皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき

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第1部 隠された令嬢

9.お兄様vsアルフリード

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「エミリアどうだい進んだかい」

 夕方、お兄様は帰ってくるなり早々、私のスパルタ部屋に入ってきた。

 マニュアルの2冊目の半分を過ぎたところまで読み進められたけど、もう頭がパンパンだ。

 ハッキリ言って邪魔をして欲しくない気分だったけれど、開いておいた1冊目のヘイゼル家のアルフリードに関する記述があったと思われる数ページが切り取られた箇所をお兄様に見せつけた。

「アルフリード様に関する記述だけ見当たらないのですが、これはどういう事ですか?」

 お兄様は口を真一文字に結んで、ひきつったような表情で固まった。

「い、いや、彼に関する情報はもっと詳しく載せておいた方がいいと思って、内容を編集しているところだ」

 目が泳いでいて、明らかにおかしい。

「婚約する本人の情報がなかったら、一番困るじゃないですか。(本当は色々知ってるけど)私は昨日初めてアルフリード様にお会いしたばかりで何も知らないのに、婚約披露会で私が隙を突かれて陥れられてもいいんですか!? 何のためのマニュアルですか!」

 朝、お兄様が言っていたセリフをそのまま返して、なんとか渾身の演技で目を潤ませ始めた。
 シスコンなら例に漏れず、妹の涙には弱いはずだ。

「ああ……泣くな、泣くな! 見せてもいいけど、それが真実だからな。後悔しても知らないぞ」

 お兄様は一旦部屋を出ると、切り取ったと思われる数ページを手にして戻ってきた。

「まさかこんな事になるなんて……あいつにだけは……」

 お兄様は何かをボソボソ言いながら、紙を私に手渡しながら、持っていない方の手で自分の前髪をくしゃくしゃと掻きむしった。

 受け取ったその紙に目を通すと……


<人物>
 アルフリード・ヴェル・ヘイゼル

 性別:男性 年齢:18歳

 特徴
 ・八方美人

 ・人当たりはいいが、こだわりがない分、女性に対しても選り好みをしないため誰とでも気軽に付き合う

 ※舞踏会には毎回、必ず違う令嬢をパートナーとして連れてくる。


 !!!

 ええええっっ!!
 ちょっと!!!

 マニュアルに載ってた他の人達の紹介文と、文章タッチが明らかに違うんですけど!!

 客観的な資料のはずなのに、思いっきり書き手の主観が盛り込まれちゃってるし……


 情報の更新は自分がやってるって言ってたから、これを書いたのはお兄様よね?

 アルフリードと同じところで働いてて、彼の事こんな風に見てたの?

「ほ、他の方も同じことを思ってるんですか?」

「いや……どちらかといえば、好かれてる。本性に気づいてるのは俺だけだ」

 良かった……
 闇落ちする原作が始まる前の彼の交際については正直よく知らないけど、周りから尻がる……なんて女好きの最低男だと思われてたら、彼を救おうと思って動いてる私がバカみたいじゃん。


 少し落ち着こう。
 お兄様がアルフリードのことを実は毛嫌いしてるって事は分かった。

 ええっと、続きは……


 ・通常の人付き合いは表面的だが、皇女とは誕生日が1ヶ月しか違わないこと、皇帝と公爵の仲がいいため生まれた時から姉弟のように育てられたこともあり、唯一関係性が深い人物。

 あれ、これって……


「あんの……女たらしが!」

 急にお兄様が窓の方に向かって大きな声を出したので、思わず見ていた紙から目を外してそちらの方を見上げた。

 お兄様は部屋から早足で出て行った。

 窓の外を見てみると、屋敷の前に馬車が停まっていて、背の高い男性が立っていた。

 アルフリードだ……


 玄関から、さっき出て行ったお兄様が出てきた。

 あのお兄様の彼に対する態度からして、まさか……

 修羅場になっちゃうんじゃないの!?

 どうしよう… 私が出て行くと面倒なことになりそうだから、とりあえず窓から様子を見ている事にした。



「あ、兄上!」

 アルフリードは、玄関から出てきたお兄様の姿を見つけるとサッと片手をあげて、長い足で駆け寄っていった。

 ちょっとアルフリード、お兄様に向かっていま兄上と言ったの?

「すみません、仕事終わりのお疲れのところ出迎えていただいて、ありがとうございます」

 お兄様の前までくると、アルフリードは爽やかに笑った。

「ははは、公爵子息殿ご冗談を。私はあなたの兄ではないんだが……」

「何を言われます、侯爵様も妹君との婚約を破棄することはないと約束して下さったのですから、もう親戚も同然ですよ」

 何が問題なのかと軽く笑い飛ばすアルフリードに、お兄様も笑みを返してはいるけれど、その顔は完全に引きつり頬のあたりがピクピクしていた。

「それに僕は1人っ子ですから兄ができると思うと、嬉しくて」

 照れ臭そうにアルフリードは俯いて、右手で後頭部をかく仕草をした。
 少し頬が赤くなっている。

 不覚にも……可愛いと思ってしまった。

「エミリア嬢に会えますか?」

 アルフリードは顔を上げて真摯な表情でお兄様を見た。

「色々ありましたから、エミリアは疲れ切っていて休ませないといけないので、本日はお引き取りを……」

 お兄様は一見にこやかな表情で彼に語りかけているけれど、その目は笑っていない。

 その時、玄関から人影が現れて、お兄様の口元を後ろから塞いだ。

「いやいや! エミリアならピンピンしてますよ!」

 お兄様の声に被せるように声を上げたのはお父様だった。
 そんなお父様をお兄様は恨めしそうに睨んでいる。

「ああ、でも疲れさせてはいけないから……」

 アルフリードは言い淀んだ。
 あ、このパターンは『日を改めて来ます』っぽいわね。
 貴族家マニュアルもまだまだ今日のノルマが終わっていないから、時間が取れそうで良かった……
 と思ったら、

 アルフリードは屈託ない笑顔をお父様とお兄様に向けた。
「一目だけ彼女を見たら失礼させていただきます」


 お兄様との修羅場は免れたけれど、私は1日マニュアルと睨めっこでヘトヘトの頭と体を振り起こしながら、迎えに来た案内のメイドとともに、アルフリードの待つ我が家のティールームへ向かうことになった。
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