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閣下、ご冗談ですよね?
しおりを挟む「それと、ここには第三者の目もありませんし、私のことは名前で呼んで下さい」
「分かりました。では、えーと……ウィリアム様……」
気まづそうに視線を動かしながら名前を呼ぶメアリーを見て、ウィリアム慈しみに近い眼差しを向けた。
「実を言うと……私はモルガナ教会で貴方まと出会う前から、貴方のことは知っていました」
「社交界での噂で私の情報を?」
「はい、ラングスレッタ家のパーティで素晴らしいショーを披露していたとの噂を耳にしました」
グリンダを助けたときの出来事ね……。
「それで以前から貴方には興味があったのですが、教会での出来事を得て私は、ますます貴方に興味をひかれました」
「えーと、私の一体どこに閣下の興味を引くような長所があるのでしょうか?」
「性格ですよ」
ウィリアムは無表情のまま視線を、庭の花に向けた。
「私の周りに居る人間はどいつもこいつも、思ってもいないくせに褒め言葉ばかり並べてばかりです。どうせ心の底では私の権力にあやかりたいと考えているか……もしくは、政敵である私を嫌悪しているくせに……だからこそ私は一生、王位は継がず公爵として過ごすつもりです」
上辺だけの敬意が嫌か……。
そんなこと考えたことも無かったわね。
だって、産まれたときから身分の低い者からは敬意を払われて、身分の高い相手には相応の態度で接してきたから。
「でも貴方は違いました。誰が相手であれ、最低限の礼儀とマナーは守りつつも、言いたいことはハッキリと伝える。ありのままの姿を守っている。態度だけではありません。その銀髪も同様です。貴方は隠すことを選ばなかった」
ウィリアムは花から視線を戻してから、どこかぎこちない笑みを浮かべた。
「私にとって、そんな貴方はどこまでも輝かしくて、眩しい存在なのです」
胸が高鳴り、締め付けられる。
ありのままで良い。
隠さない姿が素敵だ。
今まで髪色のせいで散々な目にあってきたメアリーにとって、この言葉以上に救われるものは無かった。
もしかしたら庭園で私に話しかけられたお兄様も、こんな気持ちだったのかもしれないわね……。
「ウィリアム様にそう言っていただき心の底から光栄に思います」
メアリーが空っぽになったティーカップをソーサーに戻しながら微笑むと、ウィリアムが話を続けた。
「そういえば、私が貴方に渡した謝礼についてですが……耳飾りは使って下さっているようですね」
「耳飾りでしたら大切な式典の日や、遠出の時に利用させていただいています」
「では、もう一つの方は?」
ウィリアムが送った、もう一つの謝礼。
それは、彼を頼る権利。
もし送り主が友人であれば、ささやかなプレゼントにすぎないが、私の場合、送り主は皇帝の息子であるウィリアムだ。
この権利は、ありとあらゆる場面で使うことのできる切り札となる。フィネラへの復讐も含めて。
「もう一つの謝礼でしたら使い道は決めてあります。ですが……」
メアリーは言葉を詰まらせる。
「浮かない顔ですね?」
「はい、恐らくウィリアム様にとって信じ難い話をしてしまうことになるので」
「それでしたら気にしなくていいですよ。もし貴方が『一週間後に雨が地面から空に振る』などと言い出しても私は咎めませんから。貴方に私を騙そうという意思がなければ」
「ウィリアム様を騙そうなどと……そのような愚行は一切考えておりません」
「でしたら素直に貴方の願いを話してください。できる限り善処いたしましょう」
メアリーは要点をおさえながら『フィネラが邪魔者を排除するために今まで卑劣な手段を使ってきたこと』『モルガナ教会はフィネラが邪魔者を送るために使われていたこと』『フィネラの呪いで亡くなった人々が居ること』を説明した。
ウィリアムは時々、動揺したような表情を見せたが、最後までメアリーの話を真剣に聞いていた。
「いくら上位貴族とはいえ守るべき民を生きた道具のように使い捨てることなど到底許されるべきではありません。もし貴方の話が本当だとするならば今すぐにでもターレンバラ伯爵夫人を逮捕――もしくは、身辺調査したいところですが、一つ問題があります」
「その問題というのは、調査をするための十分な口実が無いことでしょうか?」
「はい、残念ながら」
「やはり私と元使用人の証言だけでは不十分でしょうか?」
ウィリアムは深刻な表情で頷いた。
「相手は上位貴族の夫人です。平民の意見など無視する可能性が高い。だとすれば貴方一人しか証人がいません。しかも、今のところ証人を用意できる事件の被害者は平民だけです。これでは裁判官も真面目に取り合わないでしょう」
一筋縄ではいかないようね……。
できるものなら「そこは閣下の権力でなんとかなりませんかね?」とでも言いたいところだが、彼も皇族として貴族から反感を買うような真似はできないのであろう。
「あぁ、でも……貴方一人の証言に存在する価値を手っ取り早く上げる方法ならありますよ?」
「えっと、それはどのような手段でしょう?」
メアリーは数え切れないほどのパターンを脳内でシュミレーションして、最適解を探したが、いくら考えても彼の言う”手っ取り早い解決法”は閃かなかった。
「私の妻になれば良いのですよ」
「うっ……!」
メアリーは驚きのあまり飲んでいた紅茶を吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。同時に彼女の白い頬が紅潮する。
「失礼、少々取り乱してしまいました。閣下もご冗談を言う時があるのですね」
「私とした事が……ここまで驚くとは思っていませんでした。冗談ですから忘れてください。いや、三割ぐらい本音ですが」
キョトンとするメアリー。
焦ったように目を泳がせるウィリアムの口調が早くなる。
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