に会うため教会にまで赴くとは。お嬢様は、なんとお優しいことか」
「あの子は、ただの使用人じゃなくて昔から私に仕えてくれていた侍女だからね。私には特別な存在なのよ」
「それだとしても高貴な者が使用人ごときを気にするなど。家の者や、他の貴族に知られたらタダでは済まないでしょう?」
「だからこそ、貴方には私が教会に行っていたことを内密にして欲しいのよ」
メアリーは笑いながら男の手に金貨を握られた。いわゆる賄賂というヤツである。
「約束を守ってくれれば、また頼むわ」
「御意でございます。お嬢様」
御者は不敵な笑みを浮かべながら、深く、深く、礼をした。
***
「これはこれは、メアリーお嬢様」
メアリーが神殿に入ると白い神官服に身を包んだ男が出迎えた。
「神官長、お久しぶりです」
「本日はどのようなご用向きで?」
「私の侍女が最近、神殿に来たようなので様子を見に来ました」
「お嬢様、お気遣いは嬉しいですが、我々神官は俗世から離れた身です。ですから極力、外部の方が特定の個人に接触するのはやめて頂きたいのです」
神官長は申し訳なさそうにペコペコと頭を下げたが、彼の目には明らかに不快感の色が見えた。歓迎されていない。一目で分かる。
外部との接触が経たれる神殿。
フィネラが邪魔者を排除するには、都合のいい場所ね。
他にも神殿に送られた使用人がいるはず。見つけられれば、フィネラの悪事を世に広める際、証人になってくれるかもしれない。
すると、神官長の裏で待機していた女性神官が口を開いた。
「ですが、せっかく来ていただいたのですから、神殿の中を見学していくのはどうでしょう? そうすれば偶然元侍女の方とお会いする可能性もあるでしょう?」
聖母のような笑みを浮かべる女性神官。
「そうですね。では神殿の中を見学させていただくことにしましょう」
「では、私どもは神官の皆様にお嬢様がいらっしゃったことを伝えてまいりますね」
神官長と女性神官が早足で立ち去る。
一人残されたメアリーは、教会の壁に描かれた絵を眺める。
かつての宮廷画家が描いたという壁の絵は、帝国で昔から伝わる神話がモチーフになっていた。
とおい、むかし。
世界には人間と、大地の精霊である妖精が居ました。
人間と妖精は領土を求めて戦いました。
ながい、ながい、戦いの末、魔法を使える妖精が戦争に勝ちました。
それから何百年にもわたって『夜の女王』を中心とした妖精たちが、世界を治めるようになりました。
『夜の女王』は魔法を使ってありとあらゆる厄災を収めましたが、とても傲慢だったので気に入らない民の首は全てはねてしまいました。
ある時、『夜の女王』人間の王様が、一人の魔道士を派遣しました。
魔道士は『夜の女王』を槍で十三回刺して殺しました。
妖精たちは今まで人間と魔族にいじわるしてきたことを謝って、お詫びとして魔法の使い方を、人間と魔族に教えました。
それから妖精は姿を隠し、魔族と人間は仲良く暮らしましたとさ。
壁に描かれた絵。最後の一枚。
人間に魔法を授ける妖精たちは、銀髪であった。メアリーは己の髪に触れながら考える。
私の家族に銀髪の者はいない。
昔は両親と血が繋がっていないのではないかと考えていたが……。
もしかすると先祖に妖精でも居て、私は先祖返りなのかしら?
壁に描かれた『夜の女王』に手を伸ばす。
――私は誰?
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