百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと

文字の大きさ
40 / 77
本編

40 人は矛盾を孕むもの

しおりを挟む

「ぐぬぬ……ルナがあそこまで無関心だったなんて」

 明璃あかりちゃんと接する機会が少ない事は否めない、何かきっかけがあればすぐに仲良くなれるはずなんだけど……。
 でも、あの調子では無理強いをしたら逆効果になってしまう気もする。
 無理は禁物。

「それにこれだけで諦めるわけにもいかない」

 当然だが、フルリスは百合ゲーなのでマルチエンディング。
 各ヒロインの専用ルートが用意されている。
 今はひとまず意識を切り替えて、他のヒロインさんにアプローチを掛けてみるしかないよね。

「ともあれ、あたしだけで行っても駄目だ……」

 あたしの失敗は一人で話を進めてしまった事だろう。
 やっぱりこういうのは本人がいないと、相談する側もされる側も説得力が変わって来る。
 というわけで、あたしは明璃あかりちゃんがいるであろう食堂に向かう事にした。






「……あ、いたいた」

 食堂の隅に一人ぽつんと座っている明璃ちゃんを発見する。
 ヴェリテ女学院はカーストを表にこそ出さないが、確実に上下関係を意識して暮らしている生徒がほとんどだ。
 そのコミュティは強固に形成されていて、そこに入るのも出るのも至難の業。
 転入生である明璃ちゃんがアウェイになるのは必然だった。
 でも本来の明璃ちゃんなら、ヒロインと一緒にいる事がほとんどだったんだよなぁ。

 ……ああ、これもあたしのせいだと思うと罪悪感が。

 心のモヤモヤを振り払うように歩き出す。
 良くも悪くも最近のゆずりは柚稀ゆずきは目立つので、こういった集団の場でも奇異の視線が集まってしまうが、気付いていないフリをする。

「ここ、席いい?」

「えっ……あ、は、はいっ!」

 慌てる明璃ちゃんの反応をよそに、あたしは対面の席に座る。

「め、珍しいですね。柚稀ゆずきちゃんがこちらに来るの……」

 ゆ、柚稀ちゃんて……。
 そ、そうだったな……。
 この子、あたしのこと名前で呼ぶようになったんだ……。
 違和感はあるけど、気にしないようにしないと。

「うん、ちょっと小日向こひなたに会いに来てね」

「わっ、そうだったんですかっ」

 ぱっと顔を明るくする明璃ちゃん。
 反応が良すぎて、こっちにまでハッピーオーラが押し寄せてくる。

「柚稀ちゃんも何か食べます? ご飯まだですよね?」

「え、ええ……まぁ……そうしようかな」

 いつもは一人遅くに来ているのだが、確かにこのタイミングであれば一緒に食べる方があたしとしても楽だ。

「そうですよねっ、それじゃ行きましょうっ」

「え、あのっ、ちょっ」

 明璃ちゃんがあたしの手を引いて立ち上がる。
 受付の方にメニューを伝えればいいだけなのだが、何がどうして一緒に行く必要があるのだろう。

「さあ、どうぞ」

「あ、うん……」

 よく分からないが明璃ちゃんは嬉しそうにあたしに注文を促す。
 何がそんなに笑顔にさせるのかは分からないが、来たからには注文をしないといけない。

「えっと、このAセットを一つ……」

「はい、かしこまりました」

 後は担当の方が運んできてくれるので席に戻る。

「えへへ、初めて柚希ちゃんとご飯をご一緒出来ますね」

 席に座ると明璃ちゃんが声を弾ませる。

「それでそんなに笑ってるの?」

「はい、嬉しいですからっ」

 ……いい子すぎる。
 後光が差している錯覚すら覚える。
 この純粋無垢な明るさにヒロインはやられるんだな。
 とは言え、今はそのオーラをあたしに向けても仕方がない。

「ご飯の時は普段、一人なんだ?」

「ええ……まだ学院に馴染めているとは言えないので、わたしですから仕方ないんでけどね」

 しょぼんとうなだれる明璃ちゃん。
 ご、ごめんね……。
 間接的にそれはあたしのせいでもあるので、罪悪感が心を締め付ける。

「そうだよね、一人は寂しいよね」

「え、あ、はい」

 だから、そんな明璃ちゃんにあたしはヒロインとの結びつきを作らないと行けない。

「だからね、あたしは小日向が一人にならないように手伝いたいと思っているの」

「……ゆ、柚稀ちゃんっ」

 感動しているのか、瞳がうるうると涙ぐんでいるようにも見える……。
 あの、これマッチポンプだから、そこまで喜ばれるのも心臓に悪いんだよね……。

「ありがとうございますっ、わたしは柚稀ちゃんがいればもう寂しくありませんっ!」

「わ、ちょっ、ちょっとっ」

 テーブルの上に体を乗り出して、あたしの手を両手で握ってくる明璃ちゃん。

「ちょっと小日向、ここ食堂っ。はしたないから、怒られるっ」

「あ、すっ、すみません……」

 指摘してようやく着席する。
 まさかそこまで感情を高ぶらせるとは……。

「ていうか、あたしじゃなくてね。他の人を紹介しようと思うの、それなら寂しくないでしょ?」

「え……どうしてそうなるんですか?」

「ど、どうしてって……だから友達が増えればそれだけ寂しく思う機会は減るわけで……」

「でもわたしは柚稀ちゃんがいれば大丈夫ですよ?」

「……なんでそうなるっ」

「逆にどうして柚稀ちゃんがそんな事するんですか? わざわざそんな事しなくても柚稀ちゃんがお友達になってくれれば十分じゃないですかっ」

 ああーっ。
 ルナにも同じこと言われてたなぁっー。
 あたしの戻したい方向性をあたしが邪魔しているっ。
 でも、それはあたしの行動が起こした結果であって……あたしのゲシュタルト崩壊!

 だ、だが、諦めるわけにはいかない……小日向明璃……君はヒロインと結ばれなければならないんだっ。

「あたしの話は一旦置いといてだね……」

「置いときません」

「……ま、まずはあたしの話を聞いてだね」

「いえ、柚稀ちゃんはわたしの話を聞くべきです」

「……なんで?」

「前から思っていたんですけど、柚稀ちゃんって変ですよね?」

「……まぁ、変だろうね。元素行不良娘だから」

 悪女からモブを目指し、今は恋のキューピッドを目指している。
 うん、変だね。

「はぐらかさないで下さい。柚稀ちゃんは人と関わっているはずなのに、どこか近づかないようにもしています、それって矛盾しています」

「む、矛盾……?」

「ええ、そうです。涼風すずかぜさんとは責任者までやったのに生徒会の話題には触れないですし、羽金はがねさんに認められているのになぜかわたしの事を紹介しようとしていましたし、マリーローズさんに好かれているから外出しているのにどこかよそよそしいですし。矛盾していませんか?」

 前者は楪柚稀の追放ルート回避のためにとった行動であって、後者はこれ以上物語に関わろうとしない為の動きなんだけど……。
 それが変と呼ばれれば、そうなのかもしれないが……。

「ですからっ、わたしにはそんな変な事をする必要はありませんっ。普通に仲良くなって、仲を深めていきましょうっ!」

「え、えっと……」

 い、いいのか……?
 あたしは普通に皆と仲良くなっていいのか……?
 そんな葛藤の中に、少なくともヒロインではなく主人公である明璃ちゃんとは仲良くなっても問題ないじゃないかという気持ちが大きくなってくる。
 そもそも、ここまで言ってくれてるのに断る方が失礼って言うか……。

「じゃあ……小日向とは――」

 ――仲良くしよう、と言いかけて。

「いたっ……」

 頭の奥がバチリと火花が散ったような痛覚が走る。
 同時に大量のイメージが脳内を駆け巡っていく。

「だ、大丈夫ですか、柚稀ちゃんっ」

 心配して手を差し伸べてくれた明璃ちゃんの手を、あたしはするりと躱していた。

「だ、ダメだ……」

「え?」

「あたしは小日向と仲良くなれない……」

 楪柚稀、彼女の深淵に触れたあたしはその暗い感情を拭い去る事が出来なかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...