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チェックメイトの準備を
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「お気持ちは嬉しいですが、私の身分では公爵夫人には相応しくないと思います。たとえ”暫定的な形だけの結婚”であったとしても」
「私の立場を気にしてくださるのですね。では、もし仮に身分によって生じる問題を無視するのならば、貴方はどうしますか?」
私が公爵夫人になったことで生じるであろう他貴族からの反感が無かった場合。
ようするに、純粋に私がウィリアムとの結婚を受け入れられるかどうか。
メアリー・ターレンバラは目的のためなら手段を問わない女だ。
これは周知の事実だ。
だがメアリーにとって、たとえ”手段”であったとしてもウィリアムとの結婚には、抵抗感があった。
というより、心がなんとも言葉で表しにくいモヤモヤに包まれるのである。
ウィリアムは少し変わっているが悪い人ではない。
メアリーに対して差別的な対応はしない上に、ピンチの時は助けてくれた。悪い噂も聞かない。
おそらく、彼と結婚しても損はしない。
しかし、何度も頭の中で考え直しても
メアリーの答えは変わらなかった。
「……分かりません」
「おかしな質問をしてしまい申し訳ありあせん」
視線をティーカップから彼に向けると、いつも無表情のウィリアムが僅かに笑っていた。
「いえ……閣下が謝る必要はありません。私はただ……今の気持ちを上手に言語化だけですから」
これがメアリーの答えであった。
「証言の価値を上げる方法が使えないとなれば、逮捕する口実を見つけるしかないですね。正当な口実さえあれば私が実力行使に出ることも可能ですが……」
「なるほど、分かりました。では口実さえ作れれば良いのですね?」
ニヤリと笑うメアリー。
圧倒的に不利な状況に置かれているにも関わらず、彼女に焦りは一切無かった。
「もう手立てを思いついたのですか?」
「具体的な方法は決まっておりません。ですが、口実を作る手段は思いつきました」
「ほう、その手段とは?」
「簡単なことです。お義母様がウィリアム様の前で罪を犯すよう誘導すれば良いのですよ」
「舞台と役者を用意して、罪人を思い通りに誘導する。なるほど、実に貴方らしい手段です。となれば私の役割は罪を犯したフィネラ伯爵夫人を現行犯で捕らえることでしょうか?」
「そうなります。しかし、お義母様は呪いの類を使える可能性が高い。呪いを使用してウィリアム様に危害を加えるかもしれません」
フィネラが呪いを使えることは、メアリーにとって一番の懸念点であった。
復讐の計画者であるメアリーが傷つくだけならばまだ良い。
だが部外者であるウィリアムを、計画に巻き込んだ上に傷つく結果になることだけは絶対に避けたかった。
「私の身を案じてくださっているのならば気にする必要はありません。私も現皇帝の息子ですから有事の際は魔道石を使うことができますから、相手がたとえ竜であろうが、鉄の巨人であろうが、大抵の脅威には対処可能です」
魔道石。我が帝国の皇族だけが在り処を知っている特別な石だ。
伝承によれば、かつて夜の女王がトリスメギストスに倒された時に、人間へのお詫びとして残したものだという。
実際に魔道石を使う場面を見た者はほとんど居ないが、噂によれば皇族が決まった呪文を唱えればどこに居ても魔道石から魔力を引き出せるそうだ。
「さすがです、ウィリアム様。とても頼りになります」
メアリーの口元が緩む。
復讐の助けになる仲間の獲得、フィネラの出自に関する調査、フィネラが関わった悪事の証人確保。
今までは目立たないように地道な活動しかできなかったけど、今回の計画が上手くいけば、一気にフィネラの罪を洗い出すことができる。
――あぁ、楽しみで、楽しみで、仕方がないわ。
――やっと、この時が来る。
――ずっと守られてきたクイーンの駒が居場所を失う様子を、この目で焼き付けることができるの。
「ふと疑問に思ったのですが、貴方は義理とはいえ母親を罪人に堕とすことに抵抗はないのですか?」
ウィリアムが質問を投げかけると、メアリーは目を伏せた。
「抵抗がなにも無いと言えば嘘になります。あれでも私を娘として教え、導いてくれた存在ですから」
たとえ彼女の愛が偽物であったとしても。
「それでも、罪の無い人々を私欲のために使い潰し続けることを傍観していることはできません」
メアリーが断言するような口調で答えると、ウィリアムは
「やっぱり、貴方は強いですね」
「え、はい。そうでしょうか?」
雪のごとく白いメアリーの頬がピンク色に染まった。
照れくささのあまり、頬も緩んでしまう。
「おやおや、いつも高圧的な笑い方も素敵ですが、私はこっちの方が好きですよ」
「ですから冗談はやめてくださいと……」
「いえ、失礼しました。いつもの貴方も十分、素敵ですよ。貴方は貴方のままで良い」
ガゼボの下で笑い合う二人を、使用人たちは暖かく見守っていた。
「私の立場を気にしてくださるのですね。では、もし仮に身分によって生じる問題を無視するのならば、貴方はどうしますか?」
私が公爵夫人になったことで生じるであろう他貴族からの反感が無かった場合。
ようするに、純粋に私がウィリアムとの結婚を受け入れられるかどうか。
メアリー・ターレンバラは目的のためなら手段を問わない女だ。
これは周知の事実だ。
だがメアリーにとって、たとえ”手段”であったとしてもウィリアムとの結婚には、抵抗感があった。
というより、心がなんとも言葉で表しにくいモヤモヤに包まれるのである。
ウィリアムは少し変わっているが悪い人ではない。
メアリーに対して差別的な対応はしない上に、ピンチの時は助けてくれた。悪い噂も聞かない。
おそらく、彼と結婚しても損はしない。
しかし、何度も頭の中で考え直しても
メアリーの答えは変わらなかった。
「……分かりません」
「おかしな質問をしてしまい申し訳ありあせん」
視線をティーカップから彼に向けると、いつも無表情のウィリアムが僅かに笑っていた。
「いえ……閣下が謝る必要はありません。私はただ……今の気持ちを上手に言語化だけですから」
これがメアリーの答えであった。
「証言の価値を上げる方法が使えないとなれば、逮捕する口実を見つけるしかないですね。正当な口実さえあれば私が実力行使に出ることも可能ですが……」
「なるほど、分かりました。では口実さえ作れれば良いのですね?」
ニヤリと笑うメアリー。
圧倒的に不利な状況に置かれているにも関わらず、彼女に焦りは一切無かった。
「もう手立てを思いついたのですか?」
「具体的な方法は決まっておりません。ですが、口実を作る手段は思いつきました」
「ほう、その手段とは?」
「簡単なことです。お義母様がウィリアム様の前で罪を犯すよう誘導すれば良いのですよ」
「舞台と役者を用意して、罪人を思い通りに誘導する。なるほど、実に貴方らしい手段です。となれば私の役割は罪を犯したフィネラ伯爵夫人を現行犯で捕らえることでしょうか?」
「そうなります。しかし、お義母様は呪いの類を使える可能性が高い。呪いを使用してウィリアム様に危害を加えるかもしれません」
フィネラが呪いを使えることは、メアリーにとって一番の懸念点であった。
復讐の計画者であるメアリーが傷つくだけならばまだ良い。
だが部外者であるウィリアムを、計画に巻き込んだ上に傷つく結果になることだけは絶対に避けたかった。
「私の身を案じてくださっているのならば気にする必要はありません。私も現皇帝の息子ですから有事の際は魔道石を使うことができますから、相手がたとえ竜であろうが、鉄の巨人であろうが、大抵の脅威には対処可能です」
魔道石。我が帝国の皇族だけが在り処を知っている特別な石だ。
伝承によれば、かつて夜の女王がトリスメギストスに倒された時に、人間へのお詫びとして残したものだという。
実際に魔道石を使う場面を見た者はほとんど居ないが、噂によれば皇族が決まった呪文を唱えればどこに居ても魔道石から魔力を引き出せるそうだ。
「さすがです、ウィリアム様。とても頼りになります」
メアリーの口元が緩む。
復讐の助けになる仲間の獲得、フィネラの出自に関する調査、フィネラが関わった悪事の証人確保。
今までは目立たないように地道な活動しかできなかったけど、今回の計画が上手くいけば、一気にフィネラの罪を洗い出すことができる。
――あぁ、楽しみで、楽しみで、仕方がないわ。
――やっと、この時が来る。
――ずっと守られてきたクイーンの駒が居場所を失う様子を、この目で焼き付けることができるの。
「ふと疑問に思ったのですが、貴方は義理とはいえ母親を罪人に堕とすことに抵抗はないのですか?」
ウィリアムが質問を投げかけると、メアリーは目を伏せた。
「抵抗がなにも無いと言えば嘘になります。あれでも私を娘として教え、導いてくれた存在ですから」
たとえ彼女の愛が偽物であったとしても。
「それでも、罪の無い人々を私欲のために使い潰し続けることを傍観していることはできません」
メアリーが断言するような口調で答えると、ウィリアムは
「やっぱり、貴方は強いですね」
「え、はい。そうでしょうか?」
雪のごとく白いメアリーの頬がピンク色に染まった。
照れくささのあまり、頬も緩んでしまう。
「おやおや、いつも高圧的な笑い方も素敵ですが、私はこっちの方が好きですよ」
「ですから冗談はやめてくださいと……」
「いえ、失礼しました。いつもの貴方も十分、素敵ですよ。貴方は貴方のままで良い」
ガゼボの下で笑い合う二人を、使用人たちは暖かく見守っていた。
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