皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき

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第3部 君は僕を捨てないよね

79.準備をこなすエミリアの巻

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 年代順に並べられてなかった肖像画は、ゴリックさんとロージーちゃんと作業を開始しつつ、バイオリン演奏が途切れた所でアルフリードにも声をかけて手伝ってもらうことになった。

「アルフリード、この間お会いした乳母様から、小さい頃にあなたのバイオリンに合わせて皇太子様がピアノ伴奏をしてくれていたって聞いたんだけど、覚えてる?」

 そう、アルフリードのバイオリン演奏が聞こえてきて、私が皇太子様とのコミュニケーション方法として思いついたのは、その話からだった。

 よく漫画とかであるよね……分かり合えなかった2人がスポーツやら音楽を通して、分かり合えるようになったり、意思疎通まで出来るようになっちゃう、なんて展開が。

「あ、ああ覚えてるよ! 初めて人前で弾いた時のことだね。殿下は幼い頃からとても面倒見のいい方でね、僕のことも弟みたいに接してくれて色々な事を教えて下さったんだよ。バイオリンの練習にもよく付き添って下さっていた」

 アルフリードは嬉しそうに語った。
 色々な事を教えて下さってた……ってことは!?

「皇太子様から直接お話して教えてもらっていたの……?」

「ああ、話すのはお好きな方ではなかったけど、キャルン国へ行ってしまう前は、必要な時には誰とでも会話されていたよ。ただ、色々あって今ではエリーナ姫としかお話されなくなってしまわれたけど」

 そっかぁ、昔は今のようではなかったというなら……
 私が考えてた事が、もしかしたら有効に働くかもしれない。

「も、もしよかったら皇女様の今度のお誕生日会で、皇太子様とその時みたいに演奏してみるのはどうかな? 陛下や皇女様もとってもお喜びになると思うんだけれど……」

 そうして昔を再現したらその時の感覚を思い出して、エリーナさんを介さなくても、皇太子様もアルフリードとお話できるようになる……なんて都合のいい展開、起こらないかな?

 彼は私の提案に、ちょっと目を見開いた。

「へぇー、なるほどね。それはいいアイデアかもしれない。殿下がまだピアノが弾けるようだったら、お願いしてみるよ」

 アルフリードはそうして約束をしてくれた。
 うまくいくか分からないけど……少しでもお2人の反りが合わなくなるなんて事態を避けられるように、考え付くことは全て実行していきたい。


 そうして、私達は肖像画を年代順に並べる作業に集中して、なんとか今日の姫のエステ終了時刻までに終わらせることが出来たのだった。

「飾る場所は、そうだなぁ。これまでは、祖先様とはいつも一緒にいられるようにってことで、僕らのプライベートエリアの廊下に掛けられていたんだよね」

 これらの肖像画の配置について、アルフリードに聞いてみたら、彼はそんな風に答えてくれた。

 なるほど……
 ほとんどがこっちに目線を向けている人物ばかりが描かれているので、歩くたびに目線を感じて落ち着かなかったけど、あの廊下一面に所狭しと飾られていたのには、そういう訳があったんだ。

「だけども、侯爵様から教えてもらったヒュッゲな考えを実践するなら、祖先様たちも生前に心地いいと感じていた邸宅エリアに移動させてあげるのも、いいかもしれない」

 おお! 彼はどうやら以前、お父様と一緒に教育を施したヒュッゲ(北の方の国の考えで心地いい空間のこと)の思想に、狙い通り傾倒してくれているみたいだ。

「それでしたら、ご祖先様のお気に入りスポットを代々の執事頭が記録をとっておりますので、まとめまして坊っちゃまにお渡しさせていただきます」

 ゴリックさんのナイスアシストにより、肖像画はそういう配置で飾る方向になった。

 ヘイゼル邸の本館のリフォームは、まだ工事は完了していない所もあるけど、ほとんど計画自体はアルフリードと話し合って、進めることが出来ていた。

 でも、全く手がつけられてない所もあるので、この機会に聞いておくことにした。

「あとは、プライベートエリアのお部屋が数部屋リフォームしなくちゃなんだけど……公爵様とアルフリードのお部屋はどうすればいいかな?」

 アルフリードのお部屋は、以前、邸宅ツアーをしてくれた時にちょっとだけ覗かせてもらったけど……

 壁や天井は、とても古そうでヒビも所々に入っていたし、窓は大きいけど北向きのため、あんまり日の光は入ってこず、モノも置かない主義みたいで、閑散とした感じだった。

 公爵様のお部屋は案内されたことはないけど、多分似たようなものなんじゃないかと思う。

「うーん。一応、父上にも聞いてみるけど、僕はもうあの部屋で慣れちゃってるから、特別キレイにしてもらわなくてもいいかな。それに……君がうちのお嫁さんに入ったら、部屋も別のところに移る予定だし」

 彼は、なんとも言えない穏やかだけど、未来に期待を込めているような瞳で私の事を見つめてきた。

 彼も、ここにいるゴリックさんもロージーちゃんも、数ヶ月後には今言ったことが現実になると思って疑っていないと思う……私はそうならない可能性があると考えているのに……

 彼の瞳から私は顔をひきつらせながら、徐々に視線を横に逸らせて、ごまかすように言った。

「そ、そっか! じゃあ、今日はもう時間がないからまた今度、公爵様とアルフリードの部屋以外の計画を進めようね」

 こうして私は公爵家を後にして、スパへと戻った。


「はあ、申し訳ありません。先生は数ヶ月先までご予定がいっぱいでして……他の画家の方をあたって頂けないでしょうか?」

 それから、また別の姫のエステタイムが入った日。

 私はお兄様とイリスから教えてもらった、肖像画の画家さんの住所を訪ねてみた。

 帝都の住宅街の中に、アーティスト系の方が集まっているエリアがあって、その住宅の一つだった。

 だけど、応対してくれた画家さんの助手らしき女性は、困惑気味にお断りの言葉を述べてきた。

 どうやら、相当人気がある方のようだ。

「で、ですが、帝国の皇女様のお姿をお願いしたいのです! なんとか予定を空けられないでしょうか?」

 やはりここは、リリーナ姫が一国の王女という権力を奮って、仕立て屋さんにドレスを最優先させてしまったみたいに、我が国の皇族様という権威を利用させてもらって何とか割り込みできないだろうか……

 私はそんなよこしまな頭を働かせてしまって、頼み込んでみたんだけど、

「申し訳ございませんが、先生はどんなお立場の方でも平等に順番通りにというのがポリシーですので、ご理解ください」

 うう……これ以上、頼むと皇女様、ひいては皇族の方々全体の印象も悪くしてしまいそう。
 ここは諦めるしかないかな…… 私はクルリと体を回して、画家さんのお宅を後にしようとした。

「あら? その騎士服に、その髪の毛は、エミリア様では?」

 私の名前を呼ぶ声がして、振り返ってみた。

 さっき対応していた女の人がいた玄関ホールの先にある扉口には、胸あたりまであるクルンクルンとカールした茶色い髪に、ちょっと垂れ目な感じのおしゃれなドレスを着た少女が立っていた。

「あなたは……ミゼット様?」

 彼女は、私のお友達のご令嬢の1人、コルバルト侯爵家のミゼット嬢だった!

 どうしたのだろう、彼女も肖像画を描きに直接お宅まで来たのだろうか?

「わたくし、エル様ファンクラブで広報誌のお手伝いをしていますの。いつも広報誌に載せているエル様の似顔絵は、こちらの画家様にお願いしているのですよ」

 エル様ファンクラブの広報誌。
 これは月に1回発行されていて、私も会員になってるので毎月、お屋敷に送られてくる。
 そこには、少女漫画風のエルラルゴ王子様の挿絵が必ず載っているんだけど……

 ラドルフ一家の超リアルだった肖像画と、絵のタッチが全然違う!
 同じ画家さんのものだったなんて、全く気づかなかった。

「まあ! そうでしたのね、でもエル様はご不在ですのに……今日もファンクラブのお仕事でこちらにいらっしゃいましたの?」

 そんな調子でミゼット嬢の方に向かうと、横にいた画家さんの助手っぽい人は怪訝な顔で私の事を見てきた。

 あっそうだ……また騎士服だっていうのを忘れて、ご令嬢言葉を使っちゃってたわ。

「本当はエル様のお姿を描いていただくために本日予約していたのですけれど、実はこの度、エル様のワークショップに代わって新しい講座を開くことになりましたの。最近、帝都に出没しているこの方たちの……」

 そうして、ミゼット嬢が出てきた奥の部屋に招かれて、中に入ってみると……

 スケッチブックを手にして、サッサッサと鉛筆を走らせている女の人が壁際の丸イスに座っていた。

 この方は、こないだエスニョーラ邸に来ていたベレー帽に茶髪の長い髪をした若い画家さんだ。

 そして、彼女の前には、思いも寄らない人物たちが身動きせずにイスに座って彼女の方を見ていた。

 ……私が女騎士に抜擢されてしまったあまり、本来なら姫の護衛を務めるはずだったのに、毎日ヒマを持て余している人たち。

 ナディクス国からやってきた美形の同じ顔した白騎士トリオだった。

 え……? 何、どういうこと? 王子様のワークショップの代わり?

「とってもお目立ちになる彼らは、その辺りに生えている草やお花なんかで手作りの化粧水やクリームなどをお作りになっているのですよ」

 ミゼット嬢の話を要約すると、いつもナディクスで使っているスキンケアグッズが帝都ではあまりに高いので、彼らは幼い頃から持ってる美容知識を駆使して、自前で作っていたのだという。

 そんな姿に、興味津々な帝都住民が何してるか聞いたりしてるうちに、ファンクラブ会長のオリビア嬢やミゼット嬢の耳にも入って、彼らをスカウトするに至ったとのことだった。
 ナディクス式の、家庭で手軽にできるスキンケアワークショップを彼らを講師に、今度開くのだという。

「……という訳で、彼らの姿を広報誌の挿絵に使うことになりましたの。わたくしは、付き添いでこちらの画家様の所におりますのよ。ところでエミリア様、何かお困りの様子でしたけれど、いかがいたしましたの?」

 私は、ミゼット嬢に皇女様のお誕生日パーティーの絵姿を画家さんにお願いしたい話をした。
 すると、彼女はそばにいた彼女の女騎士さんから手帳を受け取って、パラパラとめくった。

「まぁ、そのお日にちでしたら……ちょうど次の広報誌の挿絵の予約で取っていますわよ! しかも、エル様は皇女様のそのパーティーに出席すると思っていましたから、画家様へはそのご様子を描く予定でお願いしていましたの!」

 なんと、なんと。
 一時いっときは、もう諦めるしかないと思ってたのに、あっという間にそれが取り越し苦労だったってことが判明してしまった。

 予約の内容を王子様を描くってことから、皇女様を描くって内容に変更してもらって、無事にこの件は解決だ。

「そうでしたわ、あとエミリア様。先日の皇太子様のご帰還式から、ご令嬢たちの間でリリーナ王女様の人気が凄まじいのをご存知かしら? 」

ミゼット嬢は姫のインタビュー記事を広報誌にも載せたいって思ってたそうで、私は姫の秘書のごとくアポ取りにも応じたのだった。


 そんなこんなで、リリーナ姫のエステタイムを駆使して、私は皇女様のお誕生日までに準備しておきたいことをこなしていった。

 そして、パートナー選考会の日。
 帝都には姫のために、たくさんの独身男性が集結し始めていた。
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