76 / 80
最終章 決断
76 華凛さんが慰めてくれます
しおりを挟む文化祭当日。
わたしは地獄の苦しみを味わっていました。
クラスの出し物はメイド喫茶。
そして、わたしはそのメイ……ぐふぉえっ。
とにかく、そんなことをやらねばなりません。
メイドは二班に分かれ、午前の部と午後の部を1回ずつ担当するようになっています。
そして、わたしの担当になっている班のメイドさんたちと言えば……。
「お帰りなさいませぇ、ご主人様ぁ?」
愛らしく撫でるような心地よい声音。
そのふくよかなボディラインと物腰の柔らかさは理想のメイドそのもの。
メイドさんが板につきすぎている日和さん……。
お客様は皆、その接客にご満悦な様子でした。
「あ、えーと……お嬢様? おまじない掛けますね? なんだっけ……あ、そうそう、美味しくなーれ!」
と、慣れない手つきでオムライスにおまじないを掛ける華凛さん。
……可愛い。
生来の愛嬌と、慣れないお給仕姿はちょうどいいギャップになっていて見ていて微笑ましいです。
「外は賑わっていますので道中にはお気を付け下さい、行ってらっしゃいませお嬢様」
綺麗にお辞儀をして退店されるお客様を見送る千夜さん。
う、美しい……。
その凛とした佇まいと、クールな面持ちは理想のメイドさんです(二度目)
それだけ完成された御姿だったのです。
「ん、ケチャップでハート? あははっ、そーいうのムリなんだよね。あんたの名前書いてあげるからそのまま食べれば?」
冴月さんは、お友達が多いからでしょう。
気心が知れた方とワイワイやっています。
自分の顧客を呼び込む……ビジネスとして成立している陽キャムーブ。
何もメイドとしての接客対応を極めることだけが答えではないと、その在り方を見せつけられます。
「あ、お嬢さま……。お席はこ、こちらになります……」
そんな容姿端麗の方々が、それぞれの個性を発揮させている中ですよ。
わたしと言えば、このオドオド態度っ。
容姿も良くなければ、愛想もないしギャップもない、かと言って気心が知れた方もいないっ。
明らかに浮きまくっている存在、それがわたし花野明莉っ。
いやだぁ……逃げたしたいぃ……。
◇◇◇
わたしの午前の部は一旦終了、午後まで空き時間となりました。
「よっし明莉、約束通りあたしから一緒に見て回ろうね!」
制服姿に戻って廊下に顔を出す華凛さん。
自由時間は皆さんと時間を分けて過ごすことになりました。
それは大変喜ばしいことなのですが。
「……はぁ」
「どしたの明莉、そんな窓の外なんか見つめて」
「……雲に、なれませんかね」
「なんで?」
「風に流されればいいだけですので、メイドをやる必要もありません」
そう、あの青空に浮かぶようにぷかぷかと。
「な、なんか暗くない……?」
「ふふっ、わたしが暗いのなんていつもの事じゃないですか」
「おお、ネガティブ……」
ちらり、と交代したクラスメイトさんたちのメイド姿に目を配ります。
皆さんお上手です。
「華凛さん、今からでも遅くありません。午後の部はわたしと調理班の人をチェンジしてもらいましょう」
誰がやっても、わたしよりは上手にやってくれるでしょう。
「まーまー、そう言わずにさ? あたし達とせっかく一緒になれたんだから頑張ろうよ、ね?」
屈託のない笑顔を浮かべて、わたしを宥めようとしてくれますが……。
「……華凛さんたちが計画して、わたしを一緒にしたんじゃないですか?」
――ギクッ!
と聞こえてきそうなほど、背筋を急に伸ばす華凛さん。
図星ですね、いえ、分かってましたけど。
それも嬉しいんですけど……ですが。
「きっと、至らないわたしの姿を見て誰か噂しているに違いありません。もう学校中に知れ渡っているのかも……」
華のメイドに異物が混入しているぞ、と。
もう学校に居場所はありません……。
あ、元々でしたか。
「そんなこと言ってたら、今から文化祭見て回れないよ?」
「……雲になれば、お空から見て回れますかね」
そう、わたしは天空から皆さんを見守る概念的存在へと……。
「もう明莉は急におかしくなるんだから、ほらっ」
「うええ」
ぐいっと強く手首を掴まれます。
「いいから一緒に行くよ!」
そのまま華凛さんに連れて行かれます。
その手は中々に力強いのでした。
「あれ……?」
華凛さんに連れて来てもらった場所は体育館裏でした。
「ほらほら、座って」
据えられているベンチを指差されて、一緒に腰を下ろします。
「華凛さん、どうしたんですか?」
てっきり文化祭を見て回るものと思っていたのですが……。
「休憩、休憩っ。明莉も疲れてそうだったし、ちょうどいいでしょ?」
「あ、はい……」
確かに、どこも人がたくさんいたので。
このような人気のない場所は落ち着きます。
「……あたしは、その、明莉のメイドさん、よかったと思うよ?」
おもむろに、言葉の端々を震わせながらそんなことを言うのです。
「華凛さん、それ黒歴史なのでそっとしてもらっていいですか?」
「黒歴史になるの早すぎない!?」
「もう過去のことです」
「午後にもう一回やるよっ!?」
認めたくない……認めたくありませんっ。
「それで言ったらあたしも千夜姉とか日和姉に比べたら全然だったし。お互いに苦手なこと頑張ったんだから、気にしなくていいんじゃない?」
「華凛さんのような天性の愛嬌を持つ人と一緒にしないで下さい……」
ギャップは萌え要素ですが、陰が陰をやるのは迷惑要素なのです……。
「こーらっ」
――ぽこっ
「あいた」
と、頭が少し揺れました。
華凛さんに小突かれていたようです。
「あたしは本当に明莉のこと良かったと思ってるんだよ? だから、そんなこと言わないでよ」
「で、ですが……さすがに華凛さんと一緒というわけには……」
「色眼鏡だって言いたいの?」
じとっ……と、湿り気を帯びたような視線を向けられます。
「あ、ええと……その可能性も否定はしきれませんよね」
こう言うのも何ですが、華凛さんはわたしのことを好いてくれているので……。
ある程度贔屓目になってもおかしくないと思うのです。
「でもさ、それ含めて明莉の魅力なんじゃないの?」
「……えっと」
「あたしの視線を奪ってさ、その姿を可愛いと思わせてくれる。そうさせたのは明莉自身なんだよ?」
そんなことを言われたらどんな反応をしたらいいのか……。
こ、困ります……。
「明莉は自分のこと信じるのが苦手なんだろうけどさ。でもあたしの言葉なら、ちょっとくらいは信じられない?」
「華凛さんの言葉であれば説得力しかありませんけど……」
そう答えると、華凛さんは腕を伸ばしてきました。
「明莉はね、自分が思ってるよりずっと魅力的で素敵なんだよ」
その手の平は、わたしの頭の上に乗せられていました。
ふわりと頭の上に心地よい感触が伝わります。
「あたしを惚れさせた人なんだから、もっと自分を信じてあげて……それがあたしの気持ちだよ」
そうして華凛さんはわたしの心を静めるように、頭を撫でてくれたのです。
その手の平から伝わるぬくもりが、胸の熱さに変わっていくような。
そんな初めての感覚を教えてくれたのです。
6
あなたにおすすめの小説
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
白雪様とふたりぐらし
南條 綾
恋愛
高校1年生の紫微綾は、生きることに疲れ、雪の山で自らの命を終えようとしたその瞬間――
美しい御小女郎姿の少女・白雪が現れ、優しく彼女を救う。
白雪は実は古の仏神・ダキニ天の化身。暇つぶしに人間界に降りた彼女は、綾に「一緒に暮らそう」と提案し……?
銀髪の少女と神様の、甘く温かなふたりぐらしが始まる。
【注意事項】
本作はフィクションです。
実在の人物・団体・宗教・儀礼・場所・出来事とは一切関係ありません。 作中で登場する神仏や信仰に関する表現は、物語の雰囲気づくりを目的とした創作によるものであり、特定の宗教や思想を推進・否定する意図は一切ございません。
純粋なエンターテイメントとしてお楽しみいただければ幸いです。
百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。
白藍まこと
恋愛
百合ゲー【Fleur de lis】
舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。
まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。
少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。
ただの一人を除いて。
――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)
彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。
あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。
最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。
そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。
うん、学院追放だけはマジで無理。
これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。
※他サイトでも掲載中です。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる