31 / 65
メアリー
しおりを挟む
「そんなはずは……では、どうして今の私は心臓が動いているのですか? 死産の後、黒魔術で作られた生きた屍になってしまったとでもおっしゃるのですか?」
混乱した様子で叫ぶメアリーを見つめるクリスは、両手の拳を握りしめた。
「まずは今までお前に黙っていたことを謝ろう。これから話すのはお前が産まれた日の出来事だ」
そう言ってクリスが語り出したのは、今から遠い昔の話――。
お前の母親、グレイスはターレンバラ家に嫁いだときから病弱だった。
だから、医者には「子供は産めないだろう」と言われていたのだ。
私も彼女に「自分の身を大切にしなさい。私のために危険を犯す必要はない」と伝えていたが、結局、彼女は無理を承知でお前を産んだ。
しかし、無事に産まれてきた――と思われていた、お前は息をしていなかった。
万が一の時に備えて屋敷に呼んでいた魔道士によれば産まれつき、お前の魂には欠陥があったらしい。
そこで私は頼んだ。
「なんとかして娘を助けてもらえないか?」
グレイスが命を賭してまで産んでくれた娘だ。彼女を泣かせるような結果で終わらせたくなかった。
すると魔道士は言った。
「助ける方法はあるが、いつか必ず対価を払うことになる」
「それでも良い。娘を助けるためならどんな対価でも支払おう」
私が懇願すると魔道士は、お前の亡骸を預かって屋敷の台所で魔法薬を作り始めた。それから、半日後。お前はやっと産声を上げてくれたんだ。
あの日は多分、私とグレイスにとって人生で最高の日になったと思う。
何度泣いて喜んだことか。
しかし、喜んでいられたのは束の間。
魔道士は姿を消してしまい、彼の言う”対価”とななにか聞き出せなかったんだ。
その上、グレイスはこの後息を引き取ることになった。
いつものメアリーなら、まず「支払う代償を知らずに契約なんてしたの?」などと考えるであろう。
だが、今は”怪しい取引をしてくれてまで私を助けてくれたことへの感謝”と”自身の正体を知ったことで生じた複雑な心境”が入り交じっていた。
むしろ、後者の方が大きいぐらいだ。
「教えて下さり、ありがとうございます。頭が混乱しているので少しばかり情報を整理する時間を下さい」
「分かった。部屋で休んできなさい」
メアリーはなにも返事をせず、弱々しい足取りで部屋に戻る。
侍女の手を借りず、さっさとドレスからネグリジェに着替えてベッドに入った。
髪飾りを全て外し、両肩から垂れる己の髪を眺めながらメアリーは頭を抱えた。
私は怪しい魔法によって生を賜った存在。
もしかして私がメギスが驚くほどの魔力を持っている原因と関係があるのだろうか?
それよりも、『魔女』ではないことを証明するために回帰したのに……。
これでは、どのみち私はバケモノような存在ではないか。
自分の正体が分からないことが、ここまで辛いだなんて。
両目から涙が溢れてきた。
泣いたところで、なにも事態は好転しないのに。
何度も何度も涙を拭いているうちにまぶたが重くなってきて、メアリーは深い眠りに落ちた。
***
メアリーは気づくと森の中にいた。
前方には透き通った湖があって、金色の蝶々が舞っていた。足元には地面から生えた宝石がキラキラと輝いている。
「変な森ね。まるで絵本の世界みたい」
「当たり前よ。だって貴方の夢だもの」
隣から突然女性の声が響く。
視線を右隣に移すと、美しい女性が立っていた。髪は地面に着きそうなぐらい長い銀髪で、まとっているドレスはブルー。
彼女の背中からは虹色の羽が生えていた。
「どうして泣いているの? メアリー」
「貴方……妖精?」
「大丈夫よ。怖いことはなにもしないから」
名も知らぬ妖精は眩しい笑顔を浮かべた。偽善に満ちたフィネラのものとは違う。母親のような暖かい笑顔だ。
「私が泣いているのは……自分がバケモノだって分かったから」
「あら、誰がそんなこと言ったの?」
妖精はメアリーの頭を撫でる。
「それは貴方が勝手に思い込んでいることでしょう?」
「それはそうだけど……」
「心配ならメギスやグリンダちゃんに聞いてみなさいな」
混乱した様子で叫ぶメアリーを見つめるクリスは、両手の拳を握りしめた。
「まずは今までお前に黙っていたことを謝ろう。これから話すのはお前が産まれた日の出来事だ」
そう言ってクリスが語り出したのは、今から遠い昔の話――。
お前の母親、グレイスはターレンバラ家に嫁いだときから病弱だった。
だから、医者には「子供は産めないだろう」と言われていたのだ。
私も彼女に「自分の身を大切にしなさい。私のために危険を犯す必要はない」と伝えていたが、結局、彼女は無理を承知でお前を産んだ。
しかし、無事に産まれてきた――と思われていた、お前は息をしていなかった。
万が一の時に備えて屋敷に呼んでいた魔道士によれば産まれつき、お前の魂には欠陥があったらしい。
そこで私は頼んだ。
「なんとかして娘を助けてもらえないか?」
グレイスが命を賭してまで産んでくれた娘だ。彼女を泣かせるような結果で終わらせたくなかった。
すると魔道士は言った。
「助ける方法はあるが、いつか必ず対価を払うことになる」
「それでも良い。娘を助けるためならどんな対価でも支払おう」
私が懇願すると魔道士は、お前の亡骸を預かって屋敷の台所で魔法薬を作り始めた。それから、半日後。お前はやっと産声を上げてくれたんだ。
あの日は多分、私とグレイスにとって人生で最高の日になったと思う。
何度泣いて喜んだことか。
しかし、喜んでいられたのは束の間。
魔道士は姿を消してしまい、彼の言う”対価”とななにか聞き出せなかったんだ。
その上、グレイスはこの後息を引き取ることになった。
いつものメアリーなら、まず「支払う代償を知らずに契約なんてしたの?」などと考えるであろう。
だが、今は”怪しい取引をしてくれてまで私を助けてくれたことへの感謝”と”自身の正体を知ったことで生じた複雑な心境”が入り交じっていた。
むしろ、後者の方が大きいぐらいだ。
「教えて下さり、ありがとうございます。頭が混乱しているので少しばかり情報を整理する時間を下さい」
「分かった。部屋で休んできなさい」
メアリーはなにも返事をせず、弱々しい足取りで部屋に戻る。
侍女の手を借りず、さっさとドレスからネグリジェに着替えてベッドに入った。
髪飾りを全て外し、両肩から垂れる己の髪を眺めながらメアリーは頭を抱えた。
私は怪しい魔法によって生を賜った存在。
もしかして私がメギスが驚くほどの魔力を持っている原因と関係があるのだろうか?
それよりも、『魔女』ではないことを証明するために回帰したのに……。
これでは、どのみち私はバケモノような存在ではないか。
自分の正体が分からないことが、ここまで辛いだなんて。
両目から涙が溢れてきた。
泣いたところで、なにも事態は好転しないのに。
何度も何度も涙を拭いているうちにまぶたが重くなってきて、メアリーは深い眠りに落ちた。
***
メアリーは気づくと森の中にいた。
前方には透き通った湖があって、金色の蝶々が舞っていた。足元には地面から生えた宝石がキラキラと輝いている。
「変な森ね。まるで絵本の世界みたい」
「当たり前よ。だって貴方の夢だもの」
隣から突然女性の声が響く。
視線を右隣に移すと、美しい女性が立っていた。髪は地面に着きそうなぐらい長い銀髪で、まとっているドレスはブルー。
彼女の背中からは虹色の羽が生えていた。
「どうして泣いているの? メアリー」
「貴方……妖精?」
「大丈夫よ。怖いことはなにもしないから」
名も知らぬ妖精は眩しい笑顔を浮かべた。偽善に満ちたフィネラのものとは違う。母親のような暖かい笑顔だ。
「私が泣いているのは……自分がバケモノだって分かったから」
「あら、誰がそんなこと言ったの?」
妖精はメアリーの頭を撫でる。
「それは貴方が勝手に思い込んでいることでしょう?」
「それはそうだけど……」
「心配ならメギスやグリンダちゃんに聞いてみなさいな」
18
あなたにおすすめの小説
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~
猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」
王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。
王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。
しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。
迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。
かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。
故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり──
“冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。
皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。
冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」
一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。
追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、
ようやく正当に愛され、報われる物語。
※「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる