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剣術武闘会
しおりを挟む「我が親愛なる臣下よ。今日はよくぞ集まってくれた!」
剣技大会の会場である宮廷の庭は、かなり蒸し暑い。
太陽を遮る雲が見当たらない晴れ渡る空も原因の一つであるが、一番の要因は会場の熱気であろう。
優雅さと美しさに彩られたパーティとは違い、皇族が開催する剣技大会は、娯楽としての役割が大きい。
ある者は、鍛錬の成果を発揮するために――また、ある者は”理想の騎士様”を探すために会場へ集う。
とはいえ、メアリーが剣技大会に来た目的はどちらでもないのだが……。
メアリーの目的はただ一つ。
剣技大会を利用してフィネラを罠にはめること。たったそれだけ。
皇太子であるフィンの一声から始まった剣技大会は、例年通りの盛り上がりをみせた。
何試合か終わり、会場中が女性の黄色い声や、歴戦の剣士たちの雄叫びで満ちている中、メアリーはテントの下で冷静にトーナメント表を見ていた。
次はお兄様の番ね。
「メアリー!」
イセルの呼びかける声を聞いたメアリーはトーナメント表から目を離す。
「あら、お兄様」
「さっきからテントに引きこもって静かに試合を眺めているようだが、体調でも悪いのか?」
そう言いながらイセルは、ほかの令嬢を一瞥した。
各テントの周りでは仲の良い令嬢が集まって、出場選手に声援を送っていた。
「いえ、お兄様の出番が回ってきたときにしっかりと声援を送れるように休んでいただけです」
本当は暑苦しい中、大きな声を出すことが億劫なだけだが……。
「それなら良いが……では行ってくる」
「行ってらっしゃいませ。どうか悔いのない戦いを」
メアリーは手を振りながら、イセルを送った。
さて、お兄様には申し訳ないけど、作戦を実行させて貰うわ。
イセルが準備室へ向かったことを確認してから、メアリーはテントを出た。
剣術武闘会には多くの貴族が集まり、勝者になれば英雄扱いされる。もちろん、息子や夫が勝てば、社交界での自慢話に使えるので、ご婦人の方々も熱心に応援している。
つまり、もしイセルが大会で優勝すれば、母であるフィネラもチヤホヤされるのだ。
承認欲求の権化であるフィネラが、このような機会を逃すはずがない。
ならば、こちらが取るべき手段は決まっている。
彼女の息子であるイセルが負けそうな状況を作ればいい。
むろん、負けそうな状況を作るだけであって、意図的に負けさせるつもりはない。
それでは、今までイセルが重ねてきた努力が無駄になってしまう。
メアリーが試合の開始を待っていると、聞きなれた声が近づいてきた。
「ごきげんよう、メアリー!」
元気よく手を振りながら近づいてきたのは、グリンダであった。
「全然姿を見かけないので今日は欠席しているのかと思っていましたが、来ていらっしゃったのですね!」
「あぁ……私はさっきまでテントの中に居たからね」
「えー、せっかくのお祭りなのに……」
「次の試合が本命だから、それまで休んでいたのよ」
「なるほど、納得しました」
グリンダは弾けるような笑顔を浮かべながら、両手を頬に当てた。
「次はウィリアム公爵閣下の出番ですものね!」
「え……?」
メアリーが呆気にとられた途端――会場の中央にウィリアムとイセルが並んだ。
ウィリアムがメアリーに向かって微笑むと、会場が貴婦人の黄色い声で包まれた。
「まぁ、ウィリアム閣下が微笑んだわ」
「氷の貴公子様が笑う日が来るなんて」
「いったい、誰に向かって微笑んだのかしら?」
「私だったら、どうしよう……」
「馬鹿言わないでよ。誰なのか、答えは明白でしょ!」
同時にイセルが親の仇でも見るような目で、ウィリアムを睨みつけた。
うーん、なんだか私の知らない間に事態が悪化しているような……。
「ねぇ、グリンダ。なんだか大変なことになってない?」
「そうですね……氷の剣士が一人の女性に勝利を捧げるために戦う。我が国の乙女なら一度は夢に見る光景ですね!」
「ちょっと、貴方までどうしちゃったのよー!」
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