79 / 80
最終章 決断
79 冴月さんに教えてもらいます
しおりを挟むそうして千夜さんと別れ、わたしは中庭のベンチに一人座っているのでした。
最後の約束を果たすため、待っています。
「お疲れー」
「お、お疲れ様ですっ」
冴月さんが姿を現しまた。
「いやぁ、ようやくこの時間が来たのね」
午後の後半なので、冴月さんを長らく待たせてしまいました。
そのせいなのか大きく伸びをしながら、やれやれと溜め息を吐いています。
「お待たせしてすみません」
「ま、月森三姉妹にモテモテの花野は忙しいんだから仕方ない」
それは皮肉まじりなのか、どこか心ここにあらずな発言でした。
「それでどう、楽しかった?」
「メイド喫茶ですか……?」
正直、楽しいと言うよりは恥ずかしいが常に勝っていましたが……。
「じゃなくて、月森たちのこと。一緒に文化祭回って楽しかったのかって聞いたの」
「あっ、そっちでしたか。はい、楽しかったですよ?」
「ふーん……」
冴月さんは何か言いたげに流し目を向けてきます。
「じゃあ、月森たちには負けられないなっ」
冴月さんは背を向けて歩き出します。
“ついて来なさい”と、背中が訴えているようでした。
「負けられない……?」
「わたしと一緒の方が楽しい時間にしてやるってことっ」
そう言って快活な笑顔を覗かせる冴月さん。
そんな真っすぐな感情をぶつけられると、わたしも何だかワクワクしてくるのです。
「どちらに向かわれるんですか?」
「体育館だけど?」
「……え」
しかし、わたしのワクワクは数秒で雲行きが怪しくなります。
体育館……?
そこで行われる催しと言えば……。
「あの、何をしに……?」
「ライブに決まってんじゃん、ちょうど今から友達の出番なんだよね」
ひ、ひいいぃぃ……。
忘れていた。
冴月さんは陽キャ。
人付き合いも良ければそのコミュニティも当然の如く陽キャ。
わたしとは別世界の住人。
「なに微妙な顔してんのよ、こっちがいきなり心折れそうになるんだけど」
「いえ……あの、そんな空間に馴染める気がしなくて」
「大丈夫だって、いつもクラスにいる子たちなんだから」
「……黒歴史になるかもしれないリスクを背負って、人前で演奏や歌ってアオハルを謳歌できる人たちの空間ですよね? わたしなら消滅しそうです」
「無茶苦茶いってるけど……それで言うならさっきのメイドもあんたで言うところのアオハルじゃないの?」
ああああああ……。
そう言われるとそうですよねぇ。
完全に黒歴史コースですもんね、アレ。
「ま、何でもかんでも決めつけたらよくないって。行ってみたら案外イケるって」
「ええ……」
「つまんなかったらすぐ出るからさ、とりあえず行ってみようよ」
でも、そうですよね……。
わざわざ誘って頂いてるのに、お断りするのは失礼です。
「わかりました、行きます」
◇◇◇
体育館に足を運ぶと、薄暗い室内にステージ上にだけスポットライトが当たっています。
楽器の演奏がスピーカーを通して重低音を鳴り響かせます。
そのメロディと歌声が重なり、その空間には熱狂が生まれていました。
「知ってるこの曲?」
「あ、はい」
それは最近ネットでも流行っている曲で、わたしでも知っていました。
聞き馴染みのある曲をクラスメイトが歌っている。
それを大勢の生徒たちと共有して盛り上がっている、不思議な空間でした。
「どう、けっこういい感じじゃない?」
「そう、ですね……」
正直馴染めるかと言えばまだまだ時間は掛かりそうなのですが……。
ですがライブの音の大きさは隣同士の声しか通さなくなり、人々の視線はステージ上にだけ注がれるので、居心地は思っていたよりも悪くなかったです。
それでも、こんなにすんなりと居座れるのは、冴月さんがいてくれるおかげでしょうけど。
一人だったら音楽を感じる余裕もなく、速攻で帰っていたと思います。
「でも、まさか冴月さんとこうして文化祭を一緒に見て回る日が来るとは思ってませんでした」
人生とはどう転がるのか分からないものですね。
「何よ、そんなにわたしとは嫌だったわけ?」
「あ、そういう事ではないのですが……こんな仲になるとは思ってなくて」
「……月森に告白させたこと、まだ根に持ってるんでしょ」
ちょっとだけ重々しい冴月さんの声音。
「根には持ってませんけど、わたしはてっきり嫌われているものと思ってましたから」
つい最近の出来事のはずなのに、もはや遠い昔の出来事のようです。
「アレは、わたしも必死だったのよ……」
「そ、そうなんですよね……」
まさかわたしに対する恋心ゆえの行動とは夢にも思わなかったです。
「でも後悔はしてないから」
でもそこから冴月さんのその言葉はやけにはっきりとし始めて、迷いは一切感じられませんでした。
「わたしは花野のことが気になるから、はっきりさせたかった。方法は間違ってたかもしれないけど、想いは間違ってなかったと思う。だから迷惑をかけたかもしれないけど、後悔はしてない」
目線はステージを見つめたまま、その言葉は想いを乗せてわたしへ届けられます。
そのむき出しの感情を、躊躇いもなく表現できる冴月さんはすごいと思います。
わたしはそんなにありのままの自分を見せることは出来ません。
「だから、ね」
隣同士に立つわたしたち。
冴月さんの手が、わたしの手を握っていました。
指と指が絡んで、二つのものが一つになっていく感覚。
周囲を囲む生徒達の熱狂の渦にありながら、冴月さんの手からはそれ以上の熱が伝わってくるようでした。
「わたしはあんたを諦めない。どれだけ間違って惨めで滑稽でもいい、最後に隣にいるのがわたしであればそれでいいの」
ライブの演奏や歌声、周囲の喧騒すらもわたしの耳には届きません。
今はただ隣にいる冴月さんの声と温度しか、わたしの世界には届かないのですから。
6
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる