百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと

文字の大きさ
42 / 77
本編

42 不器用

しおりを挟む

「え、えっと、柚希ゆずきちゃん……?」

 突然のあたしの拒絶的な態度に、明璃あかりちゃんも困惑を隠せていなかった。

「あ、ご、ごめん、小日向こひなた……」

 だけど、あたしが明璃ちゃんとの距離を縮めようとした途端に膨れ上がったのは、ゆずりは柚希ゆずき小日向明璃こひなたあかりに対する執拗な思いだった。

「ちょっと調子悪くてさ、休んでくる」

「あ、はい……お大事にして下さい」

 普段なら率先してあたしを保健室に連れて行きそうな彼女だが。
 あたしの雰囲気を察してくれたのか、心配そうにしながらもそのまま見送ってくれた。
 だけど気分が悪かったのも事実で、あたしには気持ちを整理する時間が必要だった。



        ◇◇◇



「ふぅ……」

 保健室のベッドに横たわり休ませてもらう。
 外部の音から遮断されている静寂さと、飾り気のない無機質な部屋は少しだけ落ち着く。
 時間が経つにつれ、波打っていた気持ちも安定してきた。

「どうして楪柚稀は、あんなにも明璃ちゃんに固執してたのかなとは思ってたけど……」

 楪柚希はとにかく小日向明璃の邪魔をする。
 ヒロインとの関わりがある度に、悪事を働くのだ。
 そんな楪柚稀に対する心理描写などはなく、彼女が向ける一方的な悪意にプレイしているあたしもヘイトを溜めていた。

「だけど、今なら少し分かるな……」

 楪柚希の小日向明璃に対する感情の根本は、羨望だった。
 愛は憎しみに変わると言うが、彼女はそれを体現していた。
 楪柚稀にとって問題だったのは、小日向明璃の主人公としての在り方にあった。

 フルリスにおいて小日向明璃という主人公は、“何者でもない”という事に意味がある。

 ルナ・マリーローズは、多才がゆえに孤独になり。
 涼風千冬すずかぜちふゆは、野心がゆえに孤独になり。
 羽金麗はがねうららは、万能がゆえに孤独になる。

 各々のヒロインが、孤独の葛藤を抱えている。
 だから小日向明璃という存在は、そういった概念に縛られない価値観を彼女達に提示する。
 それはヴェリテ女学院においては異質であり、輝く個性足り得えていた。

 だが、それが唯一、楪柚希にとってだけは許し難い事実になる。

「柚希にとって明璃は全てを持っている憧れの人だった……。だから、“何も持たない者”としてヒロインに認められていくのが、柚希だけは我慢できなかったんだ」

 だから楪柚希は、小日向明璃がヒロインと関わる度に邪魔をしてしまうのだ。
 “小日向明璃は持たざる者ではない”、と。
 楪柚希がここまで明確な意図を持っていたかは分からない。
 けれど、潜在意識にはその認識が必ずあったはずだ。

 それを知って尚、思うのだが。

「不器用過ぎるって、楪柚稀あたしよぉ……」

 その一言に尽きる。
 どうしてその感情を素直に言葉に出さなかったのか。
 その欠片でも伝えていれば、二人の関係性は変わっていたのかもしれないのに。
 どうして嫌がらせという表現しか出来なかったのだろう。
 その奥底には好意があったはずなのに。

「それであたしが仲良くしようと思ったらこの拒絶反応だもんなぁ……愛が重すぎる楪柚稀よ」

 きっと、意識の奥底に眠る楪柚稀としての意志があたしの行動を止めたのだろう。
 過去の記憶が突然蘇ったのも、それだけ強烈な感情の動きがあったからかもしれない。
 
「……さて、どうしよう」

 胸の奥にあるドロリとした生暖かい感情。
 これをどうにかしなければ、あたしは消化不良でおかしくなってしまいそうだ。
 楪柚稀が辿る追放エンディングは、やはり彼女にとって何の救いにもなっていない。
 きっと自分の感情が何であるかも分からないまま、学院を去っていったんだ。
 だから、もっとより良い未来があったはずなんだ。

「おい、素直になれって柚稀あたしよ。本当はどうしたかったんだ……? 明璃ちゃんと仲良くなりたかったんじゃないのか?」

 そう思うと、胸がぐわああっと締め付けられる。
 この頑なで意固地で融通の利かない感情が、彼女をおかしくさせたのだろう。

「やれやれ……本当に分からずやだね、君は」

 あたしは状況の整理がついた所で、保健室を後にした。
 この救いようのないアホをどうにしかないとさ。






「……はぁ」

 とは言え、原因が分かったからと言って何か出来るとは別問題。
 こんなメンヘラ悪女をあたしが手懐ける事は出来るのだろうか?
 非常に難題な課題である。

「かと言って無視もできないしなぁ」

 あたし個人の感情としても、この問題を素通りするのは気分が悪いし。
 フルリスにおいても主人公とヒロインのパイプを繋げるために、明璃ちゃんとの距離を縮める事は必要だ。
 どっちの意味でも、あたしは楪柚稀を助ける必要があると思う。

「おや、保健室から溜め息混じりに出てくるなんて……もしかしてサボりかい?」

 すると優雅な足取りで黄金色の髪をなびかせる少女 羽金麗はがねうららが、あたしの前に立っていた。

「サボりじゃないです……ちゃんと体調不良です」

「あはは、ごめんごめん。なかなかこの学院で“サボり”なんて単語も使えないからね、つい」

「改心しましたから」

「感心だね」

 信じてくれるのかいないのか、どちらともとれる軽快な返事だった。

「でも、心を曇らせているようにも見えたけどね? 何かあったのかい?」

「えっと……」

 軽快な語り口でおどけつつも、あたしの様子はしっかりと見ていたらしい。
 抜け目ない人だなほんと。

「ありきたりな人間関係の悩みですよ」

 メンヘラ女子がどうしたら素直になるのか考え中です。

「ふむ……じゃあ、ありきたり続きで、ここは先輩に相談してみるのはどうだろう?」

「悪いですよ、羽金先輩忙しいですから」

「ふふ、可愛い後輩に先輩風を吹かせられないのなら、私は忙しさの方を捨てるよ」

 大人の余裕がすごい……。
 あたしはその心遣いに甘える事にした。

「単純な話ですよ。久しぶりに会った推しが昔とは違う姿になっていて、古参のファンが怒ってるんです」

「ほう……そういう楪くんはどっち側なんだい?」

「古参ファンです」

 小日向明璃という推しに裏切られたと思っている、楪柚稀という古参ファン。

「変わってしまった推しを、受け入れられないんだね」

「そうなりますね」

「なら、その推しの人が変わってしまった過程を知れたらいいよね」

「過程……ですか?」

「うん、過程を辿れば必ず根幹に辿り着くけど、人の根っこは案外と変わらない。そして根を深く知る内に、その先にある枝葉が愛おしくなってしまうのもまた人さ」

 確かに、あたしはヴェリテ女学院に転入してからの小日向明璃しか知らない。
 楪柚稀も、この学院に至るまでの空白の数年間に関しては知らないまま。
 その表面だけを見て、変わってしまったと決めつけている。
 楪柚稀もっと対話をしてお互いの事を知るべきだったんだ。

「……ありがとうございます、やる事が見えてきました」

「お役に立てたなら本望だよ」

 頼りになる先輩のアドバイスを胸に、あたしは楪柚稀と向き合う覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...