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兄との外出
しおりを挟むグリンダのおかげで手に入った新たな情報。それから、ウィリアムとの作戦立案。
いつも以上に疲れる二日間であったが、メアリーにはまだやるべきことが残っていた。
それは兄との小さな旅行である。
「お兄様、見てください。海ですよ!」
「あぁ……たしかに海だな」
メアリーは遠出の際、大体馬車のカーテンは半開きにしている。
窓から差し込む日光が煩わしく感じるが、真っ暗闇にしてしまうと狭い馬車の中が息苦しく感じるからだ。
だが今日は違う。
メアリーは意図的に馬車のカーテンを全開にして外を見ていた。
ガタガタと揺れる馬車の外に広がるのは、どこまでも地平線か続く青い海である。窓を取り外せば、今にでも塩の香りが届きそうだ。
帝都とターレンバラの領地。どちらも内陸部にあるので、こうして実際に海を見るのはメアリーにとって初めての体験であった。
「いつか丈の短いスカートのドレスをまとって、裸足で海辺を走ってみたいですねぇ」
「危ないぞ。尖った小石を踏んで足に傷がついたらどうする?」
「あら、傷ならすぐに治りますよ」
「そういう問題ではない。傷だって深さによっては治りが遅くなるし、なにより、はしたない服装で走り回っていたら悪い虫が寄ってくるぞ」
「お兄様は心配性ですねぇ」
メアリーが意地悪そうな笑みを浮かべると、イセルは「こっちは真面目に心配しているんだぞ」と呆れ顔で返してきた。
そうこうしているうちに馬車は目的の博物館にたどりつく。
「あら、思っていた建物より立派ね」
のどかな南部の街に一際目立つ建物があった。
上位貴族の邸宅ほどではないが。それなりに大きな建物の周りでは警備員が巡回していた。きっと、
「ここを治めているレインドル男爵が自身のコレクションを保管していた小さな屋敷を、博物館に改装したらしい。入館料を安い値段で抑えている上に、学者の要請があれば快く展示品も貸してくれるそうだ」
「高貴な者の義務の一環というわけですね。博物館の管理も男爵が?」
「いや、管理自体は知り合いに任せているらしい」
建物に入ると警備員が身体検査をしようと、二人を呼び止める。しかし、イセルから出自を聞いた途端、警備員は一斉に身を引いた。
周囲の一般客も二人が貴族だという話を耳にすると、そわそわした様子で他の展示室へ移動して行った。
どうやら一般客の邪魔をしてしまったみたいね。今度からは身分を隠しておいた方が良さそう。
博物館に入って、まず最初に出会った展示品は二百年前に使われていた天体観測器であった。
どうやらレインドル男爵は、化石だけではなく様々な世界中の珍しい品をコレクションしているらしい。
「よくお越しくださいました。ターレンバラのご子息と……」
展示室の中に白髪が混じった男性が入ってくる。服装と立ち振る舞いから察するに貴族だろう。
貴族の男はメアリーの姿を見てから言葉を詰まらせた。
「ターレンバラ伯爵の長女。メアリー・ターレンバラと申します」
メアリーがスカートの裾を摘んで、お辞儀する。
「これは失礼。お初にお目にかかりますレディ・メアリー」
「こちらこそ会えて光栄ですわ。もしかして貴方がレインドル卿かしら?」
「はい、その通りでございます。いやぁ、まさかターレンバラ伯爵のご子息と令嬢に足を運んでいただけるとは。人生なにがあるか分かりませんなぁ」
照れくさそうに話すレインドル男爵にイセルが一歩踏みよる。
「始めまして、レインドル卿。今日は妹と飛竜の化石を見ようと思い、ここまで足を運びました」
「ほぅ、それでしたらお二人は運が良い。あの化石は昨日までメンテナンス中でしたから」
あら、そうだったのね。
昨日と一昨日。どちらもイセルの用事が立て込んでいて良かったわ。
もし今日より前に来ていたら飛竜の化石は見れなかったもの。
我が身の運に感謝したメアリーは、ふと展示室の端っこで気まづそうに、こちらを見つめる男性がいることに気づいた。
博物館で働いていると思われる男性は、メアリーと目が合うと、すぐさまスタッフ用の部屋へ姿を隠す。
まぁ、なにか気づかれたら困ることでもあるのかしらね?
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