75 / 80
最終章 決断
75 数字の扱いにはご注意を
しおりを挟む認められません……。
わたしがメイドでご奉仕とか……誰得なんですか。
そんなお客様を不幸にするような行為を容認するわけにはいきませんっ。
「他に変更の希望はないでしょうか? なければ、これで決定したいと思います」
……ぐ、ぐぬぬ。
ですが、わたしは手を挙げられずに話の進行を見守ってばかりいるのでした。
あの、大勢の前で手を挙げるって緊張しませんか?
しかも、その内容が“わたしをメイドにするのはやめて欲しい”という私的な内容。
こんなのを公然と発言しなければいけないツラさ……。
というか、皆さん何とも思ってないんですか?
わたしがメイド役に名を連ねていることに疑問が湧かないのですか?
実力不足だとか内心思ってないですか?
人前で話したくないという緊張と、鼻で笑われているんじゃないかという疑念が合わさって意識がドロドロに……。
「……(じっ)」
「……え?」
どうしたものかと焦り続けていると、こちらに向けられている視線を察知します。
冴月さんのものでした。
目が合っても何かを発するでもなく、すぐ黒板の方を向いてしまいました。
「はーい、学級委員長さん、ちょっといいですかぁ?」
すると、おもむろに挙手する冴月さん。
「何かしら、冴月さん」
こういう時はお互いに“さん付け”で呼び合うんですね。
不思議な距離感……。
「花野が何か言いたそうにしてるけど?」
!?
冴月さんっ!?
さっきの視線でその意図を感じ取ってくれていたのですか!?
嬉しいですけど、こ、心の準備がっ。
「花野さん、何かあるの?」
千夜さんに静かに問いかけられます。
ですが、わたしは慌てふためくばかり。
「あ、え、ええと……その」
ここまできて何も言わないわけにはいかないです、よね。
ゆ、勇気を出して……。
「そう、何もないのね。それではこれで決定とさせて――」
「……!?」
千夜さんっ、切り上げるの早くありませんかっ!?
どう考えてもこのままメイドさんになる方が地獄だと、わたしは来たる未来に目を向けて意を決します。
「あ、あの! わたしはメイドではなくて調理班に回りたいですっ!!」
よ、よしっ。
言えましたよっ。
「それは出来ないわ」
「うええ!?」
まさかの拒否!!
そんなことあるんですかっ!?
「メイドの方は自薦と他薦を取らせてもらっています。特に推薦者数が多い方には優先的に担当してもらうようお願いしているんです。役割の性質上、他人から選ばれる方が適任でしょうから」
「え、わたし、そんな希望してませんけど……」
「いえ、花野さん、貴女は他薦枠です」
「はいっ!?」
だ、誰ですかっ。
そんな悪戯した人……!!
こ、これは……集団でわたしはイジメられている!?
「う、内訳を……! 内訳を見せて下さいっ」
もしかしたら、メイド役ではない方も推薦をうけているかもしれませんから。
その人にお願いするように話を誘導すれば……。
「本来見せるつもりはありませんでしたが……まあ、クラス内のアンケートですから問題ないでしょう」
円グラフが表示されます。(準備良すぎでしょう、千夜さん)
そこには円の割合をほとんど埋めている月森千夜・日和・華凛さんのお名前。
次に冴月さんのお名前。
な、なるほど……このクラスでアンケートしたら当然こういう結果になりますよね。
そして、ちょっぴりだけ埋めている花野明莉の名前……。
うそでしょ。
どういうことかと思って数字を見つめていると、
【投票数:4人】
と記載されていました。
……4人!?
その数字に思い当たる節がありすぎて、わたしは教室を見回します。
(か、華凛さんじゃ……!)
――バッ!!
華凛さんを見たら、物凄い勢いで首を回して視線を反らされました。
明らかすぎます。
(では日和さんは……?)
――♡
目が合ったらニコニコすまいるで手でハートを作ってました。
なるほど、隠す気はないようです。
恥ずかしいのでわたしの方から目を反らしました。
(もしかして冴月さんも……?)
――しーん。
あれ……。
一切こっちを向いてくれる気配がありません。
さっきは、わたしの無言の間をあんなに汲み取ってくれたのに。
わざと避けられている気が……。
(じゃあ最後は千夜さん……?)
「これは決定事項ですので変更は出来ません。文化祭の役割分担については以上になります」
話を唐突に終わらせた……!?
この力技……明らかに千夜さん個人の意思を感じてなりません。
結局、わたしはメイドさんをするしかないのですね……。
しかも、麗しの月森三姉妹と冴月さんとご一緒に……。
い、いやだ……。
月とスッポンすぎてツラいぃ~……。
◇◇◇
「あ、あの……千夜さん、ちょっといいですか?」
「何かしら?」
話し合いが終わったタイミングでちょうど一人でいた千夜さんに話しかけました。
「その……そもそも、わたし役割分担のアンケートをとっていたこと自体知らなかったのですが……」
そんなアンケート用紙を配布された覚えもありませんし。
「私が個人に直接聞いて回ったのよ」
「え、あ……それ、わたしのこと忘れてませんか?」
そんなアンケートを聞かれていたら、絶対にわたしは調理班を希望していたはずです。
「いいえ、聞いたわよ」
「え、嘘……?」
「貴女は“何でも大丈夫です”と、答えていたわ」
「ええ……!?」
そんな記憶どこにもありません。
いつの何の話でしょう。
「そう、忘れてしまったのね」
「え、いや……忘れると言うか、そんなこと自体がなかったというか……」
「忘れた人は皆そう言うのよ」
「ま、待ってください。じゃあ、その聴取したデータを見せて下さい」
あそこまで事細かにデータ管理していたのですから、アンケート内容もあるはずですっ。
「さ、私は次の事案を詰めなきゃいけないの。生徒会室へ急ぐから、これで失礼するわね」
「え、ちょっ、千夜さ……」
取り付く島もなく、千夜さんは足早に教室を去って行ってしまいました。
に、逃げたようにも見えるのは気のせいでしょうか……。
◇◇◇
「花野、一緒にメイドじゃん。かったるいねぇ」
席に着き頭を抱えていると、うっすらと微笑んでいる冴月さんが話しかけてきます。
かったるそうには到底見えません……。
「嫌です……やりたくありません……」
「まあまあ、決まっちゃったんだからしょうがないじゃん」
あっさりと決定を受け入れられている冴月さん……。
“わたしを推薦したんですよね?”なんて、いまさら聞いても仕方ありません。
仰る通り、決まったのですからやる他ないのです。
「それでさ、メイド喫茶の時以外の自由時間は何すんの?」
「え? 展示物の鑑賞じゃないですか?」
文科系の部活が展示してくれている作品を延々と眺めるのです。
知的でアーティスティックな空間なので、一人でも許される気がしません?
問題なのは終了時間までいなきゃいけない事なんですけどね。
屋台とかライブとかには絶対に行きませんよ。
あんな陽キャ空間、色んな意味で浮きますから。
「そ、それじゃさ、わたしと一緒に回らない……?」
「なんですと?」
そ、そうか。
今のわたしにはそんな展開が……!!
――ピロン、ピロン、ピロン
「おや……?」
スマホからメッセージが届いています。
月森千夜・日和・華凛さんからでした。
ああ……これは……。
「どう、別にいいでしょ?」
「あ、えっとですねぇ……」
やはりと言いますか、嬉しい悲鳴と言いますか……。
体育祭の再来を予感させました。
「時間を決めさてもらってもいいですか、ね……?」
1
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる