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第1章 三姉妹と義妹
05 不審な目で見ないで
しおりを挟む【悲報】月森三姉妹、実は仲がよろしくない
……みたいな。
そんな衝撃の事実を華凛さんから聞いてしまった。
これはわたしにとって大変由々しき事態である。
推しのグループが不仲だなんて、ファン心理としては一番想像したくない場面の一つだ。
しかも、最初からそうならいざ知らず、途中で変化してしまった関係性なのだという。
だとすれば、その仲の改善を望むのがわたしにとって自然な心理だ。
だけど……。
「わたしが出来る事なんてあるんだろうか……」
ようやく部屋の荷物整理が一段落し、ベッドの上でごろんと横になる。
だらりと脱力してみても、頭の中を空っぽにしていくだけだった。
「……うん、何も思い浮かばない。お風呂に入ろう」
こういう時は気分転換も大事だ。
わたしは着替えを持って一階へと下りて行った。
お風呂は一階の渡り廊下の奥にある。
リビングからも入ることは可能だが、リビングには三姉妹がいる可能性があるので廊下から入ることにする。
三人に自分から会うのは、なんせ恐れ多い。
わたしは静かに扉を開いた。
「あらあら」
「……え」
先客がいました。
日和さんです。
しかも、ベスト……じゃなくて、バッドタイミングでした。
日和さんはブラウスのボタンを外している所で、淡いピンクの下着が垣間見えている。
それだけではない。
透き通るような白い肌に、豊満な実りは今にも下着から零れ落ちそうになっていた。
わたしにしてみれば押さえつけられている膨らみも可哀想だし、そんな難題を押し付けられている下着も可哀想である。
とにかく、何が言いたいかというと、日和さんのおっぱいは見るからに大きかった。
「フリーズするのは構いませんが、目線が一点集中してしまうのも考え物ですよ?」
日和さんは朗らかに微笑む。
しかし、腕でさっと胸を隠すあたり、わたしの視線の先には気づいてしまったのだろう。
わたしもガン見しすぎてしまった。
「ご、ごめんなさいっ!ビックリしちゃって(色んな意味で)!」
「いえいえ、この時間はわたしがいつも入るものですから。油断していたこちらも責任がありますね」
ぐっ……。
素肌を勝手に見てしまったのに日和さんの方から非があると言ってくれるなんて……。
悪いのはわたしなのに、なんて優しい人なのだろう。
「みなさん決まった入浴時間があるんですね。ちゃんと把握しておけば良かったです」
「なんとなーく、ですけどね。たまにズレることもありますから。その時は臨機応変です」
「じゃ、じゃあ……こうやって姉妹でばったり鉢合わせることも……」
美しい三姉妹同士が素肌を見てしまう展開……尊い。
「いえ、何となく雰囲気で分かりますから。こんなことにはなりませんね」
「……ですよね」
現実はそう甘くない。
あと、雰囲気で察しなさいと遠まわしにお説教されたような気もする。
そりゃそうだよね。
新参者なんだから、もっと空気を察しないと。
気を付けます。
「それで、どうされます?先にお風呂入られますか?」
「あ、いえいえ!わたしはまた後で入りますので!」
さすがにそれは申し訳ないっ。
「そうですか、それではお先に頂きますね」
「はい!ごゆっくり!」
わたしは急ぎ足で部屋から出て行くことにした。
◇◇◇
「……貴女」
急いで部屋から廊下に出ると、そこには千夜さんの姿が。
何やら訝し気な目線でわたしのことを見つめている。
「あ、はいっ。なんでしょうかっ」
千夜さん直々に声を掛けられるとビクッとしてしまう。
三姉妹の長女ゆえか、千夜さんは最もクールで厳しい雰囲気がある。
「部屋から貴女と日和の声が聞こえてきたのだけど……」
あ、まずいです。
お風呂はどうしてわたしが一緒にいたのか怪しまれています!
「いえ、あの、日和さんの番とは知らずに入ってしまいましてっ。ちゃんと謝りましたっ」
「……日和の体を見るのが目的、じゃないでしょうね」
「め、滅相もない!」
「言葉遣いがおかしいわよ」
「いえ、まさかっ、決して動揺とかしているわけでは!」
「誰がどう見ても動揺しているけど」
くっ……。
わたしが月森三姉妹に対して恋愛感情を抱いているという誤解のせいで妙に非難めいた態度になってしまう。
「あ、あの……一言いいですか?」
「貴女に発言権があると思っているの?」
「なかったんですかっ?」
「ないわ」
初耳ですっ。
千夜さんの前では発言権すらなかったとは……。
「……冗談よ。貴女は変に遠慮をしているのね」
溜め息まじりの千夜さん。
何とか発言のお許しが出たので、お喋りさせてもらうことに。
「だって、あの月森さんたちが目の前にいるんですから。緊張しっぱなしです」
「……反応に困るのだけど」
「あ、いや、変な意味じゃなくてですねっ」
「変な意味にしか聞こえないのだけど」
わたしは告白までするような恋心を持っていると思われている。
それがあらぬ誤解を生んでしまうのだ
わたしとしては、その認識を改めたい。
「わたしにとって皆さんは憧れなんです」
「憧れ?」
「はい。三人が手を取り合って生きている様が、わたしには綺麗に見えるんです」
「……そんなにいいものではないと思うけど」
華凛さんも言っていたように、今の三人の距離感は変わってしまったから。
だから千夜さんはそんなことを吐露してしまうんだと思う。
でも、だからこそ、わたしにしか出来ないこともある。
「だからわたしも、日和さんや華凛さんのように信頼してもらえるように頑張ります」
「……」
その言葉に、千夜さんは数拍開けて
「やっぱり貴女、変わってるわね」
千夜さんはそのまま階段を上がり、自分の部屋へと戻っていくのだった。
推しの関係改善を求めるのはファンとして当然の心理。
それが何よりの幸せなのだ。
だから、月森三姉妹の仲を取り持つ。
それが花野明莉の義妹としての存在意義だと、気付いたのだった。
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