百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと

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本編

21 咲かない花

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「ふわぁ……」

 朝、目覚めてカーテンから零れる陽ざしを見て思う。

「……あ、今日休みだったか」

 土曜日である。
 つまりは休日、お休みという事だ。

「うへへ……寝るぞぉ……」

 不覚にもいつもより早く目覚めてしまったが、休みの日の朝に目覚めるなんて勿体ない。
 あたしは惰眠を貪る。
 だってここ最近は慣れない学院生活に、トラブルが目白押しだった。
 せめて休みくらいは自由を謳歌したい。

「わはー、ベッドさいこー」

 ふかふかシーツに枕とお布団。
 これさえあればあたしは幸せになれる。
 お手軽な女だが、それでいい。
 そんなわけであたしは再び夢の続きを……。

 ――コンコンッ

「……」

 ノックの音が響いた。
 誰かな、せっかくの休みに。
 そもそもゆずりは柚稀ゆずきの部屋を訪れる人なんて皆無に等しい。
 という事は察するにアレだな、多分部屋を間違ってしまったんだね。
 答えは出たので、あたしは心置きなく夢の世界に旅立つ。

「ぐぅー」

 ――ガンガンッ

「……む」

 ――ダンダンッ!

「……う、うるさい」

 徐々にノックの音が強くなっていく。
 なんだよ、居留守してるのに。
 休みにあたしに用がある生徒なんているわけないのに。

 ――ダダダダッ!

「あーはいはい、分かりました、行きますっ、行きますよっ!」

 飛んで行ってしまった眠気と、温かな布団のぬくりもを手放すのを名残惜しく思いながらベッドから立ち上がる。
 これでしょーもない内容だったら許さんぞ、来訪者。

「もー、だれ? あたしは忙しいんだけど」

 眠気眼をこすりつつ、扉を開ける。
 悪戯だったら怒るよあたしは。

「そんなパジャマ姿で忙しい人間がいるだなんて初めて知ったわ」

「……へ?」

 目の前に立っていたのは制服姿の千冬さんでした。
 うーん。
 今日は休みだよお嬢さん。

「何か用でしょうか」

「ボランティアに行くわよ」

「ノーサンキュー」

 ――バタン

 さ、寝ましょう。
 あたしはノーが言える日本人。
 休みの日くらい寝なくては、それくらいの自由は謳歌させてよねっ。

「こら、ゆずりは

 しかし、首根っこを掴まれてベッドまでの進行を邪魔された。

「うおおお、千冬さん当たり前のように部屋に入ってこないでくれますかっ」

「貴女が逃げるからよ」

「逃げてないっ、ここあたしの部屋だから」

「だから、出て来なさいと言っているのよ」

「なんで?」

「ボランティアに行くからよ」

 いやあああああああ。
 休みの日にふさわしくなさすぎるワードだ。
 何が悲しくて休日に無給の奉仕活動をしなければいけないのか。
 その精神は尊ばれるべきものとは思うが、堕落しているあたしには無理だっ。

「あ、あたしは忙しいのっ」

「何か予定があるの?」

「寝る」

「来い」

「ぐえっ」

 改めて首根っこを強めに引っ張られる。
 くそぉぉ……。
 休日を邪魔する権利は誰にだってないはずだっ。

千冬ちふゆさん、確かにあたしは千冬さんを副会長に当選させるためにこの身を犠牲にする事は厭わないと言いました。でも休みは休みです、休む日なんです」

「良かった、これは生徒会選挙に関わる事よ」
 
「……え」

 喉の奥がひゅっと締まった。

「“あたしは千冬さんを副会長に当選させるためにこの身を犠牲にする事は厭わない”……のでしょ?」

「……うう」

 カッコいい事言うのって簡単だけど、実行するのって難しいよね。



        ◇◇◇



「……さむ」

 恐ろしい。
 何が恐ろしいって、時間はまだ朝六時を迎えたばかり。
 おかげで夏なのに、まだひんやりとした涼しさがあった。
 何なら学校の日より朝早いって、どゆこと。

「……あれ、あの子よあの子」

 案の定、ボランティア部の皆さまには遠巻きにヒソヒソと噂話をされている。
 “なんで問題児がボランティアに?”なんて会話内容なのは聞こえなくても想像がつく。

「ほら、シャキッとしなさい」

「あたっ」

 すると千冬さんに丸まったあたしの背中を叩かれて、無理矢理伸ばされる。
 こんな早朝に駆り出されて、ボランティアに参加して、噂話されて……シャキッと?

「あたしはそこまでMじゃない」

「何の話よ」

「こんなアウェイで噂話されるのツラい、あのイメチェン柚稀に戻りたい……」

 そうすれば、ひとまずボランティア部の皆さまに噂話をされる事はなくなるだろう。
 “あの人誰?”とはなるかもしれないが。
 その方がずっといい。

「馬鹿ね、それが目的なのよ」

「あたしを嘲笑ちょうしょうまとに……? 千冬さん、さすがに鬼畜すぎる」

 クールビューティーとは思っていたけど、それはやりすぎだ。
 もうちょっと優しさ成分が欲しい。

「そうじゃなくて、貴女のイメージ改善のためよっ」

「……なんと?」

「貴女がボランティア部の活動を真面目に手伝っていれば、少なくとも悪い印象は持たれないわ。印象っていうのはね、“見た目”なんて浅い所で変えようとしたって無駄なの。地道な努力と積み重ねによってもたらされるものよ」

「……な、なるほど」

 ぐうの音も出ない正論だった。

「ふん、だからそんな浅はかなアドバイスしか出来ないルナ・マリーローズは駄目なのよ。成績は優秀かもしれないけど、積み重ねがない者の発言には厚みがないわね」

「……ん、え?」

 唐突のルナへのディスが始まる。
 いや、千冬さんの意見は正しいとは思うけど。
 ルナの意見も間違ってないと思うよ?

「何よ、貴女は私の責任者でしょ。どちらの意見を優先するのよ」

「……いや、これはそういう話ではないと思うんですが」

 千冬さんの圧が増してくる。
 怖い怖い。
 話題を変えよう。

「でもさ、なんでボランティア? なんか言い方悪いけど、いかにも“いい事してますアピール”になっちゃって逆効果にならない?」

 それも問題児と揶揄される楪柚稀が突然ボランティア部の活動に参加するのだ。
 裏があると思われる方が自然だ。

「いいえ、ボランティア部の活動には生徒会役員も参加する事があるの。今は選挙期間だから誰もいないけれど、代わりに候補者が参加して意欲をアピールするのは珍しい事ではないわ」

「あ、そうなんですか……」

 今回の集まりにも候補者は数名いるらしい。
 そんな細かい設定までは網羅していなかった。

「だから責任者のに違和感を持たれる事はないわ、は違和感を持たれるでしょうけれど」

「あ、結局アウェイてことだね……」

「それを覆す為にやるんでしょっ」

「はい、仰る通りですっ」

 なるほど、確かにこれは千冬さんの副会長就任に向けての足掛かりにはなる。
 あたしがやるべき理由には十分だった。

「それでボランティア部の活動って、何やるの?」

「“雑草取り”よ」

「……え」

「生徒会が普段手伝うのは公共施設の奉仕だから、この手の仕事を手伝う事はないのだけど。意欲をアピールするには良いでしょ?」

「ざ、雑草取り……」

 休日の、早朝に、寒い中、噂話されて、草むしり……。
 え、これなんの物語だったけ……?

 【Fleur de lis フルール・ド・リス

「こんなの百合ゆりじゃない!!」

「は、百合? 雑草取りって言ってるでしょ、花を摘んでどうするのよっ」

「咲いてない、どこにも百合が咲いてない!!」

「だから、花は摘まないのよ!!」

 うえーん。
 タイトル詐欺はお客様からのクレームが届いちゃうんだからねっ。
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